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□強靱 二章
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今、俺はとてつもなく急いでいる。
何故だというと、学校に遅刻しそうだからだ。
昨日、深山と別れた後波原とゲーセンに行きの俺んちでぎゃいぎゃい遊んで波原が帰った後、深夜番組を夜明けまで見ていた。
「くっそう!!うごけぇ!俺のゴールデンレッグゥゥゥゥ!!!」
俺は走った。通行人の白い目も遮り、通行人の女子のスカートが捲れようとも中を見ずに俺は走った。
「さぁせん!!!遅れま…えっ?」
教室についたのはいいが、がらんっとしていて一人を除いて誰もいなかった。ちなみに、その一人っていうのは深山だ。
俺は、何故深山だけなんだ!っと思いふっと時計を見た。…あぁ、なるほどっと俺は納得した。なぜなら今時計が指している時刻は七時だったからだ。
「…はぁ、くっそう〜!そういえば時計電池が切れててんだった!今日買いに行こう」
ここで俺は、あることに気が付いた。なんと、深山は寝ていたのだ。しめた!おでこに『肉汁』と描いてやろうと油性のマジックペンをいそいそと取り出した。
「へっへっへっ、積年の恨み思い知るがいい」
俺は、深山の前髪をたくし上げた。…やっぱ、綺麗な顔してんな…なんだか、ずっと眺めていてくなる。
「……んっ……」
俺がずっと前髪をたくし上げていると、違和感があるのか、眉間にしわがより始めた。
「…いっけね、…やっぱいたずらすんのやーめた。また、やること子供だよなって言われるのいやだし、今日の授業の復習でもやるか」
俺は席に戻り、今日当てられるだろう場所をマークした。
あっという間に、一日は終わり、放課後になった。
「だ・あ・り・ん!帰ろうぜ〜」
「だ・れ・が、ダーリンだ!俺はお前と付き合った覚えはないっての!」
「えっ、突きあうなんて…ダーリンってば!大胆!!」
「うぜぇ…お前は●部さんにでも掘られてろ」
「あはは!ごめん〜でも、●部さんは勘弁!どうせ掘られるなら綺麗なセクシーお姉さまにお願いします。」
「いや、お前に綺麗なセクシーお姉さまはもったいない。だ・か・ら●部さんです!」
「ひでぇ…気を取り直して、帰ろうぜ〜」
「あぁ…いや、今日も先に帰っててくれ」
「なにっ!?また私を置いて他の女と帰る気なの!?この浮気者!!」
「ちげぇって…、今日はわりぃけど先帰っててくれ」
「ちぇ〜、わかったよ。じゃあな!」
「おう!」
さーて、深山をどう落とすかが問題だな。とりあえず今までの状況を整理しよう。まずは、俺が一目惚れして、たまたまリンチにあってるとこを俺が助けたけど、殴られて、それに腹を立てた俺が、いたずらをしようと尾行。で、深山に家がないって…昨日のうちに来いは、さすがに早すぎたかもしれん…。だけど、あんな生活してるなんて言われたらな…今日も説得してみるか…。
「ってか、深山もう帰ったんじゃ!?…明日説得するか…」
俺は、溜め息混じりになりながら即座に帰り支度を始めた。すると、人気のなくなった校庭で、喚き声が聞こえた。
{てめぇ、透かした顔してんじゃねぇよ!!}
《お前、こないだのやつがいねぇとなんもできないんだろ!?》
[なんか言えよこらぁ!!!!]
深山に、こないだリンチしてた奴らがまたちょっかい出してきたらしい。だが、深山は冷ややかな目で不良どもを眺めている。
「べつに、こないだの奴は関係ないよ。それに俺を殴りたいなら殴れば?」
[こいつ!ちょっと綺麗な顔してっからって!!]
不良グループの一番頭の悪そうなやつが、深山に殴りかかった。
だが、次の瞬間そいつが宙に浮いた。そいつは、何が起こったのかわかってないみたいで、混乱したような顔をしていた。
≪てめぇ!調子にのってんじゃねぇ!!!≫
不良グループのもう一人が深山に襲いかかった。だが、こいつも深山に投げ飛ばされた。
しかし、人数が多すぎたのか深山はとうとう抑えつけられた。はっとして、俺は即座に階段を駆け下りた。そして、やっとのことで校庭についた。
{やっぱ、てめぇは一人じゃなんもできねぇオカマ野郎だな!!}
「…っ!…」
グループのリーダー格みたいなやつは、深山の腕を踏みつけながらそう言った。深山は苦しそうな声をあげていた。
ここで、俺の理性はぷつんっと切れた。
………気が付いたら視界は真っ赤で、目の前にはさっきまで深山の腕を踏んでいたやつが血まみれで倒れてて深山は後ろから抱きつくようにして俺を止めてて…どうなってんだこれ、悪い夢でも見てんのか?
「つっ…!なんだこれ…」
「…っ!…いいから!来い!!」
深山は、異変に気付いたのか俺の手を引いて学校から出た。
…いつの間にか、曇り空だった天気は機嫌を悪くして泣いていた…。
その涙が俺達に浴びせるように降りかかった。
天から流れ落ちる涙が俺のYシャツに染みを作る。
最初は、小さな円形で俺のYシャツを染めあげていたのに、空は一層機嫌を悪くしたらしい。だんだんと大きな染みへと変わっていき、Yシャツについていた血と共に流れていった。
その涙を眺めて、虚しくなった。
「おい…いったい何が…」
「………」
「深山…おい!」
「いいから!止まらないで!…ていうか、君の家、どこ…」
いつもの冷ややかな目で見てくる深山の姿はなく、まるで自分の子を守るウサギのような、そんな感じだった。そうこうしてるうちに俺の家についた。俺は大阪の親から、お金を仕送りしてもらってるため、ボロいアパートに住んでる。いや、今はこんなことどうでもいいか…。
「…で、なんであんなことしたの?」
「……すまない。俺覚えてないんだ……」
「…だろうね、君の事あまり知らないけど、いつもと様子が変だった」
「…わりぃ…」
「…謝んなよ、俺が惨めになる…それに、もとはといえば俺が悪いんだ…。俺、小さいことから弱くって、誰かに助けてもらわないと何もできなかったんだ。だけど、俺は一人になっちゃったから…強くなろうと思った。…だけど俺は弱いままで、強い君に、嫉妬して…ごめん」
「…俺さばか、だからさ、よくわかんねけどよ…お前は強いと思う…今だって、ちゃんと自分と向き合ってまだ出会って間もない俺に話してくれてんだろ?今までだって、弱い自分が嫌だから一人で頑張って来たんだろ?」
「…俺は!強くなんかない!!今日だって…あんなことに…俺が、もっと強ければ…こんな結果には…」
「いいや強いよ、お前は。逆に言わせれば、俺が弱いんだよ…今まで今日みたいなことなかったけど、きっと俺の心が弱かったからあんなことになったんだ…だから、決してお前のせいじゃない、俺の弱さのせいだ。」
「だけど!…」
「お前は強い。誇っていいんだ。…っても俺は偉そうなこと言えないんだけどな!なんたって今日の事で明日から絶対謹慎くらうってーの!やべー波原のやつにひざかっくん食らわされるな…そん時は助けてくれよ?」
「……ぷっ!膝かっくんで助けろとか…」
俺がふっと深山の方を見たら、深山は笑いながら泣いてた。今までの重荷が取れたように笑い、そして泣いていた。
俺は綺麗だな。なんて思いながら深山をずっと見ていた。
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