ORIMANI*n

□短文ログ
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旧サイトより。
赤虎+α
人によっては微裏に感じるかもしれない。

***

何時も以上にぼやけた視界と、
訳も解らない胸苦しさ。
人肌恋しの今日の宵。


【溺れる紅石 揺らぐ琥珀】


獣組談話室にて。
ある日の晩、盛大な宴が催されていた。

「きゃはきゃはっ。今日は無礼講だ!みんな盛り上がっていっちゃおうぜ!!」
「うふふ、皆楽しんでってねん♪」

獣組頭領の発案に、部下達は手に手に杯を持って酌み交わし始めた。
そんな時、

「んー?お前は呑まねえの?」

一人だけ酒に口をつけない者がいた。

「い、いや……俺は…」

真庭赤虎――『爛壊の赤虎』である。
手に持った杯を膝に置いて、縁側に座っている。

「酒の席は苦手? 違えよな?お前騒ぐの嫌いじゃなかったろ?」
「兄な……、その」
「きゃはっ! 何々ー?お前まだ一口も呑んでねえの?」
「あ、いや…その……」
「なぁに遠慮しちゃってんだよ!呑んじゃえよ!きゃはきゃはっ、付き合い悪ぃぜー??」

頭領二人に囲まれて、呑まない、とは言えない。
赤虎は杯に口をつけ、

「おー、良い呑みっぷり!」

呑み干した。
杯が赤虎の口から離れる。
と、赤虎は額を押さえて身体を二つに折り曲げた。

「っう…!」

頭領二人ははっとなり赤虎の背中に手をやった。

「おいおい、そんなに酒弱いんなら言えよなー」
「きゃはきゃはっ 大丈夫かよ?」

赤虎はその手をやんわりと払って、言う。

「……っぃ、じょぶ、なんで…他の方ンとこで呑んでて下せエ……」

ふ、と頭領二人を見た目は、縁が真っ赤に染まっている。
息も相当に荒い。

「…でも、部下がこうじゃ心配にもなるだろうがよ」
「き、っにしねエで下せェよ……。へい、きなんで…」
「きゃはっ そうかよ。じゃあ川獺!ほら行こうぜ!」
「ああ、 …赤虎、無理はすんなよ?」
「了解でさァ……」

赤虎は力無く笑って頭領にひらひらと手を振った。

「……ぅあー……、」

しかし二人が視界から消えるとまた身体を折り曲げた。

「…っくそォ……」

耳の鎖を引っ張って、その指を唇に押し当てる。
暫くして、杯に僅かに残っていた酒を縁側の下に空けると、若干ふらついた足で酒と猥談で盛り上がっているらしい同年代の元へ近付いていく。
海象と優猿を見かけた処で赤虎は二人の間に座り込んだ。

「おー、赤虎ァ。何処行ってたんだィ?」
「優猿ぁ……」
「んー? 顔赤いな。お前向こうで呑んでたのか?」
「…け、ものぐみの…海象さん……あ、」

ばたり、

「うおっ!!?」

何の前触れも無く赤虎が海象に倒れ掛かる。

「ちょっと!お前大丈夫かよ!」
「あーあー、呑みすぎじゃないかァ。大丈夫かィ?」
「……ん、ぁ…」

赤虎は焦点が合わなくなってきている薄い赤茶の瞳を海象に向けた。
そして倒れ掛かった体勢のまま、腰に手を回して強く抱き締めた。

「!? な、何してんだよお前は!」
「んふ……、」
「…ひゃっ!? 何処触ろうとしてんだよ馬鹿!!」

腰に回した手が厭に滑らかに動いて海象の帯の中に滑り込んだ。

「こらっ! 悪ふざけが過ぎてンぞ馬鹿虎ァ」

それを優猿が笑いながら止める。

「…ま、しらァ……」
「はいはい、いっぱしに酔ってンじゃないよゥ。全く……」
「ましら〜」
「んむっ、」

赤虎はにへ、と笑うと優猿に向いてかなり深い口付けをした。

「ちょ、赤虎!!何やってんだよ!?」

海象はぎょっとして手に持っていた杯を落とした。
畳に酒が染み込んでいく。

「んっ、んふ…っ」
「んー、んんぅ…」

くちゅくちゅといやに卑猥な水音を立てて赤虎が優猿の口内に舌を入れる。
接吻は流石に優猿も予想外だったのか、酸欠で苦しげに顔を歪めている。

「馬鹿虎いい加減にしろよ!!」

海象は取り敢えず赤虎を優猿から引っぺがした。
赤虎と優猿の間に銀糸が引いて、切れた。

「……は、ぁ……!」

くたん、と優猿は腰が砕けた様な状態で畳に突っ伏した。

「あ、相変わらず舌技だけは上手いねィ……」

口を拭いながら言う表情は羞恥に赤く染まって、艶めいていた。
一方赤虎はきょとんとして優猿を見て、海象を見た。

「ましら…?せ、いうち、さん〜…?」
「お前男色嫌いじゃなかったのかよ?」
「??」
「……駄目だ、酔ってる……ふぁっ!!?」

襟元に隠れた海象の首筋に赤虎は軽い口付けをする。
くすぐったかったのか海象はびくっ、と首を竦めた。

「だから何してんだよお前は!!」
「何の話ー??」
「! また話をややこしくするのが来た……」

海象の声が届いたのか、蘇芳色の髪を靡かせてやって来たのは真庭日計である。
端正な顔に笑みを浮かべている。

「どうしたのっ?優猿ちゃんは腰砕けちゃってるし、海象ちゃんはお疲れだし、赤虎ちゃんは見境ないし…? ねえ、どういう状況なの?己も混ぜてよっ!」
「楽しんでんじゃねえ!!おれもこの状況について聞きたいって言うかそんな余裕があんならあんたがこいつの相手してくれよ!!」

ぐい、と赤虎の襟を掴んで海象は赤虎を日計に押し付けた。

「…ぁ、けもの、ぐみ、の…ひばかり、さん……です、かィ…?」
「そうだよっ! ああ、やっと流金ちゃんと名前間違えなくなったんだねっ。」
「ひばかりさんー、」

赤虎は気の抜けた笑みを浮かべたまま日計を抱き締める。
反射的に日計は抱き締め返した。

「ねえ、海象ちゃん。赤虎ちゃんって男色嫌いって言ってなかった?…いや、嬉しいから良いんだけどさ」
「おれに聞くなよ!!」
「…赤虎は絡み上戸なのさァ……」
「優猿平気か?」
「んー、ちょっと色々とやばかったンさ…!!」
「真面目に答えるな馬鹿!!」
「あははははー」
「ひばかりさんんー」

ぎゅうう、と音がしそうなくらいに赤虎は日計を抱き締める。

「何かさ、」
「んー?日計センセ?」
「こうしてる赤虎ちゃん見るとさ、”赤虎”ってよりか”家猫”って感じ……っ!?」
「あむっ。」

赤虎は日計の腰に回した片手を外すと徐に彼の手から手袋を抜き取って、その長い中指を自分の口に含んだ。

「んむ〜」
「ひゃっ…、ちょっと! 赤虎ちゃんっ??」
「ん、んぅう…っ」

指の又から爪の先まで丹念に舌で舐めとる赤虎。
その様子は甘える家猫そのものだが、

「ねえ!赤虎ちゃん…っ、や、 ゆび、はなして…っ!」

日計はたまったもんでは無かった。
無理に指を抜けば赤虎の犬歯に拠って手が傷付く為に抜く事も出来ず、されるがままになりながら、海象に助けを求める。

「せ、海象ちゃんっ。助けてっ!」
「…夜鷹の事があるしな……」
「!! ねえ、それは今は置いといてよっ!お願い助けてぇ…?」
「どうしようかな…?」
「海象ちゃんっっ!!」
「…助けてやる位いいじゃないサ、せい。…ホラ赤虎、指ィ離してやんな。日計センセ嫌だって、困ってるよ?」

横でその不毛な遣り取りを見ていた優猿は苦笑しながら赤虎の耳の鎖を引っ張った。

「ふゃっ!!」

赤虎はびくんとして口を離した。

「あ、ありがと。助かったよ優猿ちゃん…」
「日計センセ、すいやせん…。あの、耳のコレ引っ張ると大抵大人しくなるんで…」
「そうなの?」
「へィ。」

赤虎はぼうっと焦点の合わない眸で三人を見て、

「……、」

邪気の無い笑みを浮かべて、畳に寝転がった。
そのまますうすうと寝息を立て始める。

「………何なんだよこいつは。」
「…すまないねィ。酒呑ませっと何時もこうなるンだよう」
「…保護者の監督が足りないんじゃないの?優猿ちゃん」
「…すいやせん。」

優猿は従弟の赤い髪を撫でながら、二人に謝った。
本心から詫びているにしては、その表情は温かく、赤虎を見ていた。

「…馬鹿虎、酒なんてお前にはまだ早いんだヨ。」

全く困った従弟を持ったもんだヨ。
そう優猿は苦笑し、つられ二人も苦笑していた。
眠る赤い家猫は、うっすらと笑みを浮かべていた。

***



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