メッシスで行こう!

□宝玉
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【マミーナの日記】
私は、まだマシなほうだと思うわ。アルクス・ニゲルのコール・イグニスにいた頃から、ユンとのパルはずっと固定だし。もともとコール・テンペストにいた連中と違って相手がコロコロ変わったりしてない。
だからいつも通りに戦えて、今のところ安定した戦果をあげられてる。
遺跡の無人機にはずいぶん手こずったけど、少しずつ敵機の特徴もつかめてきたし、倒し方がわかればこっちのものよ。
「…疲れた」
でも、ずっと気を抜けない危険な敵であることに変わりはない。相手は機械、疲れを感じることも無ければ人間みたいなミスもしない。連戦が続いた分、こっちだけ疲れが溜まっていく…
メッシスの医務室のベッドに寝転んで、思う。アルクス・ニゲルやアルクス・プリーマにいた頃は個室があって、まあ二人部屋ではあるけど今より遥かに落ち着いて休めた。それが今は…時々こうして医務室にでも避難して来なきゃやってらんないわ。
「少し寝るか…」
ここで戦果をあげ続けて、必ず戻ってみせる。あの美しい艦に。私にふさわしい最前線の戦場に…

【メッシス・倉庫】
ここにはお菓子だけじゃなく、面白い物がたくさんあるの。壊れた物や、何かの部品。服や靴にアクセサリーまで…服とかは私にはサイズが合わないから見てるだけだけど。
「誰かいるのか?」
「あ。ユン…」
普段は誰もいない倉庫だけど、たまに人が来ることもあるよ。アーエルかワポーリフがいることが多いかな。
「リモネか。マミーナを見なかったか?」
「さあ…ここには来てないと思う」
マミーナは倉庫には全然来ないよね。トレーニングルームとかによくいるけど。
「そうか。…リモネは何してるんだ?こんなところで」
「ここ、面白い物がいっぱいあるの」
ユンにも教えてあげよう。
「倉庫の物を勝手に触っていいのか?」
「誰も使ってないみたいだし…ほら、こんなのとか」
「これは…まさか」
「何かの破片だよね?ちょっとキレイ♪」
「シムーン球じゃないか!その破片がどうしてこんなところに…」
言われてみれば、確かに壊れたシムーン球の一部みたい。
「シムーン球って壊れたりするの?」
「シムーン球だけが壊れるとは考えにくい…敵の攻撃を受けるなどして機体が破損したんだろう」
「じゃあ、私たち以外にシムーンに乗ってた人がメッシスにいたってこと?」
「おそらくは。今は俺たちだけだが、過去にいたんだろうな…」
「そうなんだ…」
いた、けど。今はいない…攻撃されて、シムーンはバラバラに壊れた。それって…
「死んじゃったのかな?」
「わからないが…あまり考えたくはないな」
「こんなにキレイなのに」
半透明の緑色。宝石みたい。
「リモネ…もうよそう」
「どうして?」
「これは遺品かもしれないんだ。あまりむやみに持ち出すのは、何というか…」
「でも、ユンも私も知らなかったよ。みんなもきっと知らない。私たち以外の誰かが、この艦でシムーンに乗ってたこと」
「それは…そうだが」
これを見つけなかったら、誰も知らないままだったかもしれない。その人がいたことも。
「面白おかしく扱っていい代物ではない…が、そうだな。知ってもらうのは悪い事ではないかもしれない」
「うん」
後でロードレアモンやアーエルにも見せてあげよう。あと、マミーナにも。

【メッシス・医務室】
倉庫で見つけたいろいろな物を誰かに見せてあげようと思って、部屋に戻ろうとしたんだけど…医務室に誰かがいるみたいで、ちょっと気になって中をのぞいてみる。
「あ」
マミーナだ。ケガでもしたのかな?それとも体調が悪いのかな?
ユンが探してたけど…言わないほうがいいかな?
『あなたがよくても、私がイヤなの!…カッコ悪いじゃない』
もしかしたらマミーナは調子が悪いとき誰かに弱った姿を見られるのがイヤで、誰にも言わずに一人でいるのかも…
周りに人がいないのを確認して、もう一度倉庫へ行くことにした。

【再び医務室】
物音がして目を覚ます。どれくらい寝てたのかしら?別に体調が悪いわけじゃないから、すぐ起きられるけど。
「誰?」
「マミーナ。大丈夫?」
「リモネか…こんなところに来て、具合でも悪くなったの?」
「ううん。お見舞い」
そう言ってリモネが花を差し出す。
「は?…ああ、いや私は別に病気じゃないわよ」
「そうなの?」
「そうなの。だいたい花なんてどこで見つけてきたのよ」
「倉庫にあったよ」
そういえばリモネはよく倉庫に入り浸ってるみたいね。あんな薄暗いところで何が楽しいんだか…
「倉庫?なんでそんなとこに…倉庫に花なんか飾ったって誰も見ないじゃない」
「だから持ってきたの」
「あ、そう。…まあ、ありがと」
「キレイでしょ?」
「そーね。これ、何ていう花だっけ?」
「知らない」
えーと、リ・マージョンの花は秋桜、百合、雛罌粟、向日葵、蒲公英。まあ、タンポポは雑草みたいなのだから違うとして…
「秋桜、百合、向日葵もひと目でそれとわかる形だから、あとは…」
「雛罌粟?」
「って、こんな花だっけ?」
「知らない」
なんか別名があったわよね。何て言ったっけ…ペパー?違う、パピー?
「あなた、よく本とか読んでるくせになんで知らないのよ」
「植物は種類が多すぎて覚えきれないもん」
「じゃあ何だったら知ってるの」
「いちご、オレンジ、キウイ、バナナ、ぶどう、メロン、桃、りんご、レモン、パイナップル」
「それ全部フルーツじゃない」
「お見舞いにはフルーツだってロードレアモンが言ってた」
「あっそ…」
金持ちのお嬢様は入院なんかしなくたって網目模様のメロンも食べ放題でしょうよ。
「はい。お見舞い」
「…飴?」
「本物のフルーツは持ってないから…」
「だから私は別にケガでも病気でもないって。ま、くれるなら貰っとくわ」
リモネがくれたキャンディ…ドロップス?を口に含む。
「すっぱ!レモンキャンディじゃない」
「おいしい?」
満面の笑みで訊いてくるリモネ。
元気が出る気がするのは、レモンの酸味のせいだけじゃないかもね。

(終)


 

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