竜の小説集

□外史程普伝まとめ(未完)
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突然だが、俺はいわゆる転生者である。

「はっはっは、勝ち戦の後の酒は格別じゃな!」

「えぇ、でも敵に歯ごたえが無くて物足りないわね」

…………戦勝の宴席の中でこんな事言ってるが、本当に転生したんだ。

その証拠に、酒をがぶがぶ飲んでる人の名前を黄蓋、物足りないとか言ってる人を孫堅という。

うん、三国志で有名な孫堅と黄蓋だ………女だけどね。

有名武将が女性だと知った時は驚いたけど、慣れれば問題ない。

むしろ、美人なんで目の保養になってたりする。

「月渓!ちょっとこっちに来なさい!」

おっと、孫堅様に呼ばれてるな。

ちなみに、月渓と言うのは俺の真名で、真名は認めた相手だけに許す名らしい。

そんな風習は無かったと思うが今さらだろう。

そうそう、言い忘れてたけど俺の名は程普。

孫堅様に仕えている、一武将だ。















Side孫堅

「お呼びでしょうか」

そう言って、私の前で臣下の礼をとる月渓。

祭ほどじゃないけど、知勇どちらにも優れた、頼りになる部下。

「あなた、あんまり飲んでないでしょう?」

「いえ、そんな事は……それに、全員が酔い潰れるのもよくありませんから」

ちびちびとしか酒を飲まないで、騒ぐ家臣達をよそに静かにしている彼を呼んで酒を勧めたけど、笑みを浮かべて断られる。

こういう真面目で配慮ができるところは良いけど、それじゃあ詰まらないから娘の蓮華を呼んで酌をさせた。

「はい!月渓」

「これはこれは……ありがとうございます。蓮華様」

「えへへ〜♪」

予想通り、月渓は注がれるままに酒を飲み始める。

彼は私の娘達にかなり甘いから当然だろう。

もちろん臣下としての礼も忘れないが、父や兄のように娘達に接してくれるのは有り難い。

いっそ、本当にあの子達の親にしてみようかしら?

やる事はやってるしね〜





呉一帯の統一が終わった。

なんともはしょった説明だが仕方ない。

だって、孫堅様とか祭殿があっという間にやっちゃったんだよ。

電撃作戦とでも言えばいいのか……

しかも、あんまりにも強いんでまだ戦ってない奴らも恭順してきたから余計に早かった。

さすが、江東の虎だなぁ…

とりあえず、これで暫くは戦はないだろう。

孫堅様自体は政務ばっかで涙目だったけど。

俺はといえばそれなりに仕事をこなしてるが、専ら雪蓮様と冥琳の家庭教師をしている。

武と知、どちらもバランスよく高いレベルだから教えるのに適任らしい。

まぁ、たまに祭殿にも面倒見てもらってるらしいが…

てか、冥琳てあの周瑜なんだよ。

子供なのに知識だけならもう大人顔負けだし、今更何を教えればいいのやら……
















Side周瑜(冥琳)

「さて、冥琳。今日は何を勉強しようか?」

微笑みながら私に問い掛ける月渓殿。

月渓殿は武官ではあるが、時には軍師の役割もこなせる優秀な方だ。

それに、時々驚くような発想や考えを教えてもらえるので授業は飽きない。

雪蓮はどちらかというと稽古の相手をして欲しいらしくて、最近は祭殿の所に行ってるみたいだけど。

「この前の続きを是非お願いします」

「確か……土地の開墾に関してだったかな?」

「はい、月渓殿が言われた屯田兵と言うのが興味深くて……」

この話にしても月渓殿の考えはとても素晴らしいものだと思う。

兵士に開墾をさせれば難民や農民にさせるより効率も良いし、兵士自身を鍛え、軍を動かす慣らしにもなる。

まさに一石三鳥だ。

だが、実際は屯田兵は呉にない。

月渓殿は私に話す事はあっても、文台様には献策してないらしいのである。

何故、実行しないのかと聞いてみると――

「穀倉地帯はもっと南下しないといけないしな。それに、軍師の真似事はできても軍師にはなれない。だから、いずれ冥琳が呉を担う軍師になった時に実行して欲しいんだ」

と、苦笑いしながら頼まれてしまった。

月渓殿のような方にそこまで期待して頂いたならやるしかない。

雪蓮との誓いの為にも頑張らないと。





呉を統一してから数年……

その後も版図を広げ、揚州の中でも孫呉はもっとも大きい勢力となった。

雪蓮様や冥琳、蓮華様、末娘の小蓮様なども立派に成長なされている。

特に蓮華様は顕著だ。

孫家には珍しく、真面目で大人しい方になられた。

堅さもあるが、いずれは大器になるだろう。

昔のように無邪気に甘えてくれるのが減ったのは少々寂しいが……

まぁ、今は今でもじもじと照れながら甘えてくるので良しとする。

そういえば、最近あの甘寧が配下に加わった。

史実だと劉表に最初は仕えてたはずだが、こちらではそのまま呉に仕えるみたいだ。

湖族にしては生真面目で腕も立つので蓮華様の護衛に推薦してみたがどうなっただろうか?

雪蓮様と冥琳にようになってくれると良いんだが……















Side甘寧(思春)「蓮華様、これはこちらに置けばよろしいのでしょうか?」

「えぇ、お願いね。思春」

私が孫家に……そして、蓮華様に仕えるようになってそれなりの時がたった。

始めは、まさか君主の娘の護衛という大役を任せられるとは思っておらず戸惑ったが、蓮華様の器や考えに触れ、今では誇りとなっている。

しかも、名誉なことに真名まで許して頂いた。

私はこの身にかけて、蓮華様を支えて行きたいと思う。

「思春?どうしたの?」

「いえ、なんでもありません」

「そう?なら早く用意しましよう。もうすぐ月渓も来るはずだから」

「はっ」

そういえば、私を蓮華様の護衛に推薦して下さったのは程普殿だと聞いている。

あの方は古くから呉に仕える忠臣の一人であり、良将と誉れも高い。

蓮華様も幼少の頃から世話になっており、程普殿の前では年相応の姿になられている。

「どうも、蓮華様。お茶に呼んで頂けると聞いて参りましたよ」

「いらっしゃい、月渓」

「興覇も護衛ご苦労だな。一緒に飲まないか?」

「いえ、私は蓮華様の護衛ですので」

私などに同席を進めて頂けるのはありがたいが、仕事中であるし、恐縮してしまう。

「そうか、蓮華様と同様に興覇も堅いな」

「ですが、それが私の仕事ですので」

「そうかそうか…しかし、良い関係を築けてるようで安心した。蓮華様も興覇が護衛になって良かったでしょう」

「そうね。思春はとても頼りなるわ」

「れ、蓮華様…///」

お二人が私を誉めるのを聞いていると、恥ずかしく、居心地が悪かった。

後、程普殿。

蓮華様を撫でるついでに私まで撫でるのはやめて頂きたい。




最近、荊州の劉表との関係が悪化している。

向こうも中々の勢力だし、そのうち戦が起こるかもしれない。

淮南の袁術もこそこそと動いてるのが気になる。

それに、劉表と言えば孫堅が戦って死んだ相手だったはず……

歴史通りにならないか、心配でならない。

孫堅様に死んで欲しくはないし、雪蓮様達の悲しむ顔も見たくないしどうしたものか……

あぁ、胃が痛い……

ついでに言えば雪蓮様が最近手に負えなくなってきたのも問題だ。

成長期なのか、上達が早い。

しかも、戦えば戦うほど興奮する性癖らしく、冥琳が大変だと愚痴っていた。

母性も見事に育ってきてるし、迫られたらどうなることか……注意が必要だ。















Side雪蓮

最近、月渓が冷たい。

冷たいというか、会う回数が減っている。

祭に聞いたら、なんでも執拗なくらい劉表の方に工作員を送ったり情報を整理したりしてるとか。

母様が劉表を攻めるって言ってたからだと思うけど、それにしても変ね。

冥琳も首を傾げてたし……

あ〜あ、せっかく一緒に盗賊の討伐に行こうと思ったんだけどなぁ……

そうすれば、興奮して勢いに任せてやる事やれちゃうし。

冥琳や祭もその方が喜ぶと思うのよね〜

月渓みたいなっていうか……腕も立つ良い男なんて中々いないから貴重なのよ。

それに、母様とやってるんだから私とだって良いと思わない?

「ねぇ、冥琳も月渓とまぐわりたいわよね?」

「ぶはっ!?ゲホッゲホッ!!」

あ、お茶吹き出しちゃった…

「雪蓮!いきなり何を言いだすの!?それに月渓殿はあなたにとって父や兄のような方じゃないの?」

「それは確かに私が子供の時からの付き合いだしね。でも、母様や祭だけなんてずるいじゃない」

「ずるいって、あなた……それに、月渓殿は男なのよ?」

「分かってるわよ。それとも月渓じゃ不満?」

そう聞くと、冥琳は少し赤くなりなが否定した。

「そんなことはないけど……月渓殿が私達を抱いてくれるのかしら?」

「大丈夫!冥琳も私も胸おっきいし。じゃ、早速行きましょ」

「はぁ!?」

私は冥琳の手を掴んで月渓の部屋に向かった。

結局、もう少し成長してからとか言ってごまかされちゃったけどね。

絶対忘れないわよ!覚えておきなさい、月渓!
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