竜の小説集
□恋姫†無双〜白馬の主従〜まとめ(完結)
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「突撃ぃ!!」
大将である公孫賛の声と共に整然と陣形を組み突撃する白馬の騎馬隊。
「やっちまぇぇぇ!」
対するは、義を失いもはや単なる賊と化した黄巾の兵。
公孫賛軍一万、黄巾軍二万が遼西群の群境にて、衝突した。
傍目から見れば兵数で黄巾軍が有利に見えるこの戦い。
事実、黄巾軍の兵士達も2倍の兵力差に自分達の勝ちを疑っていない。
だが、現実は全く異なるものとなる。
公孫賛軍が誇る白馬陣の巧みな連携と、騎馬の持ち味である突撃力の前に黄巾軍は陣形を崩され、勢いを失っていく。
そして、乱れた所にさらに追い討ちをかけるように歩兵や弓兵の攻撃を加えられて徐々に崩れだしていった。
「進め!敵に私達の力を見せてやれぇ!!」
『おぉぉぉぉぉ!』
一方、公孫賛は自軍の兵達を鼓舞し、果敢に敵兵に切り込む。
そこに、戦況を察した将の一人が公孫賛に近づき進言をする。
「お嬢」
「お嬢言うな!」
「仕方ないでしょう?お嬢が白蓮と真名で呼ばれるのを恥ずかしいというからお嬢呼んでるんだ」
「うぅ…だって、なんかこっぱずかしいじゃないか…」
「それより、敵が崩れ出しだしました。畳み掛けるなら今です」
進言した将の名は関靖、字を士起、真名は月渓。
公孫賛の信頼も厚く、軍においては将と軍師を兼任する公孫賛軍のNo.2である。
また、公孫賛の真名を呼ぶ事を許された唯一の部下でもあった。
「わかった……敵が崩れたぞ!全軍突撃ぃ−!!」
『うぉぉぉぉぉ!!』
月渓の進言通り、タイミングを逃さず全軍攻勢に出た公孫賛軍。
それを前に黄巾軍は瞬く間に瓦解していった。
そして、一人…また一人と逃げ出していき、ついには全員が退却を始める。
だが、公孫賛軍がそれを逃すはずもなく。
「月渓!このまま追撃をするぞ!!」
「無論。逃がしても益などないですからね…このまま追撃するぞ!お嬢に続けぇ!!」
猛烈な追撃をかけて散々に黄巾軍を打ち破った。
これにより、遼西群及び周辺の黄巾軍は駆逐されるのだった。
黄巾賊を駆逐した後に残るは勝利の凱歌、勝利の宴、仮初めながらもやってきた平穏。
そして…
「はぁ、いつになったらおわるんだ…」
目を背けたくなる程の書類の山だった。
戦の後には当然の如く戦後処理がある。戦にかかった費用、兵の損害、黄巾賊による村々の被害の報告、復興にかかる費用の試算結果などに目を通し、確認しなければならない。
それに加えて、黄巾賊を駆逐したことで新たに傘下に加わってきた街の処理、普段の内政の仕事もあるので一人では処理しきれないのは当然のことであった。
文官達にでも押し付ければいいものだが、根っからの良い人の白蓮にはそんなことができるはずもなく、結局執務室に缶詰になった。
「はいはい、溜め息つく前に手を動かしてください。俺も手伝ってあげますから」
そんな、白蓮の様子に苦笑しながらもしょうがないなぁと積んである書類を片付けだす軍師の月渓。
「悪いなぁ、月渓。お前も自分の仕事あるのに」
「まぁ、いちおう軍師ですからね。あぁ、これ決済お願いします」
「はいよ。でも、やっぱりありがとな。月渓が軍師で良かったよ」
二人での作業で書類が減りだしたためか、改めて軍師の存在に感謝する白蓮。
その感謝に月渓は先程と同様に苦笑する。
「嬉しいですけど書類仕事で感謝されても…ま、頑張りましょう。苦労の分だけ報われますよ」
「だと良いなぁ」
もっとも、人の良いお嬢はそれ以上に苦労するだろうけど…と月渓は内心思ったが口には出さなかった。
しばらく黙々と仕事をしていたが、月渓がふと部下から聞いた事を話し出す。
「そういえばお嬢、最近、幽州のとある街に天の御遣いが現れたって話知ってます?」
「天の御遣い?」
その言葉に胡散臭そうな顔をする白蓮。
「なんでも、きらきらと光る服装をしていて、二人の部下と共に民衆を率いて街を襲う黄巾賊を撃退したとか。今は、街の県令になってるらしいですよ」
「へぇ、そんな奴がいるのか」
「天の御遣いかはともかく、それなりに実力があるのは確かでしょうね。近所ですし、そのうち会うかもしれませんね」
「まぁ、どんな奴か興味はあるな…と。あ〜やっと半分か」
ようやくとはいえ半分まで仕事を片付け思わず背を伸ばす白蓮。
「これなら、今日中には終わりそうですね。一先ず休憩にしましょうか」
「そうだな、お茶でも飲もう」
と、それを遮るように兵士が部屋にやってきた。
「申し上げます。我が軍に加わりたいと申すものが目通りを願っているのですが」
「まったく、休憩する時に限って…」
「まぁまぁ、仕事するわけじゃないですし。それに、優秀なら部下にして仕事を任せられるじゃないですか」
「そりゃ、わかってるけど…私って運がないのかなぁ」
仕舞には落ち込みだす白蓮。
「大丈夫ですよ。お嬢にも良いことありますって」
結局、謁見の間に着くまで月渓は慰めることとなる。
「我が名は趙雲、字は子竜。困窮する庶人を救うべく各地を旅しながら武を磨いている者、此度は貴殿の軍に加えて頂きたく参った次第」
そう言って、片膝をつき口上を述べる趙雲と名乗る少女。
白蓮の傍らで、見ていた月渓は一目で趙雲が只者ではないと感じていた。
凛として美しい容姿もそうだが、なにより趙雲が放つ武人としての空気が己以上に感じられたからである。
白蓮も同様に趙雲が只者ではないと感じたようだった。
「趙雲とやら、お前が加わることに依存はない。だが、まずは実力を試させてもらう。良いな?」
「構いませぬ。ですが…」
趙雲はそこで言葉区切ると視線を月渓に向け…
「お相手は貴殿に願いたい」
挑発的な笑みと共に月渓を指名してきた。
「ほう」
「ムッ……」
その指名に月渓は笑み浮かべ、白蓮は趙雲の態度に不快に眉をよせる。
「月渓は一応ウチで一番の武人だ。恥をかいてもしらんぞ」
「ご心配には及びませぬ」
「クッ…」
「落ち着いてくださいお嬢。俺は構いませんから」
月渓は白蓮をなだめると自分の獲物を抜いて趙雲に近づく。
「公孫賛が将、関靖だ」
「ほぉ、貴方が関靖殿か」
「いかにも。お嬢の前で恥をかく訳にもいかん、本気でいかせてもらう」
「フッ、公孫軍一の武人の実力、みせて頂く」
二人は互いに軽口を言うと武器を構え、戦闘態勢にはいる。
まわりの者も緊張していく空気を感じ取ったのか静かになっていった。
そして
「行くぞ!」
戦いの火ぶたは月渓の先制によって切って落とされた。
結論から言うと勝負は引き分けとなった。
速さと間合いが有利な趙雲に対し不利を補うように極力接近して巧みな剣技を振う月渓。
両方が一般的な目から見れば達人レベル。
腕試しを超えて本当に殺し合いをしているように見えて止められたのである。
月渓が怪我をしたら仕事が終わらないという考えが白蓮にあったのも確かだが。
もっとも、続けていれば自分の負けだったと月渓は述べ、実質的には趙雲の勝ちとなり、客将として趙雲は迎えられたのだった。
「で、どうしたんですか?お嬢」
だが、優秀な武将が入った一方、趙雲と反りが合わないのか白蓮はここのところ不機嫌になっていた。
「別に、ただちょっと趙雲がな…。なんか、合わないというか」
「あ〜でもしょうがないんじゃないですか?客将だし、お嬢が主に足る人物か見定めてるんですよ」
「いい迷惑だ」
疲れた表情でそう返す白蓮に、やっぱ苦労しやすい人だなぁと月渓は苦笑した。
「まぁ、それに関しては俺から言っておきますよ」
「そうか、悪いな」
愚痴を言って少しすっきりした様子の白蓮に安心した月渓は、様子見も兼ねて趙雲の元へと向かった。
「趙雲殿、少し良いかな」
「これは、関靖殿。どうしました?手合わせですかな?」
「いやいや、手合わせをしに来た訳でわない」
「むぅ、それは残念だ」
本当に残念そうな趙雲に思わず頭をなでそうになるが、思い止まり月渓は本題を切り出す。
「用とはお嬢の事だ」
「公孫賛殿の?」
「ほら、よくお嬢を見定めてるだろう?それで、疲れていてな」
「あぁ、それは失礼した。必要なことだった故な。もっとも、もう見定めるつもりもないが」
「ふむ、差し支えなければ聞かせてくれ」
「無能ではないが、王の器ではない。地方の領主が限界だろう」
はっきりと断言する趙雲に思わず月渓は苦笑いした。
「これは、またはっきりと言うな」
「ついでに言えば私は関靖殿は一国に仕えるべき武将だと思うがな」
武人としても軍師としても確かな力を持つ月渓に、趙雲は地方の領主の部下に収まるべきではないと言外に述べていた。
「過大評価だな、それに俺は望んでお嬢の元にいるのでな」
「そうか」
「ところで、見定めたということはここを去るのか?」
「いや、まだ暫くはいるつもりだ。関靖殿と共に戦をしてないからな」
「フッ、それでは期待に応えないとな」
この数分後、公孫賛の元に黄巾賊出現の報が入り、討伐のため遠征が決定される。