竜の小説集

□連載予備軍短編集(恋姫以外)と過去拍手
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20XX年――コンビニ業界は不況の炎に包まれた。

これは、とある地域のとあるコンビニを舞台にした、男達の物語である。












――AM6:10

「………………フン」

規則的に咀嚼されていた口を止め、不快そうに鼻を鳴らす。

目の前にある食事の品数は一人分を遥かに超えており、贅沢の限りを尽くしているにも関わらず、男の箸は置かれていた。

「口に合わぬ」

「いや、廃棄の商品だから当たり前じゃないですか。ていうか、廃棄の出しすぎでまた店長に怒られますよ。サウザーさん」

同僚の苦言にサウザーは内心申し訳ないと思うが、それを表には出さなかった。

「……帝王に逃走はないのだ」

「シフトが一緒になってる僕まで怒られるじゃないですか。はぁ、お疲れ様でーす」

「お疲れ様……です」

何年経っても慣れない敬語での挨拶で同僚を見送ると、サウザーは冷蔵の部屋に入ってデザートの廃棄を物色し始めた。

「む、プレ○アムロールとエクレアか……お師さんが喜ぶな」

南斗鳳凰拳伝承者サウザー……廃棄の品を持ち帰って家計を助ける、親孝行な深夜のベテラン店員である。














――AM7:00

通勤・通学途中のサラリーマンや学生、工事現場に向かう作業員などが来店し、忙しくなってくる朝の時間帯。

店内には十数人のお客様がおり、普通の店員であればレジに列ができてしまうのだが、朝のシフトを守る二人の兄弟は違った。

「アタタタタタタタタタタタァっ!!……お前はもう、払い終わっている」

腕が何本もあるような錯覚が見える程に商品をスキャンし、客層を押し、会計を済ませ、商品を袋に入れる。

あまりの速さに――

「いや、カードで払い――たわらばっ!?」

――たまにお客様の秘孔を突いてしまうが、困った時は記憶を消す秘孔を突くのでクレームはない。

北斗神拳伝承者ケンシロウ(彼女持ち)……北斗四兄弟の末弟にして、朝の二大戦力の一人である。

そして、もう片方のレジでは、速さこそ劣るものの、流麗にして華麗なレジ捌きを魅せられていた。

ゆらゆらと踊るような動きは正に激流を制する静の動きであり、次々と来るお客様を処理していく。

“お釣りは投げつけるもの!”“イヤァァ、天翔百裂拳!”“北斗有情破顔拳!ハァーーン!”

明らかにコンビニでは聞かないおかしい台詞が聞こえてくるが気にしてはいけない、何故ならテーレッテーされるから。

お客様の対応はできているから問題はない……はず。

北斗四兄弟の次兄トキ……北斗神拳二千年の歴史でもっとも華麗な拳技を魅せる男である。

――PM13:00

お昼のピークを過ぎた頃、バックでは店長がアルバイトの面接を行なっていた。

「うぬが此処で働きたいという男か」

「は、はははいっ!」

行なっていたのだが……店長の世紀末覇者なオーラに圧倒されて、アルバイトを希望していた大学生は軽くズボンを濡らしていた。

まぁ、結構……いや、ヤ○ザも逃げ出すくらい怖いのだが、実際は兄弟思いでコンビニを切り盛りする立派な社会人である。

「まぁよい。希望のシフトは夕方とあるが、週にどれくらい入れるのだ」

「え、えーっと、みっk――」

「ほーう」

「いつでも入れます!拳王様!」

店長としては妥当かなーと考えていたのだが、大学生は土下座で全部入れると叫んでいた……注意しておくが、あくまで普通の大学生である。モヒカンではない。

「俺は拳王などではない。店長と呼べ」

「はっ、はは!」

「ふむ。ならば試しに接客の練習をしてみるか。そこに書いてある接客○大用語を読んでみせよ」

接客○大用語とは、「いらっしゃいませ」や「ありごうとうございました。またお越し下さいませ」といった、接客をする上で必要不可欠な用語のことであり、店に入りたての頃、もしくは勤務の前に読み上げるのである。

「はい。……いらっしゃいませ!」

「威勢はいいが、笑顔が足らんな。それではお客様を迎えることはできん」

「え、笑顔ですか」

「うむ。このようにな」

「ヒィイイ!?」

そう言って店長は笑を浮かべるが明らかに二ィっという悪魔が獲物を見つけた時のような笑顔であるため、大学生は精神的に限界に近づき、下半身は決壊寸前であった。

「何を怯えている。うぬも笑ってみせよ」

「あわ、あわわ……」

「どうしたぁ!笑え!笑ってみせろぉ!!」

――その日、大学生は大切なものを失った。

北斗四兄弟の長兄ラオウ(既婚)……かつて拳王と呼ばれた、最強の豪の拳を持つ男である。














――PM22:00

仕事帰りのサラリーマンや夜遊びの大学生がちらほらと来る時間帯になった頃、コンビニではトラブルが続出していた。

まずは――

「俺の名前を言ってみろぉ!」

「はいはい、ジャギだな。早く、盗った物を出しなさい」

――万引きである。

出てきた物はお菓子とパンの2点なのだが、店員はそれだけではないと確信していた。

「まだあるだろう」

「ねぇよ」

「後ろのポケットに入っている物とジャケットの内ポケットにある物も出してもらおうか」

まさか、隠している場所まで指摘されるとは思っていなかったのか、ジャギは驚きと悔しさ半分と言った表情で店員を睨む。

「テメェ、なんで分かった」

「ふむ。私はどちらかと言うと弱視で目は悪い。されど、心の目は開いている」

何言ってんのコイツとか思ってはいけない。弱視なら盲目の闘将でもねーじゃんというツッコミもあしからず。

「反省していないのなら、警察と家族に連絡しなけらばならないのだが――」

「待ってくれ!家族と警察に連絡するのだけは止めてくれ!兄より優れた弟なぞ存在しねぇんだ!」

「弟に見栄をはるのは結構だが、ケンシロウもここで働いているのだから、バレるだろう」

そもそも、弟はイケメンで美人の彼女持ちで、年下の少女にも慕われているリア充である。勝っている要素がない。

「くっ、認めねぇ!俺は認めねぇぞ!」

「私としては息子が待っているから早く帰りたいんだが……」

北斗四兄弟の三兄ジャギ……趣味はバイクのフリーター。

南斗白鷺拳伝承者シュウ……昼は会社で、夜はコンビニで働き、男手一つで息子を育てる父親。

この問答は、結局ラオウがジャギを引き取りに来るまで続くのであった。

そして二つ目のトラブルは――

「クソっ!ユダァァァ!!」

「美しい……」

――トイレの占拠である。

かれこれ一時間はトイレ……というか、トイレにある鏡の前にいるため、他のお客様がトイレを使えなくなっているのである。

「ユダ、早く出ロォォォ、うっ」

「はぁ、美しい……」

先程からトイレの扉を叩き続ける青年がいるのだが、そろそろ限界なのか、不自然な程に冷やさせをかいていた。

「ユダァ!てめぇの血は何色だぁぁぁぁぁああ――あっ」

力の限り叫んだのがいけなかったのか、無情にも腹は限界に達していた。

しかし!無様な姿を晒すことは出来ない。

何故なら――

「レイ……大丈夫?」

「マミヤ……俺なら、大丈夫だ」

――彼女の前だから。

尋常ではない腹の痛みと我慢で、彼の頭髪が白くなっているように見えた気もするがそれは気のせい。

「やはり、俺は美しかった」

とにかく、なんとか我慢をし通して、ようやく満足したユダがトイレから出たのだった。

もはや痛みを通り越して何かを悟ったのか、レイは穏やかな表情になっている。

「マミヤ……達者でな」

「レイーー!」

南斗紅鶴拳伝承者ユダ……ロックバンドボーカルのナルシスト。

南斗水鳥拳伝承者レイ……大恋愛の末にマミヤを彼女にしたリア充。そしてシスコンである。

こうして、今日もコンビニは様々なトラブルを乗り越え、営業しているのだった。
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