竜の小説集

□恋姫†無双〜白馬の主従〜まとめ(完結)
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遠征が決まってから公孫賛軍はただちに七千の遠征軍を組織し、遼西郡を出発した。

「言ったそばから戦とは…きっと私の日頃の行いが良かったのだろうな」

「いや、普通は逆だと思うぞ」

喜々として自分の得物を握る星に呆れと苦笑いが混じった表情を浮かべる。

それを見て、さすがに不謹慎かと思った星は、話題を変えて誤魔化すことにした。

「ところで、月渓殿。私はどう動けばいい?勝手に動けというならそれでも構わないが」

「俺としては遊撃になってもらおうと考えている。その方が派手に動けるだろうし、本人の希望にもかなうだろう?」

月渓がそう言うと趙雲は分かってるじゃないかと獰猛な笑みを浮かべる。

と、その時。

「伝令です!」

「どうした?」

「討伐するはずだった黄巾軍が近隣の黄巾軍に合流、そのまま幽州の黄巾軍を集結させ一大軍団を形成しました!」

「なんだと!?」

突如、入ってきた報に二人は驚くがすぐさま心を落ち着け指示をだす。

「すぐに軍議だ。お前らは黄巾軍の動向を探れ。趙雲は一緒に軍議に参加してくれ」

「はっ!」

「わかった」














「お嬢」

「おお、二人とも来たか」

「公孫賛殿、状況は?」

星の問いかけに苦々しい顔をする白蓮。

「よくないな。こっちが七千に対して向こうは三万五千だそうだ」

「そりゃまた…豪勢ですね」

「ふん、腕がなるではないか」

「お前、それ本気で言ってるのか?」

問題ないと言わんばかりの星にアホを見るような目をする白蓮。

だが、それを気にすることもなく自論を展開していく。

「所詮は数ばかりの下郎、一騎当千の者が当たればたちまち崩れるだろう。ただちに吶喊すべし」

「めちゃくちゃなことを言う。それこそ兵法の基本を無視した邪道ではないか」

「それは正規の軍に当たる時の正道でしょう。あのような雑兵に兵法など必要なし!必要なのは万夫不当の将の猛撃のみ!」

「二人とも落ち着け」

段々と熱くなっていく議論をとめ、月渓は二人を落ち着けるように話し出す。

「趙雲殿の考えは勇ましいが、俺達は将だ。如何に損害を減らし、勝利するかを考えなければならない。

今、この状況でとる策は一つ。啄県への道を塞ぎ、陣地に籠るんだ。

理由は三つ。

一つ目は他の場所は曹操軍や袁紹軍で備えが万全だということ。

二つ目はここを通してしまったら大きい勢力がない幽州では太刀打ちできないということ。

そして三つ目、ここで黄巾軍を防ぐことで援軍が見込めるということだ」





「援軍だと?」

「ええ、もちろん援軍の要請をしなければいけませんけど」

「して、どこに要請するのだ」

「北郷軍だ」

その名に怪訝そうな顔を浮かべる二人。

「ほら、噂の天の御遣いですよ」

「あぁ、あそこか!」

「それに、もともと北郷軍が上手く黄巾軍を駆逐しすぎたのが原因ですから」

それらの月渓の考えに白蓮は賛成し、星については活躍の場を作るという条件で納得させた。

方針を決めた公孫賛軍はただちに使者の派遣し、陣地の構築を開始した。














そして、敵の防ぐこと数日。

敵先遣隊を撃破した北郷軍が到着した。

「申し上げます。到着した北郷軍の大将がお目通りをねがっています」

「わかった、通せ」

兵士に通すよう命令した白蓮は傍らに控えさせている月渓と星に話しかける。

「なぁ、天の御遣いとはどんな奴だと思う?」

「さぁ、なんでも二人の猛将を従えてるとか聞きましたけど」

「私が聞いた話だと、見たこともない光り輝く衣服に身を包んでいるとか…」

そうやって暫く三人で天の御遣い談義をしていると、白く光る衣服を着た少年と帽子をかぶった少女がやってきた。

「へぇ……お前が天の御遣いと噂されてる男か」

噂通りの姿に白蓮は思わず無遠慮に相手を眺め回すが、流石に礼を失したかと謝罪する。

「ははっ、すまんすまん。ちょっと失礼だったな」

「いや、気にしないでくれ」

「ま、これからよろしくな」

「こちらこそ。それと、黄巾党を抑えてくれてありがとう。あなたがいなければもっと被害が出ていたよ」

「なーに、礁や河北は備えが万全だろうしたまたまだよ」

「それでもありがとう」

「ええい、礼なんか言うなっ
!こっぱずかしいじゃないっか!!」

律儀に礼を述べる一刀に照れくさくなった白蓮は、強引に月渓達を紹介する。

「あ〜紹介しよう。こいつは関靖、うちの軍師だ。で、こっちは客将の趙雲だ。月渓、後は頼む」

「わかりました。では、北郷殿。そちらはどれくらい軍を?」

その問いに一刀は傍らにいた少女を前に出す。

「それについてはうちの軍師が答えるよ。朱里」

「はい。先ほどの別動隊との損害と補充兵の数を考えて五千前後…といったところでしょうか」

「合わせて約一万二千か…」

「敵の総数は?」

「三万五千です。だが、北郷軍が来たおかげでなんとかなるでしょう。お嬢、ただちに軍議をを。北郷殿は待機している武将も連れてきてください」

月渓の指示を受け、両軍の将が慌しく動き出した。





「それでは、ただいまより軍議を始めます」

集まった両軍の将を見まわしながら、月渓は今回の作戦を話始める。

「敵軍は三万五千。我々は一万二千程。正直に当たっては話になりません。そこで、こちらは八門金鎖の陣を使いたいと思います」

八門金鎖の陣とは、休・生・傷・杜・景・死・驚・開の八門からなる陣である。

生・景・開門からはいれば助かるが、傷・休・驚門から入れば痛手を負い、杜・死門に入れば滅亡すると言われている。

「八門金鎖の陣ですか…」

北郷軍の軍師である朱里はそれが有効か計算しだす。

「ですが、ただ待ち受けるわけではありません。敵を上手く呼び寄せるため、最初に少数で突撃します。この役は…趙雲殿と関羽殿にお願いしたい」

「ふむ、心得た」

「わかりました」

約束どうりの活躍の場の趙雲は笑みを浮かべ、関羽は丁寧に返事を返す。

「そして、これは保険の意味もありますがお嬢には騎馬隊二千で背後から奇襲をかけてもらいます」

「わかった」

「以上が今回の作戦です。孔明殿、なにか意見はありますか?」

聞かれた朱里は少しの間をもって答える。

「いえ、私も関靖さんの案に賛成です」

「では、各自指示通りに動いてください」
















そして、ついに黄巾軍があらわれ、公孫賛・北郷軍に向けて動き出す。

野を覆いつくす三万五千の賊を前に趙雲は笑いをこぼす。

「ふふふ…なかなか勇壮だな」

その様子に関羽は呆れた眼差しを送る。

「呆れた奴だ…」

「せっかく武勇誉れ高き関羽殿と共闘してこのような場所に立てるのだ。仕方あるまい。いっそのこと、関靖殿と張飛殿も加えて一気に賊を打ち破るのもいいがな」

「ほぉ、関靖殿はそれほど腕が立つのか」

自らの目で見て強いと感じた趙雲の彼に対する評価に関羽は興味を示す。

「武の腕だけをみるなら私や関羽殿より下だ。だが、関靖殿は経験や技術でそれを補っている。強いというより上手いな」

「てっきり、軍師だと思っていたが成る程…一度手合わせ願いたいな」

「その時は是非私も…と、そろそろだな」

「あぁ」

話を切り上げ、二人は纏う空気を一変させていく。

そしてーー

「常山の昇り竜、趙子龍! 悪逆無道の匪賊より困窮する庶人を守るために貴様達を討つ! 悪行重ねる下衆どもよ! 我が槍を正義の鉄槌と心得よ!」

「そして賊徒よ刮目せよ! 我が名は関羽! 天の御遣いにして北郷が一の家臣! 我が青龍刀を味わいたいものはかかってこい!」

二人の戦乙女の名乗りによってついに戦端が開かれた。





目で追うことすら許さない神速の突き。

一度に幾人もの敵を屠る豪撃。

互いの隙を補うように呼吸を合わせ、死の舞踏を演じる二人の前に賊徒達は次々と血華を咲かせていった。

彼らからすればありえないはずの光景。

得物を振い、等しく死をもたらす様は正にーー

鬼神。

彼女たちの前に圧倒的有利なはずの黄巾軍の兵達は怯み、己の命を惜しみ始めた。

「そろそろ頃合いか…」

油断なく得物を構えながら呟いたその言葉に応じるように本陣から合図が鳴り響く。

「合図だ。趙雲殿、引くぞ!」

「応っ!」














「ご主人様!愛紗さんたちが撤退してきます。それを追いかけるように黄巾軍の先陣も続いてきますよ」

彼女の報告に一刀と月渓は迫りくる黄巾軍に目を向ける。

「よしっ!上手く誘えたみたいだな」

「そのようですね。しかし、関羽殿は噂通り凄まじい…」

「自慢の仲間だからな」

自分の仲間が誉められてる事に嬉しそうに反応する。

「ところで関靖さん。できれば普通に話してくれないかな。年上に丁寧に話されるのは慣れなくてさ」

「私は公孫賛の配下なのでそれが普通なのですが…ふむ、ではこれでよいかな北郷殿。流石にこれ以上は崩せぬゆえ」

「ああ、ありがとう」

「ではそろそろ我らも手筈通りに。指揮は北郷殿と孔明殿、張飛殿は私と共に」

月渓の指示に三人が頷く。

「では、張飛殿。我らも関羽殿と趙雲殿に負けぬよう派手に暴れて敵を乱そうか」

「まかせるのだー!」

鈴々と月渓は得物を構えて、誘い出された黄巾軍に突撃した。















作戦通りに誘き出された黄巾軍は休・傷・杜・死・驚に誘われ次々と分断され撃破されていった。

それに加えて、月渓が時に単騎で、時に共闘して猛威をふるい、敵の士気を落としていく。

四人の将と攻めても痛手を負うばかりの陣に黄巾軍はもはやただの有象無象となりつつあった。

そしてとどめに

「敵後方に砂塵と白馬に跨った騎兵の姿が!」

白蓮率いる騎馬隊二千が黄巾軍に背後から襲いかかった。

「来たかお嬢!孔明殿!!」

「はい!呼応して挟撃に移りましょう」

「「「全軍…突撃ぃー!!」」」
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