メッシスで行こう!

□餌付け
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人が生きていくためには、欠くことのできない「食」。生き物が餌を求めるのは必然である。ここメッシスの食堂にも例外なく、いつもコール・テンペストの面々が集まる。もちろん全員出撃のときはさすがに空になるが、彼女らが艦内にいれば食事の時間に限らず、ここは憩いの場になっている。
「ちょっとアーエル、散らかさないで。どうせ掃除するのは私なんだから!」
テーブルを拭いていたマミーナが、菓子パン片手に席を離れていたアーエルを見つけて注意する。
「あ、ごめん…」
アーエルが食堂の窓を開けていたものだから、菓子パンの袋が風で飛ばされて、それをマミーナが拾ったのだった。
「…って、言ったそばから何してんのよ」
おもむろに菓子パンをちぎって、開いた窓から外へばらまくアーエル。
「や、ちょっと外の住人とコミュニケーションをね…」
そう言って窓から身を乗り出しているアーエル。マミーナもアーエルの隣に来て外を見た。
ほら、と言ってアーエルが指さす先には、鳥の巣がある。ようやく理解したマミーナは呆れ顔。
「ばかね、餌付けなんてできると思ってるの?」
アーエルに冷ややかな視線を向けて、マミーナ。
「そんなの、やってみなくちゃわかんないよ」
拗ねたように菓子パンにかじりつくアーエル。
「あんたってホント子供ね。リモネのほうがよっぽど大人──」
不意に、アーエルとマミーナの間に何者かが割り込む。
「Trick or treat?」
「っはΣ(´Д`;)」
急に目の前に何かブキミな物体が現れて、驚いたマミーナは数歩後退。すると正体は容易に知れた。ロードレアモンのぬいぐるみを抱えたリモネだった。
「お菓子、くれないの?」
不満そうに、リモネ。
「…前言撤回。あんたたち同レベルだわ」
ぼやくマミーナは無視して、今度はアーエルに迫るリモネ。アーエルが食べかけの菓子パンを差し出すと、やはり不服そうな顔をしたが、ちゃっかりもらって食べた。
「ところで何なの、それ」
「これ?」
アーエルの問いに、ロードレアモンのぬいぐるみを掲げて見せるリモネ。
「じゃなくて。トリ…なんとかってやつ」
マミーナが窓を閉めると、近くにいたらしい小鳥が驚いて飛び立つ。
「あー!(;´Д`)もしかして今、食べに来てたんじゃない
名残惜しそうに窓の外を見て、アーエル。
「知らないわよ」
やれやれ、といった調子で受け流すマミーナ。さすがに窓を開けっ放しにしておくには寒い季節になった。
「そうか…今日だったな」
いつからいたのか、ユンが会話に加わる。
「何の話?」
マミーナも少しは興味があるらしい。
「テンプスパティウムの祭りだ。子供らが仮装して街をねり歩き、民家を訪問しては、ああ言ってお菓子をもらう」
リモネはまだ例のぬいぐるみを持ってほかの人にお菓子をねだっているようだ。
「…なるほど」
今度は食堂のおばさんがリモネにつかまっていた。
「聞いたことないわね」
「もともとは嶺国の風習らしい。宮国ではあまり知られてないし、オレも実際に見たことはない」
ユンによると、仮装はお化けや魔女、悪魔、妖怪などがポピュラーだとか。
リモネが持ち出したロードレアモンのぬいぐるみは、もともと少々奇抜なデザインだが、フロエによって破壊され縫い直したことで余計に奇妙な顔になった。お化けに見えないこともない。
「ちなみに」
食堂から出て行くとき、いったん立ち止まって、ユンが言った。
「あの鳥。虫などの生きた餌しか食べないぞ」
拍子抜けした顔で突っ立っているアーエルの肩をぽんと叩いて、マミーナも食堂を出て行った。
「Trick or treat?」
リモネ、満面の笑み。
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