竜の小説集
□web拍手連載:アイドルマスター
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アイドルマスター〜オリ主別ver.2〜真・響編
SOUMAからの指導を受けると知った765プロの面々は、驚天動地と言っても過言ではないほど驚き、次ぎの瞬間には高木社長とSOUMA本人に向かって砂糖に群がる蟻のように突撃していた。
何故指導をしてくれるのか、それは全員にしてくれるのか、どれくらいの頻度でレッスンしてくれるのか、SOUMAという超トップアーティストがわざわざいいのか、付き合っている人はいますか、サイン下さい等と質問の嵐となったが二人はそれに一つ一つ丁寧に答えていく。
もちろんSOUMA本人は仕事を減らしただけであって止めたわけではなく、多くても週に一回程度のレッスンになり、集中してやりたいので一度に多くても三人くらいにして欲しいことを伝えた。
「それと、何故レッスンをしてくれるのかということだけど、単純に高木社長の友人として力を貸すのが一つ。それと、君たちに指導するのが楽しそうだから……かな?まったく、一つの事務所にこれだけ面白いアイドルが集まるのも珍しい。さすがは765プロというところかな」
「面白いってどういうことですか?」
「まさか!私たちにはお笑いの才能が――」
「やよい。そんなわけないでしょう」
才能があるでも将来有望でもなく、面白いと自分たちを評したSOUMAに春香がその意味を聞き、真に受けてボケるやよいに律子が突っ込む。
内心、彼女たちのやりとりを見て喜びながら、颯馬は自分真面目そうな顔をする。
「全部かな。全員がそれぞれ歌の才能、ダンスの才能、アイドルとしての才能を持っていて、これからの磨き方次第でどんな輝き方にもなる原石だ。それぞれ独特の個性がある……とでも言おうか。ああ、サインなら今日は受け付けるよ。次からは指導する関係だから控えてもらうけど」
そういうと、先ほどもサインを貰おうとしていた真はもちろん、他のアイドルたちや小鳥、プロデューサー、果ては高木社長まで列を成して並ぶ。
「なんで高木社長まで並んでいるんですか……」
「いやぁ……ハハハ。なんだかんだ言って貰ってなかったなぁと思ってね」
今さらサインを貰えないかとは聞きずらかったと笑う高木社長に、その場にいる全員が苦笑する。
颯馬は気を取り直して、アイドル一人一人にサインを渡していく。
「やったぁ!まさかSOUMAさんのサインが貰えるなんて!」
「凄い価値がありそうだよね〜」
「最低でも10万はするんじゃないかしら」
「ええ゛!?」
それぞれが嬉しそうにサインを抱きかかえる中、10万という言葉にやよいが電撃が走ったような叫び声をあげた。
「じゅじゅっ、じゅう……10万円ですかぁ!?」
やよいの家は大家族であり、アイドルになった動機も家の困窮をなんとかしたいという思いから始まっているのだ。
特売やセールはもちろん、もやし料理の日があるくらいのやよいにとって、10万というのは大金であり、思わず生唾を飲み込んでしまう。
というか、さらった書いたサインにそれだけの価値がつくことに、さすがトップアーティストは違うと思わせられるアイドルたちだった。
「あーごほん」
高木社長がわざとらしくせき込むと、ハッと気付いてアイドルたちが姿勢を正す。
「先ほども言ったと思うが、これから週に一度くらいの頻度でSOUMA君が指導してくれる。後で予定は教えるが、この機会を最大限に活かすように。彼の動き一つ、言葉一つに注目し、学べるものは全て学びなさい」
『はいっ!』
「ねぇ、響。ボクの服装おかしなところないかな?」
「大丈夫だって。緊張するのは分かるけど、もう3回目だぞー」
そわそわとしながら自分の格好を確認する真に、響は呆れたように溜め息をつく。
「だって、SOUMAさん直々のレッスンだよ……。響は緊張しないの?」
「なんくるないさー!だって自分は天才だからな。アハハハハッ、アハハハハッ、アハハハハッ、アハハ……アハ、ハァ……はぁ。ちょっと笑い過ぎちゃったぞ」
全く緊張していないとでも言うように、小柄ながらにメリハリのあるボディを振るわせながら笑う響に対して、真はその度胸の大きさを象徴しているかのような胸に恨めしい視線を向ける。
ちなみに、響の胸は最初の設定の時点では86と貴音に次ぐ第3位であり、後に83にサイズダウンしているが、それでも第5位の大きさだったりする。
なお、真は75でワースト3である。さらに下がいるのでネタにもならず、ただ切ないだけの事実に涙が止まらない。
と、そこにジャージではないが、動きやすいラフな服装のSOUMAが到着する。
「や、おはよう」
『おはようございます!』
「良い挨拶だ。じゃあ、今日は予想がついているとは思うけど、ダンスのレッスンをしよう。少し身体を解してから、1曲踊ってもらうから」
真と響のレッスンが決まった時に、颯馬は自分の持ち歌の振りを宿題として出しており、二人は本人の前でその曲を踊ることに緊張しつつも、最初から全力で自分ができる踊りをしていく。
両者共に努力の跡が見られる踊りではあるが、真はどちらかというとスポーツで培った運動センスで、響は天性の感覚とも言うべきもので踊っているように感じられる。
とはいえ、やはり765プロでも1、2を争うダンスの実力の持ち主なので、アイドルとしては上手いと評するべきだろう。
「はい。ご苦労さま」
踊り終わった二人に、常温のスポーツドリンクを渡す」
「わあ!ありがとうございます!」
「SOUMAさん。ありがとう!」
嬉しそうにドリンクを飲む二人に笑みを浮かべながら、颯馬はダンスの評価をする。
「二人とも、アイドルになった期間を考えればかなり上手いんじゃないかと思う。真ちゃんは身体の使い方、響ちゃんはリズム感が特に良かったね。これなら、一々指導して教えるよりも、一緒に踊って覚えてもらった方がいいかもしれない」
「えへへ、本当ですか!よぉし。ボク、頑張っちゃいますよ!!」
「自分も全力で踊るぞー!」
褒められて調子に乗ったのか、真はすっかり緊張感がなくなっており、響もまだまだいけると声を張り上げる。
しかし――
ぞわり。
一瞬にして場の空気が代わり、纏わりつくような重圧が真と響に圧し掛かる。
錯覚で起きたかのような感覚に陥るが、それらは間違いなく目の前に立つSOUMAから発せられていた。
そして、曲が始まった瞬間、二人はKing of popの領域に足を踏み入れることになる。
「――――――!」
その挙動に圧倒され、見せられて、魅せられた。
同じダンスであるはずなのに、一挙手一頭足が別次元に感じられ、その動きに、自分たちの動きが引っ張られていく。
いや、踊らされていると言った方がいいのかもしれない。
絶対的なまでの存在感に、身体の底から揺さぶられ、熱を持たされる。
これが全力なのか――後先なんて考えるな!今この瞬間に正しく全てをかけろ!
心の中で叫び声をあげ、自分の意思で踊る。
一曲僅か数分の時間でありながら、永遠にも等しく感じた時間。
間違いなく、二人は今の自分の限界を突破していた。
「はあ……はあ……ふぅ〜」
「ふー……ふー……」
数分踊っただけのはずなのに、真と響の身体は汗だくになり、その場に座り込むほど疲労していた。
「疲れたかな?」
「1曲踊っただけ、なのに……。こんなに……疲れるなんて……」
「でも、今までで一番踊れた気がするぞ!」
響の言う通り、二人は今までで一番踊れていただろう。
それは、SOUMAの歌と踊りによって今の限界を超えて眠っていたモノが引き出されたからだ。
そして、SOUMAという圧倒的な存在感によるプレッシャーと、限界を超えた力を引き出されことによって1曲で疲れ果ててしまうくらい体力を消費したのである。
「その感覚を忘れないようにね。それが君たちの次の到達点だよ」
汗の一つもかかず、事もなげに言う颯馬を見て、改めてその実力を二人は感じた。
きっと、まだ全力じゃない。まだ上がある――
湧き上がってきたのは、戦慄でもなく、畏怖でもなく、尊敬でもなく、喜び。
今、正しく自分たちは頂きを知ることができた。
何より、自分はそれをまだまだ目指すことができるのだ。
真の中で、響の中で、何か壁のようなものが壊れた。
「(若いねぇ……。俺には無かった輝きというか)はい、タオルとドリンク」
その能力故に壁なんて存在していなかった颯馬からしてみれば、一歩ずつ成長していく姿は羨ましいものに見えた。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう!でも、本当に疲れたんだぞ」
渡されたタオルで、汗を拭く響。
疲労と興奮で注意力も散漫になっていたのか、恥ずかしげもなく身体を拭いて行く。
運動のしやすい格好であり、汗を拭くために上着を脱いでいるので当然シャツも捲るので――
「わぁ!?響、隠して隠して!!」
「へ?あ、や、み……見ないで!恥ずかしいっ」
――非常に扇情的な姿を見せてしまうのである。
咄嗟のことに、普段は真のようにボーイッシュというか堂々としている響も、女の子として部分を強く出してしまった。
それには、さすがの真も固まってしまい、響は顔を首まで真っ赤に染めて黙ってしまう。
「あー……すまない。配慮が足りてなかったな」
颯馬もそれに対して何かしらのコメントをすることもできず、無難に不手際であったと謝罪して誤魔化して、自分の上着で隠すように着せる。
そして、身体を冷やさないように直ぐに着替えさせ、僅かな気まずさを残したまま、今後のアドバイスについて話始めた。
「SOUMAさん」
「何かな?」
「じ、自分の……どう、だった?」
颯馬がどう答えたかは、響と二人だけの秘密である。
後書き:実際に、響はCDのトーク集で「私、恥ずかしい!」とか美希にビキニを着させられそうになった時言ってたりします。探してみてね!