竜の小説集

□連載予備軍短編集(恋姫以外)と過去拍手
4ページ/24ページ

妖怪の山の山中にある大きな日本家屋で、とある妖怪が直面する難題に唸っていた。

通常の鴉天狗よりも大きな翼を背に生やし、見る者を跪かせるような威厳を纏い、妖怪でありながら神のような厳かさを感じるその存在を、人は大天魔と呼ぶ。

大天魔はいわゆる転生者であった。

しかも、遥か昔の――月の民がまだ地上にいた――時代である。

生まれた当初はそこがどこの世界かも分からず、ただ生きるために必死に力をつけ、開花させた能力は名前がある程度の能力(もっとも、その名称は後になって付けられたものであるが)

○○○という名前によって存在が確立されているので境界などの影響を受けず、何者にも依存しない独立した存在となったが故に人がいなくとも妖力は減らず、存在し続けられるという破格の能力である。

長い年月を越えて大妖怪となった彼は天狗の長となり、絶大な力から天魔と呼ばれ、天狗でありながら鬼の長である鬼子母神と並び称される存在となっていた。

歴史でいう平安時代に天魔の地位を後進に譲るが、人妖に限らず広がる多大な影響力を失うことを恐れた天狗たちによって大天魔として祭り上げられてしまう。

もっとも、その恐れ以上に大天魔に対する敬意と尊崇の念があったのは間違いないのだが。

そして、妖怪の山が幻想郷の一部となった今でもそれは変わらず、さらに八雲紫や代々の博麗の巫女など幻想郷の実力者たちにも敬意を払われるようになっていた。

そんな、大天魔が唸るような難題とは――

「…………今日も誰も来ないな」

――友達が少ないことである。














友達――それは友情で結ばれた存在であり、互いの価値を認め合い、損得の関係ない間柄である。

大天魔である彼は、ふとした時に自分の生涯を振り返ってあれ?と思った。

始めの頃は力をつける為に必死で必要以上の関わりを持たなかった。

大妖怪、もしくはそれに準ずる力を手に入れた頃には既に天狗や力の弱い妖怪たちを率いる(庇護する)立場になっていた。

天魔と呼ばれるようになると、集団レベルであった勢力も一つの社会を形成する規模となっていたので、気安い関係を作れる立場ではなく、自由に動くこともできず新たな妖怪や人間との出会いも極端に減った。

天狗たちに懇願されて大天魔という地位になってからもそれは同様であり、さらに歳月を重ねて強く成りすぎたせいで大妖怪と言われる面々も自分に敬意を払うようになった。

「……解せぬ」

かろうじて覚えていたネタを使うが、一人だと虚しいだけだ。

そもそも、天魔である時は――大天魔である今もだが――冗談の一つも言うことができなかった。

これは、集団の長として皆の模範でなければならない、威厳がなければならないという考えがあったからだ。

東方の二次創作で出てくるオリ主は自由であったり言動が幼稚なものばかりだったが、それは集団ではなく個で生きていたからであり、物語の都合上ギャグテイストだったりしたからである。

多くの命を守り、集団を率いる責任があったならばそうならなかっただろうし、最初からバグかチートなので我を通すこともできたのだろう。

しかし、彼は最初からチートでなかく、責任があり、強くて威厳のある長でなければならなかった。

「原作キャラならもしやと思ったが……」

それも儚い夢と散った。

鬼の四天王である伊吹スイ香や星熊勇義は鬼子母神に言い含められていたらしく、天魔とは戦ったが大天魔とは戦わず、交渉して妖怪の山に入った。

八雲紫は幻想郷を作る為の交渉に来ていたのでフランクになれるはずもなく、むしろ天狗や鬼の反対を宥めて幻想郷を認めた大天魔に敬意を持って接するようになった。

風見幽香は大天魔の実力には興味を示していたが、勝負を挑んだ場合のリスクを考えると手を出せず、活動場所が違うので会うこともなかった。

西行寺幽々子は冥界にいるため接触すらしていない。

紅魔館の面々にいたっては天魔、八雲紫、風見幽香、大天魔(自分)という他者から見たら無理ゲーのメンバーで蹴散らして契約を結んだので論外である。

妖怪の山なら文や椛といった天狗や河童のにとり、雛や秋姉妹がいるだろと思うかもしれないが、上下関係はきっちりしているのだ。

例外として閻魔である映姫は定期的に屋敷に訪れているが、それは説教のためであり、彼もそれを有り難く受けているので、関係としては先生と生徒に近い。

「む、そろそろ時間か……」

何気なく時計を見た大天魔は、遅れてはいかんと考え事をやめて外出の準備を始める。

友達の少なさを嘆いてはいたが、いないわけではないのだ。

大天魔である自分に物怖じせず声をかけ、友達となった稀有な存在、それは――

「今日は弾幕ごっこで遊ぶわよ!」

「そうかそうか、お手柔らかに頼むよ……チルノ」

「す、すみません。いつもチルノちゃんの我侭を聞いてもらって」

「気にすることはない。友達だからな。もちろん、大妖精もだ」

「はいっ!」

霧の湖の妖精、チルノと大妖精であった。

これは、真面目に頑張り過ぎた妖怪の、友達を作る為の愛(失笑)と勇気(笑)の話である。










始まりの天狗

大天魔―daitenma

能力:名前がある程度の能力
危険度:極高
人間友好度:普通
主な活動場所:妖怪の山

大天魔とは敬称であり、かつて天魔の地位についていた為にそう呼ばれるようになった(1)
 古くから存在する大妖怪であり、既に万の時を超えているとも言われ、その力は現在の天魔を遥かにしのぎ、龍神に匹敵すると考えられている。
 名前がある程度の能力とは存在を確立するものであり、あらゆる影響を受けつけない破格の能力である(2)
 また、大天魔の名で呼ばれることからも分かると思うが、妖怪の山のトップである天魔の更に上位の存在であると認識され、一線を退いているものの、未だに天狗たちは最上級の敬意と尊崇の念を持っている。(3)

目撃報告例

・妖怪の山にでかい屋敷があったから誰の家かと思ってたけど、あれが大天魔の屋敷だったのか(霧雨魔理沙)

 私たちは妖怪の山とひとくくりに呼んでいるが、妖怪たちは大天魔の山と呼んでいるらしい。その膝下で騒ぎを起こすものがいないことから、力の弱い妖怪などが好んで住んでいるようだ。

・大天魔様が閻魔の説教を受けておられましたが、する方もされる方も嬉しそうに見えました(射命丸文)

 歳を重ね、強くなるほど怒られたり説教をされることがなくなるので、むしろ有り難いことらしい。非常に含蓄のある言葉である。あと、閻魔が嬉しそうなのは、誠実に説教を受けてくれ、最後までしっかりと聞いてくれるからだろう。

・私の友達よ!大ちゃんと一緒に遊んでるの。
本来なら非常に畏れ多いことであり、たまたま妖精の戯れに付き合っていたのだろう。

対策

 対策以前に、手を出せるような存在ではない。よしんば手を出したとしても、それは妖怪の山を敵に回すのと同義である。また、妖怪の山に住むものに限らず、八雲紫などの大妖怪と呼ばれる面々ですら敬意を払っていることから、幻想郷最強の存在として最初に名が挙がる。人里に近づくことはほぼなく、妖怪の山を出ること自体が少ないので、会うことはほぼないだろう。もし会った場合は敬意を持って接し、話を聞いてもらうと良い(4)

1 能力名から分かると思うが、本来の名前がある。知っているのは極少数。

2 名前があるからこそ存在があり、唯一の確立された存在となる。つまり、他の妖怪ように人に畏れられることで存在を維持する必要ない。

3 天狗の神のような扱いをする者もいる。

4 幻想郷縁起を書く際に私も会ったが、威厳と寛容さを兼ね備えた存在だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ