竜の小説集

□外史程普伝まとめ(未完)
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黄巾党の乱は終結した。

…………いや、ホントに。

何故、一言かというと袁術軍はほとんど何もしてないからとしか言いようがない。

一応、荊州で暴れていたいた少数の黄巾党は殲滅したけどそれだけ。

後は雪蓮様達が倒してしまった。

理由としては、本拠地だった建業で力を蓄えられたのが一つ。

親孫呉の者達を増えたのが一つ。

そして、それにより、徴兵や物資など戦を行う上で必要な物や、準備がスムーズにできたからである。

黄巾党本隊をも撃破した雪蓮様の名声はかなり高まったと言って良いだろう。

ついでに、自分がやれ言ったのに、雪蓮様の名声が高まるとずるいのじゃ−と文句言ってる美羽様は可愛かった。

「ところで美羽様」

「なんじゃ月渓?」

「この前、何進と十常侍が争ってるって言いましたよね」

そう、黄巾の乱が終わって幾許もしない内に帝が亡くなり、中央は何進と十常侍の権力争いが起きたのだ。

「うむ。それがどうかしたのかえ?」

「最終的に勝ったのは董卓だそうです。」

「うむ!」

胸をはって頷く美羽様……じゃなくてっ!

「いや、うむ!じゃなくて……他に何かあるでしょう。今、一番偉いのは董卓ってことですよ」

「何じゃそれは!」

ようやく分かったのか騒ぎ出す美羽様。

と、そこに楽しそうな顔をした七乃がやって来た。

「美羽様〜袁紹さん達おバカさんから面白い檄文が届きましたよ〜見て下さい」

「おぉ、七乃!檄文じゃと?ふむ……んと、とうたくはゆるせないので、みなさん、やぁっておしまい−」

「あらほらさっさ−♪」

「いや、なんだそれ」

檄文の内容もそうだが、いきなり変な掛け声を出す七乃に思わず突っ込む。

「いやぁ……何だか言わなくちゃいけない気がして……っていたんですか月渓さん」

「毎回毒舌だなお前は……」

「そんなことより続きを妾の代わりに読むのじゃ。月渓」

「では、読ませて頂きます」

お馴染みの毒舌に脱力しながらも、檄文を受け取って読む。

そこには反董卓連合参加を求める内容が書いてあった。

そして、内容を分かりやすく美羽様に伝える。

すると――

「いやじゃいやじゃ!」

袁紹の下につくのを嫌がってごねてしまい、俺はなんとか美羽様にやる気を出させようとする。

「あ−……ほら、上手く立ち回れば美羽様が有名になりますよ。それに、洛陽に入れば皇帝にもなれるかも――」

「妾が皇帝っ!?」

「なりましょう〜♪蜂蜜水が飲み放題ですよ!」

「妾は皇帝になるのじゃ!」

参加する気にはなったが、地雷を踏んだかもしれない……





連合参加を決めた袁術軍は直ちに準備を始めた。

ただ、派手好きというか見栄っ張りな美羽様によって(七乃の入れ知恵)本来予定したいた数よりも多くなってしまって時間がかかった。

まぁ、時間がかかった分他の事にも気をまわすことができたんだが……

ちなみに、何をしたかといえば董卓の情報を集めだ。

これは、俺が知っている董卓とどこまでずれているかの確認でもある。

涼州の隴西を治めていた。

しかし、軍師は李儒ではなく賈駆。

配下には呂布、張遼、華雄。

…………調べた結果、ほとんどは同じだったが軍師が賈駆というのは拙い。

まだこの世界では董卓同様ほとんど知られていないらしいが、賈駆といえば史実で曹操すら破ったことがある知略の持ち主だ。

あの呂布がいることも考えたら、生半可なことでは勝てないだろう。

しかも、呂布には陳宮という配下がいるとかいないとか……

史実だと陳宮が呂布の軍師になるのはもっと後のはずだが、本当ならヤバい。

袁術軍が活躍するのは雪蓮様達の事を考えたら良くはないが、そうも言ってられんかもしれんなぁ……

美羽様と七乃と自分が死なない程度には頑張ろう。

それと美羽様、普通に俺に部隊を与えないで下さいよ……

堂々と『程』の旗を掲げちゃってるけど、結構ヤバいって。

雪蓮様達を挑発してるように見えるし、これでもそこそこ名が通ってるからなぁ。

いまさらだって言うかもしれないけど、今までは七乃の代わりをしてただけで、あんまり表には出てないんだよね。















side曹操軍

「華琳様、新たな軍が来たようです」

「旗は?」

「袁、張、それと……程?」

首を傾げる荀イクに曹操は少し考え込むようにして答える。「程……多分、程普ね」

「程普。確か、江東の虎の……」

「孫堅の死後、いろいろ動いている噂は聞いたけど、袁術の下にいるのは本当の主君を守るため……というところかしら」

父親や祖父を宦官に持つ曹操は、そういう宦官関係の話などは情報として集めているため、ほぼ正確に事情を把握していた。

「人質……でしょうか」

「なんにせよ不愉快ね。袁術の下に置くにはもったいないわ」

「はい。ところで、あれでは孫策を挑発しているとしか思えないのですが」

「そうね。でも、あの袁家の者なんだから、そんなことも考えてないと思うわ」

曹操はもう一人の袁家である袁紹を思い出し、呆れたようにつぶやくのだった。





「さ、さて。皆さん!この連合軍にはまだ足りないものがありますわ!」

諸侯が集まる天幕は、異様な雰囲気に包まれていた。

連合軍の総大将を決めようとする袁紹の演説も、心無しかおっかなびっくりである。

曹操は面白そうに笑みを浮かべ、劉備と側に控える軍師と思われる少女はあわあわと、馬超や公孫賛、その他の諸侯は早くこの軍議が終わるのを祈るばかり。

しかし、この異様な雰囲気の元凶の片割れである袁術は、そんな空気すら読めていなかった。

「なら妾が総大将になるのじゃ!のう。七乃、月渓」

「そうだ、そうだ−♪」

「…………」

「…………っ!」

美羽が月渓の名を呼んだところで、元凶のもう一人の片割れである孫策からさらに殺気が滲み出していった。















事の発端は、軍議での各諸侯の名乗りだった。

「……幽州の公孫賛だ。よろしく頼む」

「平原郡からきた劉備です。こちらはわたしの軍師の諸葛亮」

「涼州の馬超だ。今日は馬騰の名代としてここに参加することになった」

「健業の孫策よ」

次々と諸侯が名乗っていき、曹操の時は――

「……典軍校尉の曹操よ。こちらは我が軍の夏侯惇、夏侯淵……それから、北郷」

――噂の天の御遣いが紹介され、注目を浴びたりもした。

ここまでは、和やかに……というのもおかしいが順調に運んでいた。

だが、袁術の名乗りでそれは一変する。

「袁術じゃ。河南を治めておる。まあ、皆知っておろうがの!それと、妾の配下の張勲と程普じゃ」

程普、その名が出されると、天の御遣いの時のように場がざわめく。

このざわめきは、江東に近い諸侯であるほど大きかった。

江東の虎の配下として、黄蓋と共に名を馳せた程普が袁術に仕えているというのは驚くべき光景だったのだ。

ある者は袁術などにという思いから、またある者は程普という人物が孫呉を離れるはずがないという思いから……

しかし、とりわけ反応が大きかったのはやはり孫策―雪蓮―だった。

孫呉のために身を差し出し、今もなお孫呉に尽くし続ける忠臣。

そして、公私共に大切な存在だった程普を当然の如く配下として扱う美羽に、雪蓮は内心怒り狂っていた。

その上、諸侯の反応に気を良くした美羽はあろうことか雪蓮の前で「月渓」と程普の真名を呼んでしまう。

当然、月渓が真名を許すはずかないと考えている雪蓮は、程普の真名が汚されたことに殺気をあらわにした。

結局、この状況は諸侯の勧めで袁紹が総大将に決まるまで続いたのだった。





…………胃が痛い。

軍議の時はやばかったって。

数年ぶりに見た雪蓮様は、孫堅様に似て美しく、そして立派になっていた。

それだけでも、この場に来たかいがあったものだ……と思ったのもつかの間。

まさかの美羽様の暴挙。

いや、本人は調子のっただけで微笑ましいんだけどさ。

時と場合を考えて欲しかった……

真名まで呼ぶものだから、雪蓮様から殺気が溢れること溢れること。

俺が許したんだけどね。

孫呉復活のあかつきには恐ろしいことになる気がしてならない。

美羽様と七乃どうしようか……















side孫呉

「袁術の軍には、月渓殿も参加しているようだな」

「そのようです。しかし、あそこまであからさまに……」

孫策軍の陣地では、冥琳と思春が話していた。

袁術軍の陣地がある方角に視線を向ける二人の表情は苦々しい。

「狙ってやっているのか、考えもなしにやっているのか……どちらしろ、許せるものではない」

程の旗を見た時は、冥淋と思春も態度には出さなかったが怒りを抱いていたのだ。

恐らく、この場に蓮華がいたなら激昂していただろう。

と、二人のところに軍議を終えた雪蓮が戻ってきた。

隠しようのない怒りを滲ませながら。

「お帰りなさい。雪蓮、軍議はどうだった?」

冥琳は雪蓮の様子に眉をひそめるが、まずは軍議の内容を尋ねる。

「先鋒は劉備軍に決まったわ」

「劉備か……それで?」

「それだけよ」

「決まったのはそれだけなのですか?」

「そ。後は正面から突っ込むだけ」

「なんだそれは……策とすら呼べん」

あまりにも阿呆らしい軍議の内容に冥琳と思春は呆れてものも言えなかった。

「仕方ないわ……決めたのは袁紹だもの。ほんと、袁家ってろくでもないわね」

吐き捨てるように愚痴を言う雪蓮に、冥琳は袁術が何かしたのだろうと考えて聞いた。

「軍議のことは分かった。で、何があった?」

「……袁術が軍議の時に我が物顔で言ったのよ。月渓を配下って」

「ふざけたことを……」

「それだけじゃない。袁術は……真名を呼んだのよ!」

「なんだとっ!?」

「真名を汚したというのですか!?」

袁術が程普の真名を呼んだことを聞いた瞬間、二人は殺気立つ。

奴らはどれ程あの方を苦しめるのかと。

「今は我慢するわ……でも」

「ああ、いずれ必ず……」

「無論です」

袁術を討つという雪蓮の意思に二人も同意する。

後に蓮華たちにもこのことは話され、袁術は孫呉にとってまさに不倶戴天の敵となるのだった。
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