竜の小説集

□拍手連載:真・恋姫†無双〜劉虞伝〜
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劉虞にとっての最大の敵はなんだろうか?

腐敗した中央――いや、中央の政争には関わらず、辺境とも言える幽州にいるので煩わしくは思っても、最大の敵とは言えない。

たびたび進出してくる異民族――周辺の異民族は皆劉虞に心服しており、友好関係にあるので問題ない。

勘違い甚だしい臣下や民衆――本人に自覚の有無があるかはさておき、むしろ勘違いしてくれてありがとうといった感じである。

労働――確かに最大の敵ではあるが、それは彼の個人的な敵であって『劉虞』の敵ではない。

『劉虞』の最大の敵――それは『公孫賛』である。

史実において劉虞の最大の対立相手にして、直接の死亡原因が公孫賛なのだ。

異民族懐柔の意向に反し、異民族への褒美の強奪、使者の妨害を行う公孫賛に対して劉虞は十万の兵を挙げて討伐に乗り出すが、民衆に被害がないよう公孫賛だけ捕えよという無茶ともいえる甘さを突かれて大敗し、捕えられて処刑されている。

なお、これが公孫賛滅亡への大きな要因でもある。

――閑話休題。

劉虞の徳(相手は負ける)によって張純・張挙の反乱は鎮められたが、当然ながらそれで終わりではない。

事後処理として処罰や報奨、被害の有無などの報告等があり、その中の一つに彼らに賛同、または無理矢理協力させられた豪族の一覧があった。

いつもの如く流し読みをしていく劉虞であったが、遼西郡の公孫氏を見つけた瞬間、遼西郡+公孫氏=公孫賛、公孫賛=劉虞の死亡フラグという図式が脳裏によぎり、飲んでいた茶を噴き出した。

※公孫賛はもともと郡太守(二千石)クラスの豪族の出身ですが、母親の身分が低かったので厚遇されず、公孫賛の才能を見込んだ人が援助して劉備と同じ私塾へ……その後は異民族との戦い等で功績をあげて、一般的に皆さんが良く知る幽州の雄になります。ちなみに、公孫賛の滅亡の原因は民衆や異民族に信望のあった劉虞を殺してしまったこと、当時の所謂「名士」と呼ばれる人たちを嫌って冷遇したこと、商人や占い師など自分に都合の良い部下を厚遇したこと等が挙げられます。


公孫賛をどげんとせんといかん!――というわけで、反乱の処理にかこつけて公孫賛をなんとかしようと考えた劉虞であったが、彼は一つのことを失念していた。

時代背景や人物の年齢、性別がめちゃくちゃなこの世界で、同じ時代に活躍したからといって同年代とは限らないということを。




















「あああ、あの!こうそんはきゅ……はくけいともうします!」

「劉虞です……公孫賛を呼んだら、幼女でした。劉虞です……この分だと、まだ大半の有名な武将は幼女な気がします。劉虞です……これって、よく考えたら人質出せって言ってますよね。劉虞です……劉虞です……」

緊張した面持ちで、慣れない口上を述べながら低頭する10歳にも届かないだろう幼女。

口調もたどたどしくなってしまっており、噛んでしまったせいで目尻に涙を浮かべてぷるぷると震えていた。

だが、それも仕方ないと言える。

強制されたとはいえ、反乱に関わった公孫氏からすれば罰せられても仕方のない状態であり、場合によって豪族としての全てを失う可能性もあるのだ。

そんな中で、劉虞の意図を受けた部下が一族の子供を側に仕えさせるように申しつけられたのだから、少しでも温情を頂こうと必死になって公孫賛だけでなくその姉妹も送ってきたのである。

公孫賛が緊張しているのも、少しでも劉虞に気に入られるようにと念押しされたのと、妹や母親、一族の運命が懸っていると幼い子供には重すぎることを言われたからだろう。

一方で、劉虞も一昔前(劉虞主観)のギャグを口にするくらい混乱していた。

しかも、何を意識されたのか媚びるように着飾られた衣装で、泣きそうになっているから困りものである。

恋愛なんてしたこともなければ、ロリコンでもないニート志望の劉虞にとってはいい迷惑である。

というか、このあと文官が拡大解釈して有力な豪族の子供を劉虞のもとに集めさせるのだが、それはまた別の話。

「あー……そう硬くならんでよい。こちらにきなさい」

「……は、はい」

面倒臭いことになったと思いながら、劉虞は公孫賛を呼びよせて誤解を解こうとしたその時――

「っ――ん……」

「(うわなにをするqあwせdrftgyふじこlp)」

――公孫賛は劉虞の膝の上に対面する形で乗り出し、その小さな唇を重ねてきたのである。

混乱する劉虞を余所に、公孫賛は唇を離すと一族への温情を願った。

「え、なにそれ恐い」

しかし、劉虞からすれば全くそんな意図はなく、いきなり幼女にキスされた上になんでもするから温情をとか言われたので意味不明としかいいようがない。

悲壮な顔をする公孫賛を落ち着かせながら、優秀な子供がいるから呼んだだけだよー別に何もしないよーと説明をすると、わなわなと震えながら、これでもかというくらいに顔を真っ赤にして、慌てだす。

「困ったなー。初めて奪われちゃったなー。どう責任とってくれるのかなー」

幼女に責任とれと言い募る20歳のニート志望とか最低以外の何物でもない。

「えぇと、その……せ、責任をとります」

「頑張って勉強して、代わりに政務をやってくれる?」

「が、頑張りますっ」

「私の代わりに武芸も頑張るんだよ?」

「そ、それも頑張りますっ」

「もちろん、養ってもらうから」

「は、はいっ!」

この場に第三者がいたら呆れてものも言えないというか、おかしいだろうと突っ込みが入るのだが、劉虞の言葉に公孫賛は勢いそのままに頷いていく。

簡単に言ってしまえば、幼女にヒモにして下さいと頼んでいるダメな大人である。

なお、この時点で劉虞は無駄に力を発揮して公孫賛が世話焼きでお人好しな性格であることを見抜いていた……げに恐ろしきは養い主を見つけるニートセンサーである。

「うむ。ではもう少ししたら私塾に行って勉強してくるように」

私塾で勉強をさせ、劉虞の力で推挙し、出世させて最終的に養ってもらう……劉虞的には完璧な計画。

「し、私塾ですか?でも、お金もないし……わたしはお母さんが身分が低いから……」

史実のように母親の身分が低いことで冷遇され、私塾に行けると思ってなかった公孫賛が申し訳なさそうに俯くが、幽州刺史の劉虞からすればそのくらいの支出は問題ない。

「大丈夫だ。問題ない」

ただ、そこはかとなく不安になる返事ではあるが。

「あ、ありがとうございます!」

「では、しばらくは田チュウについて勉強するように」

「はいっ!」

生まれのせいで冷遇され、生贄のように差し出された公孫賛からすれば、私塾へ行く費用だけでなく、優秀な官吏の下で勉強できるという厚遇をしてくれる劉虞の好意(だと思ってる)はさながら闇を照らす一筋の光のようなものであった。

加えて、キスしてしまったことで無意識の内に好意的な見方をしてしまっており、劉虞に対する評価がとっても優しい人でなおかつ恩人というものになったのだった。

なお、10歳にも満たない子供であり、未来のはわわやあわわの軍師のように耳年増ではないので、責任の意味はあんまり分かってない。



















〜おまけ〜

劉虞から公孫賛の面倒を見るように命じられた田チュウは最初こそ困惑したものの、次第に彼女の才能を見抜き、主君の先見性に感じ入っていた。

「最初は人質のつもりかと思ったが、さすがは劉虞様であった」

公孫賛は確かに幼いながらに才能がある。

史実でも聡明で、声が大きく、容姿が優れており、弁舌さわやかで頭の回転も速く、物事の説明も巧みであったと書かれるくらいなので、当然ながらこの世界の公孫賛も才能はあるのだ。

とはいえ、それは秀才レベルのことであり、将来的に万事そつなくこなせるが一流には勝てない。

だが、何事もそつなくこなせるのが公孫賛の一番優れた点ではない。

難しい内容をしっかりと理解し、それを分かりやすく伝えることができるということこそが、公孫賛の最も優れた才能であった。

原作において人材がいない中、ほとんど一人で領地を治めることができていたのも、ある程度の能力しかない者に理解させることができていたからに他ならない。

そして、それは皆が理解できるように簡潔で短くするという現在幽州で行われているやり方にドンピシャで当て嵌まる才能であった。

「劉虞様の命で私塾へ行くことも決まっているし、しっかりと知識を修めれば、優秀な官吏になるだろ――はっ!そうか!!」

田チュウはなるほどと手を打ち劉虞の意図を(勝手に)理解した。

わざわざ劉虞が自ら私塾へ行かせる援助をすると言ったのは、才能あるが学ぶことのできない子供を支援するためであり、将来的に優秀な人材を育てるためであったのだと。

公孫賛はその先駆けなのだろう。

「まずは豪族の子弟を集めるか……それから、触れを出せばそれ以外の者も応募してくるはず」

こうして、事態は劉虞の預かり知らぬ所で拡大していき、民衆も劉虞が私財を投じて未来ある若者を本気で育てようとしていると勘違いし、それら徳のある行いを称賛するのだった。

だが、それら一連の出来事が、思いもよらぬ結果を招くことになる。
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