中篇

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苦しい。



でも、何が苦しいのかは、よくわからない。

咳をしすぎて腫れた喉を指すのならば、痛いという表現が適切だろう。



いや、痛くて苦しいのは、胸だ。



総司の労咳が移ってから暫くが経った。

咳をするたびに血が出る。


そんな吐血すら、愛しさに変わる。


だってこれは、総司がくれた病。

だからこそ吐き出された血も、腫れた喉も、思うように動かない身体も、それらに伴う痛みも…すべてが愛おしい。




総司は相変わらず労咳に浸食され続けてる。

わかってはいたけど、他人に移して自分を治す風邪方式は通用しなかった。




話が戻るけど、何が苦しいって、そんなの、本当はわかりきってる。

今日、起きた時、私の頬は涙で濡れていた。

原因は、今日見た夢のせいでもある。

私は総司の腕の中で、総司の温もりを感じながら、まだ寝ているその頬をするりとなぞる。




きっと、総司は私より先に死んでしまう。
それはずっと前から覚悟してた。


せっかく愛してくれた人を、愛した人を…愛を教えてくれた人を失うのは本当に嫌だ。
想像もつかないほどに嫌だ。


だけどもし、私が先に死んで総司を悲しませるくらいなら私が苦しめば、それでいい。




でも、ほんとうは、ずっと一緒に居たい。

初めて生きていたいと思った。この人の傍で、ずっと。

なんで労咳になったのが沖田総司なのだろうか、と思う反面、何故自分が愛したのは沖田総司なのか、という疑問。

何故、変若水は労咳を治せないのか、とも思うが、いくら考えてもその答えは出ない。



そして、私を愛してくれる沖田総司がこの世界から居なくなったその瞬間、私の生きる理由も一緒になくなってしまうのだろう。


苦しいと思うのは、総司を失うこと。
辛いと思うのは、総司を愛してしまったこと。
痛いと思うのは、愛を知ってしまったこと。

不幸なのは、私がここに来たこと。そして総司に未来がないこと。



不意に、総司の頬に触れていた手が濡れているのに気付いた。

見れば、総司は閉ざした瞳から涙を流している。


どこか痛いのかと不安に駆られていれば、寝ていた総司はぱちりと目を覚ました。

「総司…?」

起きるなり総司は私を強く、その腕に閉じ込める。


そしてぽつり、と話し始めた。


「僕ね、夢を見たんだ」


「凄く、幸せな夢。…僕の労咳が治って、シアちゃんが自分のことのように喜んでくれて…シアちゃんも労咳が治って、愛の力だね、なんて一緒に笑ってた…」



「戦争も終わって、とにかく平和なんだ。春だから桜が満開で、シアちゃんと僕は桜の木に寄りかかって、手を繋いで寄り添って、景色を眺める。そしてその周辺を元気に走り回る――」

「私たちの子供たち」


総司の言葉を遮って継げば、総司は一瞬驚いた表情になった。


「私も今日、その夢を見たんだよ」と告げれば、そっか、と幸せそうに、力なく笑った。


「ねえ、僕なんだか今日は調子がいいんだ…ちょっと散歩に出かけない?」




悪戯っぽく笑う総司を見れば、私から出た答えはひとつだ。



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