竜の小説集
□連載予備軍短編集(恋姫以外)と過去拍手
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注1:唐突に浮かんだ妄想を書いたのでめちゃくちゃです。本編?とは関係ないです。
注2:都合により名前を信玄・謙信としています。
信玄の隠し湯――
傷に良く効く効能があり、信玄はこれを利用して兵士の傷が癒えるのを早め、敵が予想するよりも早くに態勢を立て直して撃破したという逸話もある温泉である。
とはいえそれは後年になっての呼ばれるようになったもので、戦国の世では単に傷に良く効く温泉、旅人や周辺の民が疲れを癒す場として親しまれている。
そして、信濃を領有しており、風呂好きとの信玄がそれを見逃すはずもなく、最愛の弟にして最も信頼している武将(信玄談)の信繁と護衛の幸村を連れて訪れていた。
だが、神の悪戯であろうか。
時を同じくして日頃の疲れを癒そうとお忍びで、信玄の宿敵とも言える存在が温泉宿に来ていたのであった。
その人物とは――
「おや、誰かと思えばあなたですか……上杉謙信。我が領地に何か用ですか」
「私はただ客として来ただけであって、誰かのように腹黒く謀略を巡らせている訳ではない」
――上杉謙信。
越後を治める大名であり、軍神・義将として誉れ高い人物である。
だがこの二人……すこぶる仲が悪いのだ。
信玄と謙信は共に戦国の世に名を轟かせているが、そのあり方は真逆と言っても過言ではない。
信玄が掲げるのは武によって天下を統一を目指す覇道であり、謙信が掲げるのは義と信に生きる天道であるからである。
両者は張り合うように並ぶと、お互いデフォルメされた虎と竜の刺繍が入った手拭いで体を隠しながら湯に浸かった。
別に現代のようにタオルを付けたまま入浴するのが禁止されているわけでもないし、この場には信玄の意向によって信繁も同行している為に必然的に体を隠しているのだが。
「どうしました。なにやら顔が赤いようですが……ああ成る程、その無駄な脂肪の塊で私の信繁を誘っているわけですか」
「そ、そちらこそ姉弟とはいえ入浴を共にするなどふしだら極まりない!まったく、ないものねだりとは甲斐の虎は随分と飢えているらしい」
「姉弟で仲良くして何が悪いのです。ああ、すみません。そちらと違って私と信繁は国中で仲が良いと評判なので」
常の冷静な君主である時とは異なり、身体的特徴や心の傷を抉るような口撃を交わす二人。
見るものが見れば、背後に虎と竜が見えたりするかもしれない程に白熱しており、暫くは終わりそうになかった。
だが、そんな二人を尻目に信繁と幸村、謙信の共兼護衛として来ていた宇佐美定満と直江兼続は和気あいあいと交流を深めていた。
「ふむ。姉上があのようにはしゃいでいるのは久しぶりだな」
「謙信様も、あんなに感情的になっているのは久しぶり」
「あの……典厩様。お止めしなくてよろしいのでしょうか」
二人を微笑ましく見ていた信繁と定満に、幸村は仲裁しなくて良いのかと尋ねるが、信繁はあれで楽しんでいるのだと言った。
「お互いの意見を真っ向から言い合える相手というのは貴重なのだ。まして、姉上は国主という立場故にそういう相手がいないからな」
「うん。謙信様は溜め込みやすいから、ああやって自分の感情を出せるのは良いことだと思う。兼続もそう思うよね」
定満が同意を求めると、先程から一言も発していなかった兼続が、恥ずかしそうに声を出した。
「そんなことより!宇佐美殿も真田殿も恥ずかしくないのか!?と、殿方に肌を見せるなどっ」
手拭いで体を隠し、首から上だけ湯から出しながら兼続が顔を赤らめる。
ちなみに、謙信もかなり恥ずかしがっているが、それよりも信玄に集中しているだけである。
「私はその……典厩様ならば、別に……」
「ちょっと恥ずかしいけど、同じ温泉に入ってるだけだから」
「そもそも、上杉と武田は敵同士なのだぞ!」
頬を赤らめる幸村と平気そうに言う定満に対して信繁苦笑して口を開く。
「あー……直江殿の反応が一番正しいと思うぞ。ただ、今は互いにただの客として来ているから、この場においては関係ないということだ。後、嫌ならば目隠しをするなり別の湯に行くが」
「…………」
「う……分かった」
すると、何故か定満がジト目で兼続に無言の訴えをし、兼続もそれに負けた。
「すまないな。まぁ、男としては直江殿のような美人と湯を共にできるのは嬉しく思う」
「び、美人!?」
「私は?」
「定満殿も文句なしの美人だな。少々目のやり場に困ってしまうが」
定満は戦極姫の仲でも有数の巨乳であり、この場において圧倒的な存在感を示していることは間違いない。
というか、その存在感に控えめな幸村や信玄、兼続は女性として怯んでいたりする。
「信繁殿も大きいね」
途端――場が静まる。
兼続と幸村は顔を真っ赤にしながらも視線を信繁の股間に向け、未だに言い争っていた信玄と謙信は陸に揚がった魚のように口をぱくぱくとさせる。
もっとも、片や弟の(禁則事項です)が見られた事に対する怒り、片や初めて(言わせんなよ、恥ずかしい)を見たことによる羞恥という別ものなのだが。
「あー……どういうつもりかな?宇佐美殿」
「宇佐美だから?」
「……そうか。とはいえ、只でさえ器量の良い女子たちに囲まれているのであまり見られると困るのだが」
具体的何が困るかは言えない。
この後、怒れる虎が暴れたり何故か宴会をしたり朝気づいたら信繁の隣に定満や謙信がいてひと悶着起きるのだが、それはまた別の話。