一次短編
□本当はね、
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コンコン、ガチャ
ノックはしたのに返事を待たずドアを開けたその人物は、大股でその部屋の一番奥にある机へと歩く。
その机に向かっている人物は入ってきたその者に気付いていない。
目の前に相手が立っているのにもかかわらず、だ。
「おい。」
入ってきたほうが声をかけると、一心不乱に走らされていた高そう万年筆が止まり、不意にその人が顔を上げる。
「チッ、お前か。……書類だな。」
顔を見るなり舌打ち。普通だったら思わずどんな態度だ。と言いたくなるような言葉。しかし、
一方は学園の生徒の頂点に君臨する、生徒会長。
もう一方は素行の悪いものからしたら、最大の敵であり、恐怖の対象でもある、風紀委員長。
学園の2トップでありながら犬猿の仲と言われているこの二人の間の言葉としては、いささか柔らかいものだった。
そして、会長こと志南(しな)の声も、舌打ちをしたその態度とは裏腹に、普段と比べてあきらかに覇気のないものだった。
それに気付いてか、なにも言わない委員長こと千里(せんり)になんなんだ。と思いながらも、志南はまた万年筆を走らせ始める。
そんな様子を見て千里は目を細めた。
生徒会室であるこの部屋に響いているのは、志南が走らす万年筆の音だけ。
いつまでたっても何も言わない相手にしびれを切らしたのか、再び志南が頭を上げようとしたとき、
ポン
突然感じた心地いい頭への重み。
「…へ?」
志南は状況が理解できず、気の抜けた声を出す。
その間も頭に乗った手は優しく志南をなでる。
「な、何すんだ…!いきなり!」
慌ててなでているの手をどかそうとする志南。
千里はそんな志南に優しい笑みを浮かべ、穏やかに頭をなで続ける。
「もう少しだ。」
脈絡もなく、突然ポツリと、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言葉を落とす。
それを不思議そうに見た志南の頭を少しクシャッとすると、千里は机にあった処理済みの書類を手にとって、ドアに向かう。
「書類はもらっていくぞ。志南。」
振り返り口角を上げてから去っていく千里。
志南はそれをボーっと見る。
しばらくたってポロリと思わずこぼれてしまったように呟く。
「下の名前で呼ばれた…」
赤く火照った顔を隠すように、口に手を当てた。
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