メッシスで行こう!

□眼鏡
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【カイムの日記】
例の遺跡で先日、僕らコール・テンペストは謎の無人機群に襲われたんだ。どうやら遺跡への侵入者を排除するようにプログラムされてるみたいだな。
「もー!こんなんじゃリ・マージョンができないよぉ!」
フロエが悲鳴を上げるのも無理はない。遺跡の屋内では壁や天井が邪魔になって自由に飛び回れないから、大規模なリ・マージョンは使いにくい。けどシムーンには火器は機関砲くらいしか装備してないし、装甲も敵の無人機より弱いから僕らは大苦戦。なんとか敵を撃退したとき、まだ6機そろってたのが奇跡だと思えるくらいだよ。
さすがのアーエルもだいぶイライラしてたけど、僕はそれよりアーシュラが気に食わない。あいつ、パラ様をバカにするような態度で怒らせたんだ。おとなしく殴られてりゃよかったのに。
それにドミヌーラ。降ってわいたような敵が現れて戦闘が激化すると、ますます偉そうに命令してくる。大した戦果もあげないくせにさ。リモネのパルはアーエルのほうがいいんじゃないか?
「カイム。ちょっとデッキまで付き合わない?」
部屋にいるときモリナスが声をかけてきた。
「なんで僕が…まさか勝手に出撃しようっていうのか?」
モリナスやアーエルは久しぶりの出撃に張り切ってたみたいだ。マミーナたちと張り合って…ドミヌーラなんかにいいように使われて何が楽しいんだか。
「違うわよ。なんだかイライラしてるみたいだから、気分転換になればと思って」
別に僕だけが特別イライラしてるわけでもないと思うけどな。
「ふーん。気分転換ね…何をしようっていうのさ?」
「行けばわかるさ♪ついて来て」
「はいはい。わかったよ…」
まあ、時間はあるけど特段やることもないしね。今更ちょっと訓練したってシムーンの性能が変わるわけじゃないもんな。
ちゃんとした格納庫があるアルクス・プリーマと違って、メッシスは収納スペースも狭いから最近はシムーンもデッキに置きっぱなしだ。いちいち全機しまってたらすぐに出撃できないし。
「なんだ、みんな来てたのか」
全員じゃないけど、ドミヌーラがいたら気分転換にならないからあいつは居なくていい。でもパラ様とネヴィリルも居ないな。
「新兵器!?」
ワポーリフたちが何か作ってたみたいだ。モリナスはそれを見せたかったのか?
「ええ。順調にいけば次の出撃までに実装が可能になる予定です」
「へえ。それであの無人機に対抗しようってわけだ」
「さすがに光線砲というわけにはいきませんが…」
無人機のうち、偵察機っぽいやつ(アスピス)以外は全部主砲が強力な光線砲だった。どんな仕組みかわからないけど、まともに食らえばシムーンの装甲なんてひとたまりもない。
「この砲身からガラス砲弾を発射します。礁国機が使っている物より強力な最新型ですよ!」
「ね、すごいでしょう?この新兵器があれば…」
別にモリナスが作ったわけじゃなさそうだけど、得意気に言うモリナス。
「で、でもガラス玉なんて…礁国の戦闘機なら穴くらい開くかもしれないけど、あの強力な無人機に通用するんですか?」
この間は礁国軍相手に大活躍したロードレアモンも、さすがに正体不明の無人機には手こずってたな。
「これだから世間知らずのお嬢様は…砲弾が硬くて重ければ強いと思ってるの?」
マミーナが呆れ顔で言う。
「違うんですか?」
本気で理解してないみたいだ。…まあ、僕も言うほど兵器の仕組みなんか知らないけどさ。
「たとえば、ワポーリフがシムーンの整備に使う工具があるでしょ。そう、それ」
まさに硬くて重そうな金属でできてる、殴ったら痛そうなやつだな。何て言うのかは忘れたけど。
「その工具をリモネが勝手に持ち出したとして。それで礁国の兵士を殴り殺せると思う?」
って、本当に殴るのか。
「私、そんないたずらしないもん」
不満そうに言うリモネ。
「敵兵を殴り殺すことをいたずらと言っていいならリモネは多分しないわよね」
モリナスが軽くツッコみつつ同意する。
「子供にそんな事をさせるな。これだから戦争は嫌いだ」
さらにユンがあさっての方向からツッコむ。いや、むしろボケてるのか?
「たとえばの話よ。本当にやるわけじゃないって」
「うーん。よっぽど急所をよく狙って力いっぱい殴らないとあたしでも難しいかなぁ」
アーエルで難しいならリモネには無理だな。
「そ、そうだよね」
何にホッとしてるのか、リモネは子供扱いされた事はあまり気にしてないみたいだ。
「じゃあ、ワポーリフが高所作業中にうっかり手を滑らせてその工具を落としちゃって。そのとき偶然ドミヌーラが下を通って工具が頭に当たったとしたら。どう?」
「ざまあみろって思うよ」
質問したのがマミーナだから、僕が代わりに答えてやった。
「ね、姉さん…」
「仕方ないだろ。そう思ったんだから…殺しても死なないようなドミヌーラでもさすがに頭蓋骨にヒビくらいは入るんじゃない?」
痛そうだけど、そんな事であっさりくたばる奴じゃないよな。ドミヌーラは。
「ワポーリフひどいよ」
想像したのか、痛そうな顔で言うリモネ。
「す、すみません。ですが私は落としませんから…」
「マミーナ。ドミヌーラが嫌いだからってワポーリフに殺させるなよ」
アーエルが珍しく(?)ワポーリフを庇う。
「まあ、僕ならうっかり落としたりしないね。ドミヌーラが通ったら頭を狙って工具を投げるよ」
実際やる機会は無いだろうけど。だって僕は工具なんて使わないからね。
「ワポーリフ。頼まれても絶対カイムには工具を貸さないでね!」
「は、はあ」
リモネに念を押されてワポーリフは困惑顔。
「つまり、どんなに硬くて重い物でも弱い力じゃ破壊力はないけど、ガラス玉でも加速をつけて当たれば強力な武器になるってことよ」
「なるほど!」
最新型の砲で撃ち出すんだから、ワポーリフがうっかり落とすより加速もつくだろう。工具より硬くはないだろうけど砲弾は消耗品だもんな。
「ドミヌーラ死んじゃうの…?」
悲しそうに、リモネ。
「ワポーリフの工具が頭を直撃した時間軸のドミヌーラは死んだわ。即死だったから誰も助けようがなかったのよ。ま、不幸な偶然ってやつね」
ちっとも不幸そうに感じない軽い口調で語るマミーナ。
「かわいそう…」
ドミヌーラなんかに同情してやることないのに。あいつもリモネにだけは甘いのか。
「そうか?現実のドミヌーラは殺したって死なないよ」
ああいう奴にかぎって長生きするもんだよな。
「ドミヌーラを殺しちゃダメ!」
「いや、僕は殺さないけどさ」
本当にやれるもんならとっくにやってるよ。
「さっき狙って投げるって言った!」
「冗談だよ。ワポーリフは僕に工具を貸さないんだからいいだろ?」
その工具が特別ドミヌーラに有効ってわけでもなさそうだし。硬い物なら工具である必要もない。たとえば壊れたメガネでも高いところから落とせば充分凶器になり得る。
「いえ、人に向かって投げたり危険な使い方をなさらないならお貸ししますけど…」
律儀に答えるワポーリフ。僕は借りる気はないぞ。
「何の話?殺すとか死なないとか…」
げっ、よりによって本人が出てきた。今こそ登って工具を落とせよとは言わないけど。
「ドミヌーラ!死んじゃダメだからね!」
「?…ええ」
リモネに急に言われて一応うなずくドミヌーラ。
まあ、こいつの事は後回しだ。新兵器のガラス砲弾とかであの鬱陶しい無人機どもを駆逐して、それからだな。
「さて、まずは性能テストの第1段階としてシミュレータでのデータを取りたいのですが」
「は?…何、まさかまだテストすらしてないってわけ?」
「いえ、そうではありませんが…実際の敵に対して撃ってみたことはないので」
そりゃそうだ。整備担当のワポーリフは戦場に出ないもんな。
「つまり、戦闘で得た敵機のデータに基づいて仮想戦闘テストをしろと」
「そういうことです。是非お願いします」
「任せて!カイム。一緒にやりましょ」
モリナスが真っ先に名乗り出た…のはわかるけど、
「なんで僕なんだよ」
「ストレス解消にちょうどいいと思わない?工具を持って高いところに登るより」
「…工具?」
さっきの話を聞いてないネヴィリルが首を傾げる。
「わかったよ。今回だけだぞ」
ただの練習じゃなかったら僕のパルは絶対にパラ様なんだから!
「そうこなくっちゃ♪」
ロードレアモンは、あの性格だからな。リ・マージョン以外の攻撃なんて本当は気がすすまないんだろう。
「私たちもやるわよ。アーエル!」
「え?あたしとマミーナで組むの?」
「あなた、この間の出撃で散々だったでしょ。サジッタも練習しときなさい」
そういえば礁国軍との戦闘でアーエルはリモネと組んでたっけ。確かに珍しく手こずってたな。
「まあ、いいけどさ…」
あれは必要なんだろうか?
「私たちも…する?」
「しないよ」
実機じゃないのにマミーナとアーエルはわざわざキスしてる…そのほうが気持ちが入るのかな?僕はパラ様じゃなきゃしないけど。
「なんだか…ちょっと恥ずかしいね」
「余計な事は言わなくていいの」
やっぱり本人も恥ずかしいのか。
「あの二人、いつの間に仲良くなったんだ?」
「さあ…この間の出撃前には二人だけで訓練して、仲良くシャワー浴びてたみたいよ」
「ふーん」
メッシスに来てからかな。嫌でも部屋で顔をあわせるんだし…
「カイムもパライエッタ以外の人とも仲良くしたらいいのに」
「別にドミヌーラ以外とは普通に仲良くしてるだろ?」
嫌いな奴なんて他にいないしな。少なくとも艦内には。
「アルティは?」
「…うるさいな」
別に嫌いなわけじゃないよ。モリナスには…いや、きっと誰にもわからないだろ。姉妹でも居なければね。
「早速おいでなすったわよ♪」
わらわらと湧いてくる無人機。仮想空間だとわかってても気持ち悪いな。
「あの無人機のデータなんて、いつの間に…」
ワポーリフがやってくれたのか?
「私も手伝ったからね。かなりうまく再現できたと思うわ」
「さすが大空陸一の機械ヲタク…」
なるほど、実際に戦ったモリナスが関わったなら戦場に出てないワポーリフだけより効率がいいわけだ。
「あのキノコみたいなのを狙って」
「この距離で当たるの?」
「それをテストするのよ」
「了解」
大きな傘のキノコみたいな形の無人機はあまり動かないけど、特に強力な光線砲を撃ってくる。前後がないからどこを狙ってるかわかりにくいし、厄介な敵だ。
「…あれ?」
「アーエルだわ」
僕が撃つ前にキノコが爆発した。マミーナもアーエルに同じ指示を出したみたいだな。
「やっぱり考える事は一緒ね。カイム、左の同じやつ」
「よし、今度こそ…」
派手な音をたててキノコが弾け飛ぶ。射程も長いし、当たれば一発だ。データの通りなら凄いぞ。この新兵器…
「あと問題は速い敵に当たるかどうか、ね」
「あの貝みたいなやつでいいの?」
「射程が長いから気をつけて。先に撃ってくるわよ」
こっちから近づいても撃たれるし、待ち構えても撃たれる。敵のほうが射程が長いとやりにくいな。
「来るぞ、モリナス!」
「まかせて!」
撃ってくるのはわかってるから、モリナスがタイミングをはかって避ける。そして敵が次の動きに移る前にガラス弾を撃ち込む!
「どうだ、これが僕らの強みだ!」
機体操作と武器を二人で分担するシムーンなら、こういう戦い方ができるんだ。パルの二人が呼吸を合わせるメリットはリ・マージョンだけじゃない。
「いつもよりいい感じだったんじゃない?」
「まさか。武器がいつもと違うからだろ」
モリナスよりパラ様のほうがいいに決まってる。
「もう。素直じゃないんだから…」
「僕は誰よりも素直なんだよ」
自分の気持ちに、ね。
「きゃ!?」「うわ!?」
「…な、何?」
「何が起こったんだ?今のは…」
機体が大きく揺れた。背後から攻撃!?射程内に敵はいないはず…
「バーカ!どこに撃ってるのよ!?」
「マミーナの操作が早いんだよ!あれじゃ誰がやってもタイミングが合わないよ!」
アーエルの弾が僕らの機体に当たったのか…何やってんだか。
「戦場では遅れたほうが負けるのよ。常に早めに動くのは鉄則なの!」
「何でも早けりゃいいわけじゃないだろ。マミーナこそ早死にするタイプだね!」
「言ったわね!?私は一秒でもあなたより先には絶対に死なないから!」
「人の生き死にまで秒単位で考えるなよ。せっかち過ぎるぞ!」
テストだけのシミュレータでよくあれだけ言い争えるなあ…
「あの二人よりは、ね?」
「それは認める」
「…ふふっ」
「あはは!」
そうだな。パラ様の次くらいに、モリナスは僕と相性がいいって事にしておくよ。
使い捨てのガラス玉と違って、僕らは簡単には壊れない。壊さなくたって替えが効くなら、可能性はもっと広がるんだ。たまにはいつもと違うメガネをかける日があってもいいさ。

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