ORIMANI*n

□短文ログ
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現代パロ。
DV夫婦+αのクリスマス。



うちの親世代は大食い設定の人間が多すぎるって話。


***


【チキンの丸焼きラズベリーソース添え、チーズ盛り合わせ4種、8種の野菜のラタトゥイユ、蕪のポタージュ、スパゲティ・アッラ・プッタネスカ、カジキマグロのワイン煮込み、南瓜とパンチェッタのグラタン、シュトーレン、ブッシュドノエル】


水野はその日大層機嫌が悪かった。23日。明日はイヴと浮かれる街並みに腹を立て、昼間からワインボトルを開ける位には機嫌が悪かった。
「咲弥さま、そんなに呑んでは明日が辛いのだわ」
「ふん…どうせあの馬鹿が来ないなら構いませんよ。くすくすくすくす、」
「でも…」
「そうだ、あの馬鹿タカが来なければお前が折角準備している丸焼きのチキンだって無駄になるでしょう?こっちに寄越しなさい」
「え?」
「何羽分丸焼きにしたんです?」
「…虎宮さん達と香取さん達も来るから…7羽。」
「3羽寄越しなさい」
「食べるの?」
「小生を誰だと思ってるんです?」
「口に粉砂糖付けて言われても格好良くは見えないのだわさくやさま…」
妻が渋々と渡した丸焼きチキンのプレートを受け取ると、水野はワイングラスに残っていた一口分のワインを飲み干した。ナイフとフォークで器用に鶏を解体し、食べ易いサイズになると見た目にそぐわず存外男らしく齧り付く。
「さくやさま、ソース…」
「下味が濃い所為で、付けたいと思えません」
「え、嘘」
「ほらお前も食べてみなさい」
「ん…? さくやさまの味覚が鋭いだけなのだわ。確かに塩胡椒は振ったけれど、相当控えているのだわ。…それに、お酒と一緒に食べるのだから、少しは濃く作らないといけないのだわ」
「全部濃くては話にならないでしょう?」
「さくやさまの舌の問題なのだわ。…呼んだお客様達がさくやさまみたいな敏感な舌とは限りませんもの。お客様が美味しいと思うお料理にしないと」
「ああ、そうですか。」
繊細な指先をチキンの脂塗れにしてやけ食いを繰り返すと、水野の前には肉より骨の方が目立つプレートが見る間にふたつ出来上がった。時折ナプキンで指先を拭ってはワインを喉に流し込む。普段の水野の食事風景を思えばいささか乱暴な食べ方をしているがそれを指摘する人間は居なかった。文句を言った割には最終的にラズベリーソースでチキンを食べる事に決めたらしく、口内に広がる甘酸っぱいラズベリーの香りを楽しみながら肉の旨味の余韻をワインで流し込む。水野は少々の間だけ怒りを忘れて食事に没頭した。
そして三羽目に取りかかった処でクリスマス・キャロルが鳴り響く。水野の携帯電話が鳴り出したのだ。妻が勝手に変更した着信メロディが酷く耳障りだと思いながら水野は指先の脂をナプキンで拭い、電話を取った。しかし手に持って会話するには些か脂が気になるのでスピ−カーホンに切り替えた。ディスプレイの名前を確認した瞬間忌々しさがこみ上げる。
「…隼人、」
『さく、済まなかった! 招待して貰ったと云うのに…!急に仕事が入ってな。本当に悪かった!』
「貴方が大喰らいだから今年は気を利かせたうちの家内が7羽のチキンを焼いたんですけどね。」
『知っている!おれの妻がそう聞いていたからな、仕事が入ったと言った瞬間に雷を落とされた。…と云うか、7羽?あのオーブンじゃ何時間掛かるんだ?』
「一羽に一時間オーブンを占領されるから一日キッチンから離れられなかったと言われましたよ。貴方の所為だと言ってくれと言われました。」
「言ってないのだわ!さくやさま!」
『ははは、奥方を苛めるな。』
「うちと余所は違うんです。 と云うか何の用ですか?」
『ああ、済まん。今更なんだが仕事が片付いた。明日のホームパーティには参加できそうだ!』
「…………」
『正直な、おれはきっとお前よりも仕事が入った事を残念に思っていたんだ。何せお前の奥方の作る肉料理は最高に美味い!』
「…………」
『あ、いや。お前に会う事も勿論楽しみにしていたがな。』
「…………」
『……さくや?』
「……このっ!馬鹿!!」
『は?なんだ、どうした?さく。』
「馬鹿!先に言いなさいよそれ!!あと30分前に言って下さいよ馬鹿タカ!貴方が来ないと思って2羽と半分食べちゃったじゃないですか馬鹿!」
『はあああ? 何だお前、やけ食いしたのか?相変わらず女みたいな事をするなぁ、ははは。』
「馬鹿タカ!どうするんですか!今からじゃ3羽買い直せませんけど!?」
『お前の所為だろうが。 …うーん…判った。今な、丁度築地に居る。今から買っていけば間に合うか?』
「あたしは作れるのだわ、さくやさま」
「…………だ、そうですけど。何ですか、貴方はそんなに浅子のチキンの丸焼きが食べたいんですか?」
『そうだ! 何せお前の奥方の料理の元はお前だろう?お前はもう料理はしないみたいだが……昔が懐かしいと云うか…ほら、学生時代お前には散々弁当を作って貰っただろう。蒸し豚の梅酢餡かけなんて絶品だったな。その時が思い出されてな……ははは、御袋の味ではないがな。年に一回は食べないと落ち着かん。』
「……小生は貴方の母親じゃないですけど。というか良く覚えてましたね。」
『本当美味かったんだ。あれ』
「機嫌取りしようったってそうはいきませんよ」
『馬鹿言うな。お前に世辞を言っておれに何の得がある。…正月明けに作ってくれとは言うつもりだがな』
「一昨日来やがれって言ってやりましょうか?」
『もう言ってるだろう。…よし、肉屋に着いた。取り敢えず3羽…いや、4羽買っていくからな!待っていてくれ!』
「どれだけ食べたいんですか全く……2時間以内に来ないと作れませんからね」
『承知! ではな、』
がちゃんと切れた電話を妻に渡すと、水野は食べかけのチキンを片付け始めた。ワインで火照ったのだろうと決め付けた頬が少し熱い。この部屋は暖房が利き過ぎている。どこかで自分が少し浮かれているのを自覚しながら水野はチキンを食んだ。今年も楽しいクリスマスになりそうだ。


***

↓名前一覧

水野咲弥(ミズノサクヤ):真庭拳螺
水野浅子(ミズノアサコ):真庭浅蜊
高山隼人(タカヤマハヤト):真庭兄鷂
虎宮(コノミヤ)一家:虎一族
香取(カトリ)一家:蛾一族


このちゃんも大食い。
白黒虎も大食い。
さんちゃんも大食い。
勿論さざちゃんも大食い。
……どんだけ喰うねん。


クリスマスのチキンの丸焼き良いよねって話。
ターキーはほいほい買えるイメージじゃなかったのでトリ肉(しかし7羽…7羽なぁ……結構前から頼んどいたのかな……)。



浅蜊さんは元々そんな料理上手じゃなかったんだけど拳螺が仕込んだので上手です。
…つまりさざちゃんが料理上手です。


にしてもタイトルにした料理全部作るとどれくらい時間掛るんだろう…。





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