text (ES21)
□part of my world
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浮遊感。
フラフラと揺れる感覚。
酔ったみてぇに気持ちが悪い。不快感が腹から込み上げる。
意識を手放すまいと、必死で足掻くが、無駄な努力だ。
痛みすら感じなくなったのは、麻痺したせいじゃねぇ。意識がどんどん遠くなるせいだ。
真っ暗な世界。どこを見ても、闇しかない。
しっかりしやがれ。寝てるヒマなんてねーだろ。
突然、闇の中に光が射した。
光はどんどん辺りに広がり、懐かしい光景を映し出す。
走馬灯。
一瞬よぎった言葉に、盛大に舌打ちをした。
「鈴音ちゃん!!」
あのバカ。またムチャクチャしやがって。
迫る峨王から糞チアを庇う糞マネが視界に入った瞬間、頭に浮かんだのはもっぱら呆れだった。
同時に身体も動き、糞マネと糞チアを背中に庇う。万が一の時のために、スタンガンも用意済み。
意識は峨王に向けたまま、チラリとうしろを見やった。
…おい。なんて顔してやがる。
糞マネは、それはもう、えれー脅えた顔をしていた。こんな顔、今まで一度だって見たことない。
そりゃ誰だって、あんな怪物が襲ってきたら恐いに決まってる。糞マネの反応は、なんらおかしい事はない。
ただ問題なのは、糞マネが脅えている対象が、今ここにはねぇって事だ。
コイツが脅えているものは、峨王でもねぇ、俺の持つスタンガンでもねぇ。
糞マネの瞳は、"今"を映してはいなかった。
おまえは今、なにを見てるんだよ。
碧眼の奥に揺れる不安を、俺は静かに呪った。
「行こう、練習に」
俺と糞マネの話を盗み聞きしていた糞ガキ共が、一斉に走り出した。
話が終わって、慌ててるに違いねぇ。練習にも行かないでタラタラしてたうえ、くだらねー勘ぐりまでしやがって。
俺はイラつきながら、ワザとゆっくり糞ガキ共のあとを追った。
「強くなるぞ!」
いやでも聞こえるくらいデカい声を張り上げ、糞ザルが突然叫んだ。その叫びに、他の糞ガキ共も、威勢良く声をあげる。
「強くなるんだ!もっと強く!!」
今度は糞チビが叫ぶ。俺の足は、いつの間にか止まっていた。
「自分たちの力で守りきって、優勝するために…!!」
おー!!っという気合いの声が、ずいぶん遠くから聞こえた。
こりゃ今日は地獄の特訓メニューだな。
俺は糞ガキ共のあとを追い、足早にグラウンドに向かった。
「…どうするつもりだ」
静かな部室に声が響いた。
今部室には俺とムサシしかいねぇ。独り言にしちゃデカい声は、俺への問いかけに他ならない。
「…糞マネに指示書をだした」
俺の答えは、質問の意図に沿っていたらしい。ムサシは無言でコーヒーを啜る。先を続けろって事か。
俺はニヤリと口元を吊り上げた。
「読みもせずに破り捨てられたがな」
「…姉崎らしいな」
ムサシは、くくっ、と喉の奥で笑う。俺はふんっと鼻を鳴らしてタイピングを続けた。
「…いいのか?」
「…ああ、問題ねぇ」
ムサシは、そうか、と一言呟いて、再びコーヒーを啜った。
「悔しい」
糞チビの震える声が聞こえる。
「ヒル魔さんの夢が、こんなところで…!こんな風に、終わりにされるなんて…!!」
ピーピー、ピーピー泣きやがって。辛気臭ぇこと言ってんじゃねーよ。
「動かしてあげて!分かんないけど… ヒル魔くんがサインで、向こうに行きたいって」
「I'll be back!戻ってくるからシャキッとしてろ!ってメッセージだね」
「今度は俺らが、首に縄くくりつけてでもクリスマスボウルに引きずってってやる………!!」
色んな場面、色んな台詞が、頭ん中を目まぐるしく回る。
ああ、そうだ… 俺は―――――
「…ヒル魔くん」
ふっ、と、意識が浮上した。
不快な浮遊感は消え、背中に簡易ベッドの堅い感触を感じる。
遠くから聞こえる試合の喧騒が、ここが救護室だと俺に告げた。
右腕の激痛がよみがえる。
「…ヒル魔くん」
俺を呼ぶ糞マネの声は震えていた。
現実にしちまったな、おまえの不安。
「…わたしはセナに、なにも言わなかった」
糞マネの小さな声に紛れて、紙の音がカサリと聞こえた。
あぁ、やっぱりな。俺の計算は狂ったことがねーんだ。
「これでいいんだよね。ヒル魔くん」
上出来だ、姉崎。
俺は口をニヤリと吊り上げ笑った。
さぁ、戻るぞ。俺たちの戦場に――――
《part of my world》
想いも、決意も、夢も
すべては同じ方向へ
またまた白秋戦
今回はじめてヒル魔さん視点
みんなでクリスマスボウル!って話を書きたかった
あと、ツーカーなヒル魔さんとムサシ
あと、結局まも姉は指示書読むって信じてるヒル魔さん
アイシールドは、ヒルまもも好きだけど、ふつうにストーリーも大好きです
スポコンいいよね
友情いいよね
それでもやっぱりヒルまも入れちゃう
え?ヒルまもって言わない?
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