竜の小説集
□連載予備軍短編集(恋姫以外)と過去拍手
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目が覚めたら赤ん坊だった……普通に生活していたはずの自分に何が起こったのか分からず、その時は混乱して叫び続けていたのを覚えている。
唯一幸いだったのは、大人達がその叫びをただの鳴き声と勘違いしてくれたことだろうか。
生まれたばかりの赤ん坊が鳴き声もあげずに黙り、なおかつ理知的に話そうと(実際は話せないが)すれば、気味悪がられ、最悪の場合は忌み子として捨てられていたかもしれないのだから。
それから暫くして冷静になると、なるべく赤ん坊らしく振る舞うことに徹した。
よく二次創作では羞恥のあまり抵抗したり、黒歴史などと言って死ぬほど恥ずかしがったりしている授乳やおしめも進んで行なった。
赤ん坊は身体機能が未発達で病気に対する抵抗も弱いことを考えれば、栄養と成長の為に母乳を飲み、尿意や便意があれば直ぐに泣いて変えてもらうようにしてもらうのは当然のことだ……一時の羞恥心なんて命や成長には代えられない。
その一方で、なるべく良い印象を持ってもらうように、老若男女問わず、ヤクザのような強面だろうと笑顔で接した。
余程の子供嫌いか変人でもなければ、印象は良くなり、成長しても可愛がってくれるだろうと思ったからだ。
結果としてそれは成功し、可愛い、利発そう、胆が座っている、将来大物になるという言葉を何度も聞いた。
そして、赤ん坊を生活をしながら大人たちの会話を聞き、幾つかの情報を手に入れることができた。。
一つ目はこの土地が出雲と呼ばれており、父親は尼子晴久(あまこはるひさ)と呼ばれていること。
二つ目は自分がその息子であり、義久(よしひさ)と呼ばれていること。
三つ目が断片的ではあるが、『浅井朝倉』『種子島』『明石』『天志教』と言った存在である。
出雲と尼子晴久……ということはまず間違いなく戦国時代のはずである。
自分が知る歴史通りならば山陰地方の有力大名であり、最終的に毛利元就に滅ぼされる勢力だ――その息子の義久の代にだが。
…………死亡フラグが立っているかもしれないことはさておき、おかしな点が幾つかある。
『浅井朝倉』と続けて呼んでいるのが奇妙だし、そもそも朝倉はともかく、浅井は尼子が気にするような大きな勢力ではない。
『種子島』は鉄砲のことかとも思ったが、どうやら隣国の大名らしい……種子島があるのは九州方面のはずだが。
『明石』も隣国の大名らしいが記憶にはない。
『天志教』にいたっては聞いたこともないが、国教らしい。
おかしい……というか、自分が知る日本ではない?
よくよく周囲の人間を見れば髪型が現代風で、女性の武将もおり、自分が幼名ではない等有り得ない点がちらほら。
もっとも、当時の自分にはそれを知る術もなく、真相を知るのには――
「――四年の月日がかかったのだが」
「よしひささま。なにをいっておられるのですか?」
目の前に広がった全国地図を見ながら呟く義久に、幼馴染の小鹿(こじか)が不思議そうに問い掛ける。
ちなみに名字は山中と言って、同じ年に生まれたことから遊び相手として来ているのだが、それよりも大事なことがある。
「いや、JAPANは広いと思ってな」
「たいりくはもっとひろいとちちうえがいっていました!」
そう、日本ではなく“JAPAN”。
全国が地続きであり、国名も佐渡とMAZO、テキサス、邪馬台、赤ヘル、戦艦長門、カイロ、モロッコなど一風変わったものばかり。
これだけ言えばお気づきの人もいるだろう……そう、戦国ランスだ。
ここは、戦国ランスの舞台となったJAPANだったのだ。
「そうか。小鹿は物知りだな」
「えへへ……」
判明した事実に内心落ち込むが、表情は笑顔のまま小鹿の頭を撫でる。
「(戦国ランスはプレイしたことはあるけど……最悪だ)」
ランスの世界はルドサラウムという創造神が気まぐれと暇潰しで作り、決して恒久的な平和が訪れないようになっているのだ。
そして、義久がこの世界に転生(もしくは憑依)したのも神の遊びかもしれない可能性が高い。
二次創作で出てくるような神よりもよっぽど悪辣で性が悪いと言える。
「(何より、毛利という死亡フラグがある)」
それに加えて、原作時には出雲は毛利の領地となっており、山中小鹿は尼子を再興するべく諸国を放浪して艱難辛苦に合うのだ。
小鹿が原作時に20歳なので、今は原作の16年前、毛利が呪い付きとなって勢力を広げ始めるのが13年後……残された時間はあまり長いとは言えなかった。
「(確か、小鹿は才能限界がLv45で剣戦闘Lv1と特殊技能の健康体を持ってはず。育てればかなりの戦力になるはず……ついでに、不運Lv2もあるが)」
自身の能力と戦力の把握、原作知識の活用、内政や武将のスカウトなどやることは山のようにあるが、生き残る為にも頑張るしかなない。
「そういえば、小鹿も勉強を始めたらしいな」
「はいっ。むずかしいことばをおぼえたら、ちちうえがほめてくれました」
「どんな言葉なんだ?」
「あまこりゅうせいのため、ねがわくばわれにしちなんはっ――」
予想以上に、生き残りの道は険しいかもしれない。