text (その他)

□あなたの攻略法
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 悠然とたたずむ大きな背中。

 無表情で冷たい、整った顔。

 少し乱れた、きれいな髪。


 固い殻さながらに、すべてを貼り付け紡ぐ言葉は。もう平気、だなんて。やっぱりあなたは嘘吐きですね。





 「三回戦も、なんとか無事に終わることができましたね」
 「…そうだな」


 三回戦。密輸ゲーム。

 終わるころにはもう夜で。今は帰り道をあなたと二人。

 わたしの一歩前をあなた。あなたの一歩後ろをわたし。

 これが定位置。揺るがない、二人の距離。



 「わたし、びっくりしました。秋山さんは…」



 嘘を吐くだけでなく、演技も上手なんですね、なんて。

 言ったらあなたは何と言う?



 「…俺が、なんだよ」


 痺れを切らし、振り向き歩みを止めるから。

 わたしも一歩の距離を保つため、あなたを見つめて立ち止まる。



 「…いいえ、なんでもありません」


 笑顔で首をふれば、言いかけた言葉を飲みこみ、再び歩きだすあなた。

 その背中を追って、再び歩きだすわたし。






 あなたはほんとに嘘が上手です。ちなみに言うと、演技も俳優さながら。

 わたしはいつも、それに騙されて、そしてあなたは嘲うのです。


 そんなふうに馬鹿正直だから、すぐに騙されるんだ、って。




 でもね、秋山さん。わたしも、あなたに出会って、あなたの嘘にふれて、少しだけ成長したんですよ。

 あなたが吐く嘘が、ほんのちょっと分かるようになったんです。


 
 だから分かります、秋山さん。今のあなた、すべてが嘘です。




 狂ったように、何度も何度も憎いあの人の名を叫ぶ姿。今は亡き母を想い、涙する姿。

 それが本当で本当のあなた。すべてが演技だと嘲笑うあなたがダウト。嘘なんです。

 それでも、その姿が本当の姿だとみんなに思わせてしまうあなたは、やっぱり嘘と演技が上手なんですね。



 どうです?馬鹿正直のわたしに、嘘を見破られた気分は。

 もうこれではあなたの負けです。勝ち目なんて、ないんですよ。


 ねぇ、だから。

 嘘吐きなあなたに、必勝法を教えてあげます。

 大丈夫、簡単ですよ。なんてことない、赤ちゃんでもできることです。



 「…泣いて、ください……」



 ほら、とっても簡単なことでしょ?

 ああ、でもね。嘘吐きなあなたは、やっぱり聞こえないふりをするから。




 だからいつまで経っても、必勝法は完成しないんです。










《あなたの攻略法》
縮まない一歩
わたしと嘘吐きの境界線

















泣き叫ぶ秋山さんを見てわたしが思ったことを、直ちゃんに代弁してもらいました


あれは、完全に嘘というわけじゃなく、ほんの少しは本心だったんじゃないかなぁ、と…



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