ORIMANI*n
□短文ログ
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旧サイトより。
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【白き蛾は一人語散る。】
蛾に伝わる巻物を持った、20そこそこの女は沖蛾ではない。
真庭蛾天。
女だてらに男衆以上の稼ぎを誇るくのいちである。
それが、今。
「…………はあ、」
物憂げに巻物を見ていた。
勿論、忍法百蛾弄乱の記された巻物である。
忍法、百蛾弄乱。
百の毒の、九十九番目。――一夜恋獄。
名前の通りの、強力な媚薬。
ほんの一滴で意中の相手を恋獄に突き落とす、そんな惚れ薬である。
それを、眺める蛾天。
「…………カイ、」
その唇が誰かの名を呼んだ。
巻物の文字列を指でなぞる。
「カイ、麿は貴台が欲しいのでおじゃる。」
なぞる指が震える。
「けれど、この秘薬を使う訳にはいかぬよな」
ふ、と泣き笑いの様な表情になって、まだ若い女は巻物を閉じた。
「麿はそこまでして貴台を欲しゅうないのじゃ。麿は馬鹿な母とは違うて、薬で夫をものにしとうないのでおじゃるよ。たとえ、子を成してしぬ定めの蛾であろうと、想い人と添い遂げられる我侭を想いのままにしてはならんと、麿は思うのじゃ。…のう、蚕妖」
女は悲痛に呟いて、想い人の名を口に出した。
(蛾天様の結婚前。)
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