一次短編

□お持ち帰り決定です。
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嗄早は時が止まったように一瞬止まる。そして、一拍置いて言う。


「……もう一度言ってください。」


「俺は魔王で、故郷は魔界だ。」


風が音をたてて強く吹く。
二人の髪がさらさらとなびいた。


「………とうとう頭沸きましたか?」


「やっぱ信じらんねぇか。」


嗄早は同情を含んだ表情で、煉は予想していたように、言う。


「早く帰りたいからって変なこと言わないでください。」

「仕方ねぇ。おまえはずっと俺の隣で頑張ってくれたし、特別に見せてやる。」

「だいたい、どこに帰るにしろ、あなたがこの学園からいなくなったら、いったい誰がこの曲者ばかりの生徒会をまとめるんですか?」

「んー。この時間じゃ、外から見られる可能性があるからな。…結界でもはるか。」

「いくら文句ばっかり言って全然仕事をしなくても、あなたがそこに座っているだけでも違うんですよ?」

「この姿だと、力が出しずらいのが難点だな。」

「あんな態度ですけど、役員たちは曲がりなりにもあなたのことを尊敬しているんですから。僕もふくめて。」



「うし、はれた。……_____。」



「ていうか、さっきから聞いてるんで、す……か………」



煉がよくわからない言葉を発してすぐ、ぶつぶつ言いながら顔を上げた嗄早の目の前にいたのは、
いつのまにか近くに来ていた煉。確かにそれは煉なのだが、彼より遥かに高い身長、178ある嗄早より頭2つぐらい上にある彼の顔は変わらず整っているのだが、
そこから伸びている髪がいつもより二、三倍は長い。腰くらいだろうか。なによりも、目を見張るのは頭から生えた、角。
ファンタジーなどで出てきそうな、所詮、魔王と呼ばれる姿形をしていた。


「あー。久しぶりだな。この姿になるのは。やっぱ、体が軽ぃな。」


自分の体を見てベタベタさわる。


「どーだ、これで信じた、か…」


視線を嗄早に向けた煉は固まった。そして、口に手を当てる



(……やべえ。なにこの生き物。すげぇ可愛い。)



頬が赤く染まり、耳もうっすらと色付いて、こちらを見ている嗄早は少し口が開いている、
しかも、煉の姿が変わったことによって、必然と上目づかいになるその姿はキスを誘っているようにも見える。


そんな表情など、嫌というほど見ているのに、嗄早がやると妙にクるものがあった。


一方、嗄早も嗄早で内心凄かった。



(か、格好良い。…って、相手は会長ですし!尊敬はしても、堕ちたりなんか…。…でもやっぱり、格好良い…。)



葛藤中であった。


(こんな良いもん近くにいたのに、なんで気付かなかったんだ…。やべえ。超持って帰りてぇ。)


こちらもこちらで、悪魔の誘惑が聞こえているようだ。


(…でも、会長、この姿ってことは本当に魔界が存在するってことだな。…じゃあ、会長はいなくなっちゃうってこと…?)


煉がさっき言っていたことを思い出し、考えている内にだんだんと涙目になっていく嗄早。


(う…わ。やべえ。本当にやべえ。涙目とか、上目づかいとか、嫌いだったのに、コイツがやると、可愛い。超可愛い。
 やっぱ、持ち帰ろうか。持ち帰ろう。……………いや、駄目だ。コイツはこっちの世界の人間。我慢だ。我慢。我慢。)


そんな葛藤のうち、なんとか、悪魔の囁きから逃れられそうだったそのとき。


「…う、うぇ。…んっ、い、嫌だっ。会長ぉ、いかないでぇ。うぇ……ふっ…ぐすっ…」


嗄早が、とうとう瞳からぼろぼろと涙をながし、感情が高ぶっているせいか、いつもの敬語も崩れて
普段よりもかなり、幼く見える。


それを見て煉は、制えるのに必死だった先程の姿ははどこへやら、その風貌に似合うニヤリとした不適な笑みをどこかすっきりした様子で浮かべていた。


左手を嗄早の腰に、右手を後頭部に、まわし、その手で自分のほうへ引き寄せる


「……うぇ!?…な、なに…」


いきなり抱き寄せられて驚く嗄早の色付いたままの耳元に、息を吹き込むように言った。


「可愛いな…。持ち帰ってやるから安心しろ?嗄早…。」







お持ち帰り決定です。


大丈夫だ。死んでも一緒に居てやる。

死んでも!?


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