text (ES21)
□本音と建て前
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より一層強くなった歓声。あなたの帰りを、みんなが待っていた。
私の手には、あなたのヘルメットが抱えられている。理由は簡単。あなたにはもう、それを持つことが不可能だから。
敵にも、仲間にさえ、分け隔てなくハッタリを振り撒いたあなたは、振り返った瞬間もその顔に不敵な笑みを絶やさなかった。
無言のまま私に近づき、二歩手前で足を止めると、再びフィールドに向き直る。
あなたからの無言のサイン。私はそれに従い、同じく無言のまま距離を二歩から一歩に詰めた。
首筋に浮かぶ、尋常でない脂汗。短く続く荒い息遣い。微かに震える右腕だって、全部全部…。
馬鹿。無理してるの、バレバレだよ。
背伸びをして、あなたにヘルメットを被せる。そのまま降ろした腕は、堪らずあなたの背中に伸ばされた。ギュッと、ユニホームを掴んで額を付けると、汗と、ほんの少し、あなたの香りがした。
あなたは何も言わない。私が何か言葉を発するのを待っているのか、手を離すのを待っているのか。どっちにしろ、きっともう関係ない。
「……お願い、約束して」
乾いた喉から出た声は、情けないくらい震えていた。ピクリと、あなたの体が震えたのが、額越しに伝わってくる。
大丈夫、身構えないで。馬鹿げた事は、言ったりしない。
「負けないで…」
握りしめた手に爪が食い込んで痛い。
「絶対絶対、負けないで…」
視界が歪むのが涙のせいとは認めない。
「勝って…!」
あなたをこんな目に遭わせたヤツなんて、ぼっこぼこにやっつけちゃってよ。
それが、私があなたに取り付けた、約束。約束は、絶対に守らなきゃ。あなたが言ったのよ。
「…ケケケ、たりめーだ」
ああ、やだな。手、離さなきゃ。
緩んだ力を合図に、あなたが一歩一歩、フィールドへ戻って行く。するり。この手から抜けてしまったあなたを、もう引き止める力は、私にはないんだね。
狡いなぁ。私はなんて狡いのだろう。約束だなんて強がってみたところで、本当はもっと違うもので繋がっていたいくせに。
アメフトを、何よりも大切に思っているあなたにとって、それは自分の身体よりも優先順位が上で。アメフトよりあなたが大切な私は、きっと、あなたに触れる事も、指を掠める事さえ許されない。
遠い。遠いよ、ヒル魔くん。
フィールドに立つあなたは、私にはあまりに遠すぎる。
より一層強くなった歓声。あなたの帰りを、みんなが待っていた。
《本音と建て前》
どちらにしろ、
あなたにとってはただの約束
白秋戦の時の
実はあの時、こんな会話があったらいいなぁと思いまして
白秋戦、いいですよねぇ
好きだなぁ