text (ES21)
□あなたが好きよ
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「…おい、なんだその面」
ずっと部室に響いていたタイピングの音がやんだ。
顔をあげると、不機嫌な顔をしたあなたと目があう。
「…んー、ちょっとね。考えごと…、というか、悩みごと?」
「はぁぁ?」
わたしが言うと、怪訝そうな顔で睨んでくる。わたしはそれに、肩をすくめてみせた。
「なんでもないの。気にしないで」
それだけ言ってまたデータまとめを再開すれば、すこし遅れて、またタイピングの音が聞こえてきた。
「………っ おい!だから、なんなんだ!?」
しばらく無言のままお互い作業を続けていると、またあなたがその作業を中断する。
「べつに。なんでもないわよ」
「なんでもねぇって面じゃねーだろ!」
「なんでもないの」
額に青筋をたてたあなたは、それはもう恐ろしい顔でわたしのことを睨んでくる。
なんでもない。なんでもないのよ。
ただ、ちょっと考えただけ。ちょっと悩んだだけ。
もし―――――
《あなたが好きよ》
なんて言ったら
あなたはどうするかな、って
なんとなく、なんとなく、相手が気になってしまう、恋の初期段階なまも姉
ほんとに好きって言うつもりはなく、ただなんとなく、言ったらどんな反応するのかなぁ、て思っただけ
ヒル魔さんも、なんとなくまも姉が気になっているから、恋する乙女予備軍の表情をするまも姉に落ち着かない
そんな、なんとなくな話
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