竜の小説集

□連載予備軍短編集(恋姫以外)と過去拍手
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義久が十歳になると、元服の儀が行われた。

「いやはや、齢十にして元服とは……若様にはまっこと驚かされる」

「山中殿の息女も幼いながらも才気の片鱗をみせていると聞く。若様との仲も悪くないらしいのう」

「これ、義久様と呼ばんか。それに、あれはどちらかというと御兄妹といったところ」

しかりしかりとからかい混じりの笑い声があがる。

だが、その声と表情は何れも喜びを含んだものであり、元服した姿を披露している義久を見る目は期待に満ちていた。

尼子家に仕える家臣達にとって義久は希望であり、いずれJAPAN有数の大名か天下人になると信じて疑わなかった。

無論、全ての者がまるで絵に書いたような理想の若武者に心酔していたわけではないが、尼子が近い将来版図を広げることは確実なのは誰であれ理解しているのだ。

足利政権崩壊により第四次戦国時代が始まってから約百年……現在は尾張を本拠に置く織田が最大勢力を誇っているが、依然として天下を統一できる勢力はおらず、尼子の周囲も戦艦長門の大内、丹波の種子島、姫路の明石、中つ国の宇喜多、赤ヘルの毛利・小早川・吉川などの有力豪族など、正に群雄割拠となっている。

「義久よ。少々早いが、お前もこれより一人前の武士である。儂の息子として、尼子の嫡男として恥ずかしくないようにな」

「はい。尼子の為、民の為にも精一杯励む所存にございます」

故にこそ、本来ならば十二歳から十六歳に行う元服を僅か十歳で行なったのだ。

「うむ。儂は出雲一国で精一杯だが、お前ならば――っと、これはまた後日話すとしよう。今日は家臣達との仲を深めるがよい。先程から待っている者もいるようだしな」

「……ありがとうございます。小鹿。もうよいぞ」

そう言って、晴久は先程から話が終わるのを今か今かと待っていた小鹿に向ける。

晴久だけでなく、義久からも微笑ましい目で見られた小鹿は恥ずかしそうに頬を染めながらも、トテトテと走りよって祝いの言葉を述べる。

緊張はしているものの、噛まずにしっかりと喋る姿からは一生懸命練習したことが伺えた……余計にそれが微笑ましさを助長しているが。

というか、周囲の家臣達も娘や孫を見るような目で見ている。

二年前と身長は相も変わらず低く、常に義久の後ろを付いて回る姿は親鳥の後を歩く雛のようであり、城内の癒やしとなっているのは小鹿を除いた周知の事実。

「……何か子供扱いされたような気がします」

「まわりからすれば俺や小鹿もまだ子供だろう。そう気にするな」

最近、特に視線が気になってきたんです――と、唇を尖らせていう小鹿。

技能のお陰か稽古の賜物か、視線を感じとれるようになったのは喜ばしいが、向けられる視線が悩みのお年頃である。

年配や妻子持ちが多い家臣達ならばいいかもしれないが、あと十年もずれば立派な合法ロリの誕生なので若い家臣や兵士達からの視線が心配でならない。

事実、原作イベントでは部下の小林に裏切られた上にレ○プされたり、そういった趣味を持つ者に騙されたりしているのだから。

「(そういえば、尼子十勇士とかいるのか?)」

小林がいたら絶対に出世させてやるものかと考えながら家臣のことを思い返すが、そう呼ばれる家臣も称号自体も聞いたことがなかった。

そもそも尼子十勇士という存在自体が本来は江戸時代の創作であり、尼子勝久を擁立して再興に努めた十人の優れた武士を呼んだものとされている。

十人の面々も山中鹿介、秋宅侘助、横道兵庫之助という実在の家臣以外は書物によって異なり、尤道理助(もっともどうりのすけ)、藪中茨之助(やぶのなかいばらのすけ)といった巫山戯た名前や、井筒女之介という名前そのままのオカマまでいる始末なのだ。

加えて、義久は少し勘違いをしていたが、戦国ランスの中では尼子十勇士は尼子家健在時に小鹿がその一員となっていたもので、連れていた部下や小林はただの山中家の家臣である。

「どうしたんですか。義久様?」

少し不安そうに表情を窺う小鹿。

あくまでも原作の中での出来事とはいえ、自分を慕う幼馴染が犯されるかもしれない未来を想像して顔が強ばっていたのだろう。

どちらかといえば、妹を思う兄、娘を思う父のような思いかもしれないが。

義久は何でもないと手で顔の筋肉を揉みほぐし、笑顔を浮かべる。

「さて、父上の申された通り皆と話をしてこようか」

「はい。お供します」

「誰からが良いと思う?」

試す――という程ではないが、小鹿に問題を出すように問い掛ける。

普通ならばこういった場では興味のある者や親しい者に声をかけるが、義久のように上に立つ者はいきなり身分の低い者や新参の家臣に声をかけるわけにはいかないのだ。

現代でいえば社長が専務や部長を無視して平社員に声をかけるようなものであり、やられた方は軽んじられていると思ったり、恥をかかされたと思ったりする。

要は重んじていますよ、というアピールであり、パフォーマンスである。

七面倒なことではあるが、JAPANは武家社会であり、足利政権下から続く尼子家は伝統や武家としての気風はそれなりに重きをなすのだ。

ランスが原作で新参・傍若無人・異国人という三重苦にも関わらず好きなように動けたのは、当主の織田信長が全権をランスに与え、家風自体が保守的とは遠いものであったのと、ランス個人に実力があったからこそといえた。

「ご一族の国久様だと思います。後は祖武、赤穴、三刀屋等の古くから仕える方々ですかね」

「うむ。俺もそう思う。しかし、よく覚えられたな」

現実の尼子とは異なり、出雲一国とはいえ仕える家臣はそれなりの数がおり、姓名を覚えるのは些か骨が折れるのだが……幼少から大人の頭脳を持っており、家臣を把握してきた義久はともかく小鹿がそれらを覚えているのは驚きである。

「義久様と一緒にいれば嫌でも覚えると思いますよ」

得意気に話すのは覚えたことかそれだけ一緒にいることかはさておき、義久に付き従って家臣と話している内に覚えたらしい。

元々才能限界(レベル)も45と高く、尼子十勇士になる程度には優秀であった小鹿だが、義久という存在の影響もあってかなり優秀な十歳児になったようだ。

ちなみにLv40以上は十万人に一人の割合で、Lv45というのは結構凄いのが分かるだろうか。

原作時のJAPANに出てくる主要人物の中でベスト30に入る高レベルで、トップが上杉謙信のLv70であることを考えれば、十分に高いと言える。

原作では武将として使えるようになる時期が遅くて育てられないという人が多い小鹿だが、しっかりと育てれば有力な武将になるのは間違いない。

余談だがランスと魔王の来水美樹には才能限界がなく、ランスに至っては抱いた女の才能限界を伸ばすというこの世界において反則的な特性を持っていたりする。

「(そういえば、俺の才能限界はどのくらいなのだろうか?)」

滅ぼされたということはそんなに高くないのかもしれないし、明石風丸がLv40ならばその前後くらいかもしれない。

だが、それはあくまでも本来の尼子義久の才能限界であり、●●という存在が入った以上は技能レベルのように変化している可能性が高い。

まあ、結局は才能限界までレベルを上げないことには分からないのだが。

「(どちらにせよ、早くレベルを上げる必要がある。迷宮を探して潜れれば一番良いのだが……今度頼んでみるか)」

レベルも上げられ、アイテムも手に入るので、多少の無理をしてでも迷宮には入りたい義久であった。
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