竜の小説集

□連載予備軍短編集(恋姫以外)と過去拍手
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リリーホワイト――通称”春告精(はるつげせい)”と呼ばれる妖精である。

幻想郷においては春の象徴的存在であり、春が来た事を伝える程度の能力という季節の訪れを知らせる力を持っている。

危険度は極めて低く、リリーホワイトがいないと春が来るのが遅くなるので、襲うものは殆どいない。

殆どいないというのは、幻想郷縁起に書かれている通り、毎年山の妖怪に喰われているからだ。

また、毎年西からやってきて山に去っていくので、住処が何処にあるのか不明とされている。

これは、そんな春告精と真面目で頑張り過ぎた妖怪の、友達を作る為の愛(失笑)と勇気(笑)の物語である。















その妖精を大天魔が見つけたのは偶然だった。

春の訪れを感じ、山菜でもとろうかと屋敷の周辺を散策していると、一匹の妖精がぼろぼろの状態で倒れていたのである。

大方、妖怪に襲われて喰われそうになったが、その妖怪が大天魔の妖気に気づいて逃げたので助かったというところだろう。

「ふむ。身体的な特徴からしてリリーホワイトか」

通常の妖精よりも身長が低く、二つの羽根は透けて見える鳥の羽根のようなものを大量に付けている――幻想郷縁起に書かれている通りの姿である。

ちなみに、大天魔はリリーホワイトを知らないわけではないが、間近で見るのは初めてであった。

「……はる……ですよー」

意識が朦朧として大天魔だとは気づいていないが、誰かの気配にかろうじて声を出す。

というか、春ですよ以外に喋れないのだろうか?

そんな疑問を抱きつつも思案するのは助けるべきか否か、である。

冷たい意見かもしれないが、今年の春を告げる役目は終わっており、彼女自身が何度となく他の妖怪に喰われているのだ。加えて、助けるなら屋敷に運ばねばならず、大天魔の屋敷に招かれたという事実が周囲に知られた場合は少し面倒なことになる。

例を挙げるとすれば、他者がリリーホワイトに手を出しにくくなる。リリーホワイトが天狗の傘下に入ったと邪推する。大天魔ロリコン疑惑。などであろうか。

「………………」

即座に脳内で放っておくことを可決して踵を返す。てか、最後のロリコン疑惑ってなんだ。確かに友達がチルノと大妖精しかいないが、リリーホワイトに手を出したらロリってレベルじゃない。

「……ロリですよー」

思わず残像が見えるほどの速さで振り返った。

「春ですよー」

本当にリリーホワイトか?ラリーホワイトじゃね?頭の中が春なんじゃね?と怪しむが、倒れたままこちらに向ける笑顔は純粋無垢そのものである。

――仕方あるまい。

妖精の中でも一際小さい身体を抱え上げ、大天魔は屋敷への帰路についた。

妖精とは自然現象そのものであり、死ぬ事がない。

とはいえ文字通り不死なのではなく、寿命がきても直ぐに同じ姿で生まれ変わり、躰がバラバラになるような大怪我を負っても治るので、死ぬという概念が人間と異なるのだ。

また、妖精は基本的に頭が弱いと言われているが、チルノや大妖精など力のある妖精はそれなりに理知的であり、リリーホワイトも春にはそこら辺の妖怪は避ける程度には強い力を持つことができるので、Hという訳ではない。

まぁ、これだけ聞くと実は妖精はかなり凄いのではと思うかもしれないが、――

「はるですよぉ〜」

暖かな陽気と春の花のほのかな香りがついた羽毛布団……もとい、縁側に腰掛ける大天魔の翼に顔を埋め、どこぞのゆるキャラのようにたれていた。

――もう一度言おう……妖精は頭が弱い。

というより、頭がゆるいというべきか。

一方で、大天魔としてはリリーホワイトが見た目も性格もかなり幼いので、チルノと大妖精のような扱いもできず、かといってこのまま置いておくのも……と、悩んでいた。

そもそも、妖精は怪我をしようが直ぐ治るので、結果的に幼女をお持ち帰りしただけである。

ロリコン以外の何者でもない。

「……ロリコンでも変態でもない。私は紳士だ……いや、大天魔だった」

思わずネタが出るほど混乱しているようだ……幸いリリーホワイトは翼に夢中で聞いていなかった。

余談だが、天魔であった時は立場上あまり人前に出なかったし、喋り方も相応のものにしていただけで、案外ボロが多かったりする。

……友達が多くいたなら、きっと大天魔はかりすま(笑)溢れる存在になっていたかもしれない。

――閑話休題。

「もうよいか?」

「はるですよー」

冷静になった大天魔は、先程からずっと翼に抱きついていたリリーホワイトを引き剥がし、縁側に座らせる。

「さて、リリーホワイトよ。お前は――」

「春ですよー!」

「――話をきかぬか……」

しかし、リリーホワイトは庭に目を向けるや否や、目を輝かして飛んでゆく。

その先にあったのは、一際大きく、見事に花を咲かせる桜の木。

屋敷を建てる折に、気合を入れすぎた部下達によって植えられたものである。

リリーホワイトは暫く木の周囲をぐるぐると飛び回り、嬉々とした声をあげながら大天魔の下に帰ってくると、服の袖を引っ張って、桜の木を指さす。

「春ですよー!」

「あれがどうした」

「春ですよー!」

「気に入ったのか?」

「春ですよー」

「その木に住むのか?」

「春ですよー!!」

「そうかそうか……は?」

ロリな友達の次は、ロリな同居人ができた大天魔であった。
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