竜の小説集

□web拍手連載:アイドルマスター
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アイドルマスター〜オリ主別Ver〜(単行本に影響されました。後、アイマスを書くと千早をいじってしまうのは何故なんだろう……)















『っ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!』

声にならない程の絶叫ともいうべき歓声がどこまでも響き渡る。

その場にいる何万という人間の全ての目が、耳が――五感がたった一人の歌に、踊りに奪われていた。

あの伝説のアイドルと呼ばれる日高舞でさえここまで人を熱狂させることができたかどうか。

いや、そもそも日高舞が現役であった時、既に彼は並び立つ存在だった。

それが、日本から世界に羽ばたき、世界でも有数のトップアーティストになったのだ。

人は彼をこう呼んだ――

――King of pop



















「…………ふぅ」

コンサートを終えた控室の中で、賢者モードさながらに息をつく。

「今さらながらに思うが……チートだよなぁ」

先ほどまで、聴衆を熱狂させた自身の歌と踊りをそう評する姿は、まるでそれが自分のものではないかのような発言だった。

いや、本人にとっては、真実それは意図的に与えられたものに過ぎない。

何故なら、彼は所謂『転生者』という存在だったからだ。

そして、与えられた能力とは『King of pop』という、彼がいた本来の世界の人間なら知らないものはいない、マイケル・ジャクソンの能力だったのである。

マイケル・ジャクソン――

King of popと呼ばれる、人類史上もっとも成功したエンターテイナーであり、生涯でCDやビデオ等の総売り上げが7億5000万枚を超えた正に伝説の存在である。

人々を魅了するダンスと歌声、パフォーマンスは国境を越えて広がり、Thriller一つで1億500万枚以上を売り上げた。

登場しただけで気絶するファンが多数でるほどの熱狂的な人気を持ち、それはスキャンダルを度々起こしてもなお、陰ることはなかったという。

ちなみに、ダンスをする敵が全員死ぬというのもあるが、あくまでゲームの中の話である。

――閑話休題

そんな能力を手に入れ、あまつさえ音楽業界に入ったらどうなるだろうか?

しかも、最初からマイケルの全盛期のような能力を持って。

少なくとも、強くてニューゲームどころの話ではなかった。

一足飛びどころか、最初から頂上(スター)である。

そして、それは彼が30歳になった今でも、変わらない。

「まぁ、自分でもそれなりに努力はしたし、歌も踊りも嫌いじゃないんだけど……そろそろ癒しが欲しいねぇ」

とはいえ、彼は年齢的にいえば30歳のおっさんである。

誰が見てもそうは思わないが。

パラメーター的に言えば歌も踊りも最初からカンストしているので上げようもなく、マイケルのように月の生活費が2億とかばかげた浪費もしないので、金銭は貯まる一方であった。

そんな彼の唯一とも言える楽しみが、アイドルの発掘や指導である……正しくいえば後輩イジリとも言うが。

何故それが楽しみなのかと言えば、理由は簡単――ここが、アイドルマスターの世界だからである。

先ほど名前を出した日高舞は、伝説のアイドルと呼ばれ、主要人物の日高愛の母親なのだ。

なので、本編に登場はしなくとも様々なアイドル達がおり、日夜トップアイドルになるべく競う姿は、最初から全て持っていた彼にはとても眩しく、美しいものに見えた。

なにより、プロデューサーや社長、ライバルといった立場ではなく、遥か高みの存在としてアイドルマスターのキャラクター達と触れあえるのが楽しみで仕方なかった。

そのため、彼は労を惜しまずトップアーティストになり、日高舞や高木社長、武田等の外堀的な人物たちとも接触を計り、自然にアイドルたちに会える切欠を作っていったのである。

「久しぶりに舞さんの家に遊びに行こうかなー愛ちゃんにも会いたいし。それと、高木社長にも連絡いれとかないと。あー楽しみだ」

携帯でマネージャーに極力仕事を減らすように連絡を入れ、抑えきれない興奮に、自然と口角が上がった。

「ついでに、30歳になるおじさんを貰ってくれる子でもいればいいんだけど」

――この世界で『King of pop』と呼ばれる伝説的存在、SOUMA(30歳+α)こと颯馬は割と欲望に忠実な転生者だったりする。















――日高家にて

「ママ……ただいまー」

毎度の如くオーディションに落ちた愛は、伝説のアイドルである母親と自分を比較して落ち込みながら帰宅し、男物の靴があることに違和感を感じながらリビングへと向かう。

「あら、おかえり。愛っ。遅かったじゃないの」

「お帰り。愛ちゃん。お邪魔してるよ」

「そーお兄ちゃん!?」

すると、そこには母親だけでなく、幼少からの付き合いがある兄のような存在がいた。

初めはただの優しいお兄さんでしかなかったが、成長するにつれて母親よりもビックな存在であることに気付き、ガラスが割れそうになるくらい絶叫したのは良い……思いでなのだろうか?

まぁ、それがわかったからと言って態度が変わることもなく、今でも優しいおい兄さんとして愛も慕っており、年に数回ではあるが会っていたのだ。

「久しぶりだね!それにしてもどうしたの?今の時期はいつもなら忙しいんじゃ……」

「ずーっと纏まった休みなんかなかったからね。ちょっと、お仕事を減らしてもらったんだよ」

「まったく……仕事が欲しくても貰えない人だっているのに、トップアーティストのSOUMAさんはさすがねぇ」

「ハハハ、舞さんも意地が悪いなぁ。ねぇ、愛ちゃん」

「え!?、えーっと、その……」

話を振られた愛は狼狽するが、タイミング良くお腹がぐぅと鳴き、それを聞いた二人はクスリと笑って食事の準備をする。

そして、夕食のカレーを食べながら、先ほどの話の続きを始めるのだった。

「そういえば、愛。明日もアイドルのテスト受けるんですって?」

「えっ、なんで知ってるのー?」

「だって偶然愛の手帳を隅々まで見たらそう書いてあったんだもん」

「偶然って……隅々って……勝手に見ないでよーっ」

「だって、手帳さんがママにサインしてほしいって!」

とても、中学生の子持ちとは思えないくらい可愛らしく、人差し指を頬に当てながら言う母親に、愛は思わず声を荒げる。

「もーーっ、ママってばいっつもそうなんだから!!」

「まぁまぁ、愛ちゃんも落ち着いて。それで?愛ちゃんがアイドルのテストを受けてるのは聞いてたけど、受かる自信はあるの?」

「うっ……」

娘の反応を愉しんでいる舞に苦笑しながら、颯馬は問いかけるが、それに対して愛は痛い所を突かれたと動きを止める。

「あらあらどうしたの、愛?ダンマリ?」

「……自信なんてないに決まってるもん。知ってるでしょー。でもあたしだってアイドルだったママの子だもん。そのうちきっと……」

目を閉じ、自分が活躍する姿にひたる愛に、元伝説のアイドルと、現役のトップアーティストからダメだしが入る。

「あら、私の娘とかってあんまり関係ないんじゃない?だって愛、歌もダンスもヘタよね?」

「舞さんの娘だからって思ってると、まわりからそうとしか思われなくなるよ?何より、舞さんと愛ちゃんじゃタイプが違う」

「ママ!ハッキリ言わないでよーーっ!…………もうっ。そー兄さんも、タイプが違うってどういうこと?」

自分で言ってはいたが、母親のことがコンプレックスになっていた愛は、しょんぼりとしながら、颯馬に聞き返す。

「舞さんは、歌、踊り、キャラクターの全部が突出した魅せるタイプのアイドルだったけど、愛ちゃんは与えるタイプのアイドルだと思うんだ」

「与えるタイプ?」

「そう。歌やダンスが優れているわけじゃないけど、自分の仕事が大好きで、精いっぱいの元気と明るさで楽しくさせてくれるアイドル。愛されるアイドルとも言えるかな……最近活躍してる、天海春香みたいなタイプだね」

だから、自信がないとか言っているうちはダメだと思うよ。

トップアーティストとしての颯馬の言葉に、愛は内心で深く唸った。

アイドルになりたいと頑張ってはいたが、どんなアイドルになりたいかは明確に考えていなかったし、自分の強みは元気くらいだと思っていたからだ。

「まったく、颯馬くんは愛に甘いわねー」

「可愛い妹分ですからねー。それに、アイドルにとって大切なことは、既に愛ちゃんは持ってますから」

考え込んでいる愛は気付いていないが、颯馬と舞は優しい目で愛を見つめていた。

「ま、アイドルもオーディションも、駆け上がってぶんどればいいのよ」

「まぁ、否定はしませんけど」

規格外の二人の言葉を、愛は強制的に聞き流すことにするのだった。
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