竜の小説集

□連載予備軍短編集(恋姫以外)と過去拍手
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儚月抄を買ったのでつい書いてしまいました。さわり程度ですが、楽しんで頂ければ幸いです。















「偵察ご苦労様。後鬼。前鬼より給料2割増しにしておくわ」

月を望む湖の上で、隙間と呼ばれる境界の空間から体をだし、式神を労う女性――八雲紫は報告を受け取ると、計画が順調に進んでいることにほくそ笑む。

「なんだかんだ言って、巫女も順調に修行しているみたいだし――」

「紫様」

彼女の言葉を遮るように、背後からすっと人影が現れる。

いや、人影に九本の尻尾も耳もあるわけがなく、現れたのは紫の式である八雲藍であった。

紫の計画を成功させる為に各地の実力者たちに賛同してくれるよう声をかけて回っていたのだ。

「現在のところ、賛同者は――まず、吸血鬼ですが、計画自体は興味津々でしたが、我々とは異なる手段をもってそれを達成すると言っていました。ですが、他の手段は現在の幻想郷では達成し得ないと思うので、協力してくれることは時間の問題かと思われます」

紅魔館にすむ吸血鬼レミリア・スカーレットは齢500にして強大な力を持っているのだが、難点としては我侭な気性であり、今回の交渉でも自分のやりたいように“動く”と宣言したのだった。

「次に幽霊たちですが、特に興味もないようでした。ただ、退屈そうでしたので、顔を出してくる可能性は高いです。顔を出した場合は、ほぼ間違いなく協力してくれると思われます」

冥界の管理人であり紫の友人である西行寺幽々子は享楽的な面もあり、興味を持ったことにしか動かないのだが、計画に関しては興味がないようで、にこにこと笑を浮かべて断られてしまった。

「次に鬼ですが……話の大半を理解でいていなかった様子でした。協力はしてくれないかもしれませんが、邪魔をするころもないでしょう」

鬼の四天王であり、唯一地上で生活する伊吹スイ香は常に酒を呑んで酔っているので、藍の真面目な話はよくわからなかったらしい。

「次に天狗ですが、スクープを独占したのとのことで、天狗の棟梁と話をすることができませんでした。第三の目として行動した感じでしたので、協力してくれるとは言い難いかもしれません」

鴉天狗の射命丸文は実力者であるのは間違いないのだが、本気を出したがらず、それよりもスクープを独占して新聞に載せることの方に興味が向いてしまい、天狗の棟梁である天魔に話をつけることはできなかった。

「次にかっ――」

「わかったわかった。もういい。そんなに協力者はいらないわ」

生真面目に幻想郷中の実力者たちに声をかけて回っていた自分の式神に苦笑いを浮かべながら、それ以上は必要ないと紫は手を振る。

と、ちょうどよくそこに飛ばしていた式神が戻ってきた。

「偵察ご苦労様。前鬼。後鬼より給料3割増しにしておくわ」

何を給料して払っているのか、本当に給料を渡しているのかは疑問だが、紫はそう言って式神を労うと、ニイッと邪な笑を浮かべる。

「ついに宇宙人が動き始めた。予定より遅かったけれど、誤差の範囲だわ」

「宇宙人?ああ、竹林に棲むへんちくりんな奴らですね」

迷いの竹林に隠れ棲む蓬莱山輝夜と従者の八意永琳、鈴仙・優曇華院・イナバの三人は元は月の民だったので宇宙人と戯れに呼んでいるが、一応分類(幻想郷縁起)には輝夜と永琳は人間、鈴仙は妖怪である。

「いいんですか?あそこの人にはこの話が漏れないようにって言ったのは紫様ですよ」

「漏れないようにしたから動き始めのよ。少しずつ異変を感じ取ったのでしょう。宇宙人が動き始めないと私たちも動けない。……今回はうまくいくかもしれないわ。神様を従えた巫女さえ動けば、敵に勝ち目は――」

「ないと思うか?」

「「っ!?」」

先程まで笑を浮かべていた紫の表情が驚愕に変わり、藍にいたっては驚きで眼をあらん限りまで開いていた。

それは自分たちに気づかれずに現れたことに対する驚きではない……現れた“人物”が問題なのだ。

「これはこれは……大天魔様ともあろうかたが何用でしょうか」

平静を装いながら問いかけるが、その内心は突出した精神力と頭脳を持つ紫ですら乱れていた。

かつて妖怪の間引きの為に行われた第一次月面戦争には興味すら示さず、決して動くはずがない、よしんば動いたとしても干渉程度であろうと考えていた大天魔が――

「私がここにいる……それが答えだ」

――否。

その言葉どおり、導き出される答えはただ一つ。

「……第二次月面戦争に参加されると?」

「なに、力では地上ものが月の民に敵わないのだ。年寄りが一人増えたとて変わるまい」

「……ご冗談を」

遥かに進んだか科学と月の守護者に地上の実力者たちが勝てないことは第一次月面戦争以前から既に分かりきってことだった。

だからこそ、前回は侵略と称して幻想郷に合わない妖怪を間引きを行い、今回は月の実力者――綿月姉妹――に一泡吹かせるための戯れだったのだ。

だが、大天魔という埒外の存在はその前提を覆してしまいかねない。

力の片鱗を見たのは片手にも満たない回数だが、大妖怪が複数でかかっても勝てないことは簡単に理解できた。

まして、かつて月の民が地上にいた頃から存在し、唯一人妖大戦と呼ばれる戦を経験しているのだから。

「博霊の巫女等とは別に行動するが、御主の邪魔も、戦もする気はない」

「紫様……」

「…………分かりましたわ」

傍らに控える藍に不安気な声に紫は目で大丈夫だと伝え、了承する。

信用……いや、信頼しても問題あるまい。

何故なら、彼は大天魔だからだ。

本来いないはずの存在が参加することにより、第二次月面戦争は大きく変化を見せるのであった。














――永き刻を越えて、再び彼(彼女)等は邂逅する。

「と、投了よ。投了」

綿月依姫に刀を向けられ、霊夢はこれ以上やる気はないと負けを宣言した。

依姫もそれを認め、刀を降ろそうとした刹那――

「では、次は私と遊んでもらおうか」

――その身を理不尽なまでの圧力が襲った・

「まさか……」

かろうじて発言できたのは依姫だけだった。

霊夢たちも、月の兎も内心は違えど動くこともできない。

「また八百万の神と戦えようとはな」

師であった八意永琳の手紙に書かれていた、唯一脅威となる妖怪。

「……大天魔」
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