竜の小説集
□恋姫†無双〜白馬の主従〜まとめ(完結)
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シ水関を攻略した連合軍は、次なる難関である虎牢関を目指し進軍。
そして、虎牢関攻略の軍議を開くべく再び諸侯が集まった。
そう。集まったはいいのだが、前回と同様に話が進まない。
月渓は相変わらず苦労している己の主に同情の視線を向けるが、次の瞬間にそれは名門バカの盟主に向けられる。
「虎牢関の先陣は、本郷軍と公孫賛軍ですわ!」
「あら、それは素晴らしい愚策ね」
迷うことなく全員が曹操に同意した。心の中で。
北郷軍と公孫賛軍を合わせても数が多いとは言えず、相手は虎牢関にこもりなおかつ将は飛将軍呂布。
はっきり言って無謀である。
と、考えたところで、指名された当人達に目を移すと袁紹に対し猛然と抗議をしていた。
「じょうだんじゃない!うちはただでさえすくないんだ」
「そうだぞ本初。私の軍だってそうだ。そのうえ敵はあの呂布だぞ!?」
ちなみに孫権と曹操は後曲に下がると言って出て行ってしまう。
「あなた達がなんとかすればいいんですわ!華雄を討ったのは貴方の家臣ですし、伯珪さんにもそこそこ使える家臣がいるのでしょう!?ならば呂布とて討ち取れますわ!!」
「む、無茶言うなっ!呂布って言えば最強の武将じゃないか!!」
「そうだぞ本初!」
しかし、袁紹はもう決めたと指を突きつけ二人に告げる。
「北郷、公孫賛軍に命じます!先鋒として虎牢関に攻勢をしかけ、呂布を討ち取っておしまいなさい!」
「「断るっ!」」
「あら…総大将の言うことがきけないんですの?ならば連合軍全てを敵に回します?」
「なっ…脅しかよ!?」
「いえいえ、これは交渉ですわ」
にこりと声音だけは穏やかに二人に問いかける。
「おい、北郷」
「わかってる……やればいいんだろ」
「お二人ならそう言って下さると思ってましたわ」
悔しげな二人に勝ち誇った袁紹。と、そこまで決まったところで月渓は話に割り込んだ。
「少しよろしいですか」
「なんですの貴方は?」
いきなり出てきた月渓に不審そうに目をむける。
「公孫賛軍の軍師を務める関靖と申します。先鋒は構わないのですが、少々お願いしたいことがあるのです」
「なんですの?」
「名門で素晴らしい袁家の袁紹殿なら取るに足らないことですよ」
「オーホッホッホ!ならかまいませんわ。さっさと決めてなさいな」
作り笑顔で袁紹を持ち上げる月渓の言葉に袁紹は気前よく応じる。
「さすがは袁紹殿。では、お嬢と北郷殿、我らも戻りましょう」
話に乱入され呆気にとられる二人を連れて、月渓は陣幕を後にした。
「あーやばいな…」
口調は能天気なものであるが、月渓は内心冷や汗ものだった。
その理由は目の前の少女にある。
赤髪に褐色の肌、そして手にもつ得物は戟。
そう、目の前に立つその少女こそ、飛将軍と呼ばれる呂布なのである。
月渓は策のどこがまずかったのかなどと現実逃避をしながら戦が始まる前のことを思い返していた。
呆気にとられている白蓮と一刀を連れながら月渓が向かったのは北郷軍の陣だった。
陣につくと急いで愛紗たちを呼んで事情を説明する。
話を聞いた愛紗や鈴々は激怒して袁紹に殴りこみをかけようとしたが、一刀や白蓮が必死に止めていた。
そんな騒ぎをよそに、月渓は朱里に袁紹との約定を説明し、二人で策を練りだす。
そして、愛紗達が落ち着いたところで二人で考えた策を説明した。
まず、北郷軍と公孫賛軍がおとりとなって敵軍を誘い出す。
次に、わざと後退して背後にいる袁紹や曹操、孫権軍になすりつける。
そして、北郷軍は虎牢関に進軍、公孫賛軍は敵軍が虎牢関に戻らないようせん滅する。
なお、袁紹には兵力増強と虎牢関にから出てきた敵軍を連合軍が攻撃するよう命令をだすように依頼する。
以上が、月渓と朱里が考えた策である。
説明を受けた白蓮達はその策に賛成し、袁紹のもとに使者を出してただちに出陣の準備を始めるのだった。
「やっぱり一緒に虎牢関に行けばよかったか…」
確実をきすために残ったのが裏目にでたのを悔みながら月渓は剣を構えなおす。
だが、月渓は全くと言っていいほど彼女に勝てる気がしなかった。
と、沈黙を保っていた呂布が口を開いた。
「こないの?」
あの呂布とは思えないあどけない口調に驚きながらも、言葉を返す。
「正直、勝てる気がしないからなぁ…」
そう言うと、なんと呂布は構えをといて月渓に背を向けた。
「やらないのか?」
「やるの?」
「いや、だって俺は敵だろう?」
「恋は戻る。邪魔しないなら別にいい」
「そうか…分かったよ」
月渓も納得したのか構えと解いて虎牢関に戻る呂布を見送った。
そして、呂布の姿が見えなくなったところで月渓は安堵の溜息を吐く。
「はぁ〜よく助かったなぁ。ありゃ、化け物だ。北郷殿達は大丈夫だろうか…無事だといいが……」
その後、虎牢関は北郷軍によって陥落。
敵将である呂布は北郷軍に、張遼は曹操軍に降ることとなった。
白蓮と月渓はというと、互いに戦の労をねぎらっていた。
「お疲れ様でした。怪我もないようでなによりです」
「ああ、月渓も無事でよかった。呂布と戦った聞いた時はだめかと思ったんだからな」
「正直俺も終わったと思ったんですけどねぇ、運よく見逃してもらったんですよ」
「なるほどなぁ。それにしても北郷達はよく呂布を捕縛できたな」
「関羽殿達も化け物じみてますからね」
「人間やめてるよな」
「流石にそれは言いすぎですよ。否定できませんけどね」
と、愛紗達を誉めてるのかけなしてるのか微妙になってきたところで、袁紹から伝令が来た。
「なんだって?」
「洛陽に向かうように…だそうです」
「はぁ〜ほんと人をあごで使うよな本初って」
溜息をつく白蓮に月渓は苦笑いを浮かべる。
「まぁ、まだうちはマシじゃないですかね。北郷軍なんて先陣きって洛陽に向かわせられるみたいですし」
「だよなぁ」
「それじゃ、ちょっと指示出してきますんでお嬢は休んでてください」
「あぁ、悪いな」
洛陽に連合軍が到着した時、董卓軍の姿はなく、不気味なほどに閑散としていた。
連合の諸侯は不審に思ったものの、洛陽を制圧後、董卓は討ち死にしたのではないか…と結論を出すにいたり、連合軍は解散となった。
そして、今回の戦いで漢王朝の力がないことが完全に露呈し、大陸各地で群雄割拠の時代を迎えることとなる。
「お嬢…」
「あぁ、これからは群雄割拠の時代になる。頼むぞ」
「任せてください。ま、まずは帰って溜まった書簡を片付けることになるでしょうね」
「だよなぁ…」
待ち受けるであろう書簡の山と、この先のことを考えると白蓮と月渓は暗澹となる気分だった。