竜の小説集

□外史程普伝まとめ(未完)
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盗賊の討伐はあっという間に終了してしまった。

しかも、戦い方が圧倒的多数によるごり押しだから開いた口が塞がらない。

被害を出さないような戦術を提案をしてみたが、張勲の

「何言ってるんですか−、お嬢さまの無茶苦茶な指揮だから楽しいんですよ。普通に勝っても詰まらないじゃないですか」

という言葉にばっさりと切られてしまった。

彼女の行動基準は全て袁術ということは間違いない。

結局、袁術の全軍突撃という順序もへったくれもない総攻撃が始まったのだ。

ちなみに俺は現場での指揮をとっていた。

やっとまともな指揮官が来たと兵士が泣いていたのは余談である。

正直、皆が「ダメだこいつら、早くなんとかしないと」と、思ってたらしい。

「終わりましたよ」

「早かったですね−ご苦労様でした」

「うむうむ、さすがは袁家の将じゃ」

「いや、正確には違うんですけど……いいか。じゃ、お菓子食べに行きます?」

「そうじゃった!七乃、程普!早く村に行くのじゃ」

「わかりました−」

「焦らないでもお菓子は逃げませんよ」















side冥琳

孫呉の復建と月渓殿の奪還を誓った私達は、着実に力を溜めていっている。

雪蓮も王として自覚を持ち始めたし、祭殿や思春は調練に余念がない。

そして、新たな戦力も入り始めている。

「よろしくお願いします〜冥琳様」

「あぁ。その力、しかと孫呉に役立ててくれ」

今、私の目の前にいるおっとりとした少女……陸遜――真名は穏――がその一人だ。

名家である陸氏の才媛であり、知識は中々であるし、貪欲な知識欲もある。

いずれ、孫呉の再起と袁術打倒の力となるだろう。

「ところで、冥琳様。ここには孫氏の兵法書があると聞いたのですが〜」

口ぶりからみて、早速、書物を読みたいのだろうが……

まぁ、内政に関しては手伝わせながら覚えさせれば良いし構わないか。

「その通りだが、読むか?」

「是非っ!!」

「そ、そうか……」

ずいっと身を乗り出すように迫る穏に思わず引いた。

「では早速行きましょう!早く、早く読んでと書物が私を読んでいるんです!!」















この後、穏にむやみに書物を与えたことを私は後悔した。





袁家に来てから早三年。

気付けば袁術(美羽)と張勲(七乃)からは真名を許され、仕事も重要なものを任されていた。

いや、正確には七乃がサボってる仕事の肩代わりだが……

ちなみに、真名を許されてからは七乃とは冥琳、美羽様とは雪蓮様と接するような話し方になっている。

「のう、月渓。暇なのじゃ−」

「そう言われましてもねぇ……」

「それに七乃はどこにいったのじゃ?今日は三人で出掛けると申したのに」

詰まらなそうにする美羽様に良心が痛むが、仕方ない。

何故なら、現在七乃は袁一族の粛清をしているからだ。

今だに幼い美羽様を傀儡としようとしたのが事の発端だった。

今までは七乃が美羽様を守るだけで精一杯だったのが、俺の存在によって余裕が出来たせいだろう。

危機感を抱いた外道共は軽挙な行動に移った。

だから、七乃は美羽様の為に粛清を始めたのだ。

もっとも、傲慢で私利私欲の塊達が消えて民や将兵からの支持が高まったから、かえって雪蓮様達に悪いことをしたが。

まぁ、大丈夫だろう。

今回の粛清で袁家自体の力は落ちたし、潰した奴らの後釜は親孫呉の者につかせるつもりだから。

とりあえず今は――

「では美羽様。二人で七乃を迎えに行きますか?きっと喜びますよ」

「うむ。名案なのじゃ!」

美羽様の相手をしようか。

というか最近、俺と七乃に対する甘え方が親にするのと似てきて複雑だなぁ……















side冥琳

「粛清だと?」

袁術に送り込んだでいた工作員からの報告に私は眉をひそめた。

「はい。粛清されたのは袁術と対立していた袁一族の者達です」

「権力争いか……しかし、袁術は自由になり、民も虐げてきた者がいなくなり喜んでいる。まずいな」

三年の間に順調に私達は力をつけ、準備を進めてきた。

だが、ここで袁術の力が増してしまったら孫呉復興が困難になってしまう。

「ですが、粛清された者達の後任のほとんどが呉と親交のあった者や、呉の復興に賛同している者でした」

「なんだと?」

その報告に思わず私は驚いた。

当然だろう。

そんな事には意図的に誰かがしないかぎりならない。

ならば誰が?

そんな事をできるのはただ一人――

「月渓殿。貴方は苦境にあってなお私達の為に……」

その思いに胸が熱くなる。

そう遠くない未来、私達は呉を取り戻す。

その時は、精一杯、月渓殿に恩を返そう。





相も変わらず仕事、たまに美羽様と遊ぶ、蜂蜜採集と過ごしていたら一年が経った。

そして、ついに戦乱のきっかけともいえる出来事が起こる。

そう、黄巾の乱だ。

大賢良師張角が率いる黄巾党は猛烈な勢いで大陸に広がっていき、自らの力で抑えることの出来ない朝廷は各諸侯へと鎮圧を命じた。

もちろん、美羽様にも黄巾党鎮圧の命が来た。

当然の如く、面倒臭いとか孫策にやらせれば良いとか丸投げしたけどな。

まぁ、名を上げるには丁度良いだろう。

あの面子で賊軍ごときに負ける気がしない。

というわけで、荊州にいる黄巾党本隊は雪蓮様達に任せた。

流石に物資はいくらか融通したけどね。

で、後は残った分隊を袁術軍が駆逐しました……と。

しかし、美羽様はさらに20万とも言われる黄巾党本隊との決戦を雪蓮様に命令した。

無茶だよなぁ……案の定、そのかわり〜〜みたいな感じでいろいろ認めちゃったりもしたみたいだし。

もう一押しか二押しあれば孫呉復興も近いかもしれん。















side蓮華

「ふぅ……」

「どうかされましたか?」

僅かなため息にも心配する思春に私は苦笑する。

「いよいよ……いいえ。やっと、孫呉独立に向けての戦いが始まると思って」

「そうですね。長きにわたる雌伏の時でした」

そう、母様が亡くなり、月渓がいなくなってから四年……長かった。

だけど、ある意味ではあっという間だったのかもしれない。

無力を嘆き、大切なものを取り戻す為に私は己を磨き続けたのだから。

悲しむことしか出来なかった昔の私はもういない。

「ですが蓮華様。肩に力が入り過ぎるのも良くわありませんよ?」

そう言われて、無意識に力んでた事に気付いた。

「ええ、分かってるわ。でも、もうすぐって思うと」

「焦っては上手くいくこともいきません。もしあの方がここにおられたなら、気楽にとでも言って昔のようになさるでしょう」

思春の指すあの方とは月渓の事。

力んでいたり、緊張したりした時に私の頭を撫でたごつごつした手を思いだす。

「……ふふ、そうね。ありがとう思春。少し力が抜けたわ」

「はっ……」

「月渓……元気かしらね」

「月渓殿はなによりも心が強い方です。きっと、離れていても我らを見守ってくれているでしょう」

そうかもしれない。だけど、きっと辛い目にあってるだろう。

愚かな袁術の元にいるんだから。

「その思いに応えなければね。少し急ぎましょうか」

「御意」
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