メッシスで行こう!

□捕獲
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【遺跡内部・水路】
私たちの手足となって動く無人機の中で歩行型はアクリスだけ。ほかは飛行型で、浮いていれば水に浸かることなく待機していられる。
「…ねえ」
つまりアクリス以外の機体だけを配置すれば、ある程度動いても水面に波紋の一つも起こさず、敵に悟られることなく待ち伏せができるって寸法。いや、戦法かしら?
「レイユイ。まだいたの?」
遠回しに早く下がれと急かしてくる相棒、キャンディス。この作戦に私は必要ないと思ってるみたいね。
「こんな見え見えの作戦が本当に通用するの?ここしか通り道がないんだから向こうもベタな待ち伏せくらい想定してると思わない?」
私は好きじゃないな。待ち伏せなんてせこい手を使うのは…あんな奴ら、私たちの圧倒的な力で正面から叩き潰せばいいのよ。
「たとえ想定できても向こうの戦力が私たちと互角に戦えるレベルに達してない限り、何もできやしないわよ」
コール何とか…なんだっけ?クリサリスが迂闊だったとはいえ、少なくとも自信過剰のあいつが油断して伸びきった鼻をへし折られる程度の実力はあるってことでしょ。
「それに。私なら気づかれる前に狙撃して潰しちゃうことだってできるし♪あなたのウングウィスじゃできないでしょ?」
キャンディスの乗機、カルドゥウスの主砲は射程の長さが文字通り最大の特長。確かに、あいつらのシムーンの攻撃が届かない距離から撃ち落とすくらい簡単だろうけど。
「バカにしないでよ。あんたの自慢のそれよりウングウィスのクローのほうが強いし、私のほうが速いんだから!」
キャンディスはカルドゥウスの機体を緑色に塗装してる。野外で隠れて待ち伏せするのに最適だとか言ってたっけ。ここじゃ意味ないと思うけど。
「敵に近づかないと当たらない武器じゃダメよ。姿を見せないと攻撃できないじゃない。それじゃ作戦が台無しだわ」
私とキャンディスは昔から一緒に行動することが多いけど、つくづく考え方が合わないわね。
「じゃあ、あんたの作戦がうまくいくように協力してあげる。私が先に行って、あいつらの位置を確認して教えるわ。そうすれば敵がいつ来るのかわかるでしょ?」
クールで神秘的な青紫、自慢の愛機ウングウィスに乗り込む。
「いいけど…敵に姿を見せないでよ?あくまで偵察だから、勝手に攻撃を仕掛けたりしないでね」
私が参加しない前提で立てた作戦なんて、ちょっと気に入らない。
「はいはい。偵察ね」
だけど戦闘って、頭の中だけで片付くものじゃないし。実際の戦場では想定外の事も起こるから。
「大丈夫かしら…」
つい、うっかり敵の二、三機くらい仕留めちゃうかもね?…ふふっ

【遺跡付近】
初めての相手とパルを組むときは誰だって緊張する…って、誰が言ってたんだっけ?
「こんなので本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫!操縦するのはマミーナだもん。頼りにしてるから♪」
遺跡に勝手に入ることに比べたら、マミーナと組むことの緊張感なんてゼロに等しいよね。…あ、でもキスの瞬間はちょっとドキッとしたかな♪
「そうじゃなくて。あなたが操作する予定のソレよ」
「シミレでヘリカル・モートリスを運ぶとき、これで固定するんだって。強度もバッチリだから簡単に切れたりしないよ」
ワポーリフから借りてきたんだ♪
「そんなことはわかってるわよ。埋まってるヘリカル・モートリスは逃げられないし撃ってこないからいいけど、相手は私たちのシムーンより高性能なんだからね!」
この間クリサリスのアラウダと戦ったけど、すっごく強かったもんね。6対1でも危なかったくらいに…
「そんなの私だってわかってるし。高性能じゃなかったら捕まえる意味ないもん」
でも今回は撃破するわけじゃなく、あくまで捕まえるのが目的だし。
「変な装備をアテにするより、素直にリ・マージョンを使ったほうがいいんじゃないの?」
「まあ、まあ。とにかく一回これ試してダメだったらなんかリ・マージョン使えばいいよ♪」
「まったく、大雑把なんだから…(慎重なユンとは大違いね)それならその時のことも決めておきましょ。忘れるんじゃないわよ?」
「わかってるって。じゃあ最初は…」

【遺跡・地上側出口】
キャンディスが悪いのよ。待ち伏せ作戦なんて考えるから…私たちは待ち伏せ“する”側に決まってるって、当たり前のように思っちゃうじゃない?
「離してよ!何のつもり!?」
敵の攻撃を受けたわけでもないのに機体に異変が起こったら、降りて確認したくなるでしょ。決してクリサリスみたいに油断してたわけじゃないんだから!
「えーと…そっちじゃない予定だったんだけど」
この時代の人間は網で魚を捕まえるっていう原始的な方法で食糧を集めるって聞いたことがある。
「何が!?っていうか、あんた誰よ!?」
ちょっと興味はあるけど、それはもちろん“捕まえる側”であって、捕まる魚の気分を体験したいわけじゃない。ちょうど、こんな具合に。

【再び遺跡付近】
網のようなもの、としか言いようがないそれで敵のウンブラ・シムーンを捕らえるつもりだった(らしい。フロエ曰く)のに、中身のほうが出てきて見事に網にかかってしまった。
「だからぁー、私たちはウンブラ・シムーンが欲しいのね。あなたが乗ってきたウンブラ・シムーンを譲ってくれたら解放してあげたいんだけど」
捕らえた敵との会話とは思えない暢気な口調でフロエが言うと、噛みつかんばかりの勢いで睨みつける黒髪の少女。
「ふざけるな!誰がお前らなんかに渡すか!死ね!クソガキ!」
…って言う割に、フロエと変わらないくらい幼く見えるわね。背が低くて童顔で、黙っていればなかなか可愛らしい…かも?
「あなたのほうが小っちゃいじゃん」
言われてみればフロエのほうが少しだけ背が高いような、そうでもないような…?
「はぁ?あんた、両目ついてる?私のほうが倍くらいあるんだけど」
黒髪の少女のほうは背丈じゃなくて別の部分を見比べて言ってるわね。
「あ、そう。じゃあウンブラ・シムーンごと連れて帰ろうっと」
一応気づいたらしく、カチンときたのか“中身”も解放しないと言い出すフロエ。
「いや、連れてってどうするのよ…ウンブラ・シムーンだけいただいて帰りましょ」
人質を取ったところで抵抗をやめるような手合いとは思えない。私たちより優れた技術を持ってるんだから何を隠していても不思議じゃないし、艦に連れ込んだら逆に私たちが危険かもしれない。
「触るな!ぶっ殺すぞ!どけ!離せ!死ね!」
怒ってジタバタ暴れる黒髪の少女。でも、かえって網が絡まって逃げられなくなってるわね。
「ねえ、どうして私たちを攻撃してくるの?あなたはアーシュラの仲間じゃないの?」
あの遺跡に私たち(を含む部外者)が侵入すると都合が悪いっぽいのは、何となくわかるんだけどね。
「フン。お前らなんかに教えてやる筋合いはないわよ。アーシュラにでも聞けば?」
「“お前”じゃなくてフロエだよ。あなたの名前は?」
訊いたところでまた同じ答えが返ってくるだけ…
「…レイユイ」
と思ったら意外とあっさり名乗ったわね。レイユイ…も、あなたって呼ばれ続けるのを嫌ったのかしら?
「レイユイちゃんっていうんだ?可愛い♪」
「うるさい。フロエダ?変な名前!」
「違うよ。フロエ!」
“だ”までが名前だと思ったのか…まあ、ありえない名前じゃないかも?
「そっちの奴は変な髪形!」
「大きなお世話よ。私はマミーナ」
レイユイの長い黒髪は外にハネてて、それがまた性格を表してるようで似合うし可愛い。
「ねえ、レイユイはパルがいないの?あのウンブラ・シムーン、どうやって動かしてるの?」
「ぱる?」
そういえば、アーシュラも一人でトゥルドゥスに乗っていたみたいだけど…
「見境ないわね。アーエルがいいんじゃなかったの?」
「え?…あ、そうだけど違うよ。パルに誘おうっていうんじゃなくて、あのウンブラ・シムーンをメッシスまで運ばなくちゃいけないでしょ」
「ああ、そういうこと…」
フロエのことだから、てっきりレイユイをパルにしようと思ってるのかと…
「まあ、レイユイも可愛いからそれもありかなって思うけど♪」
いや、やっぱりフロエはフロエだわ。
「勝手に話を進めないでよ。何なの?パルとかって…」
パルがいないだけじゃなく、パル自体を知らない?つまりウンブラ・シムーンはすべて一人乗りってこと?あの高性能で、シミレと同じ…
「ふーん。退化した人間って不便なんだ」
「退化って何よー。こんな網に引っ掛かったくせに!」
「う、うるさい!さっさと私を解放しないと本当にぶっ殺してやるから!」
「あの無人機を呼ばれたら厄介だし、さっさとウンブラ・シムーンを運びましょ」
「そーだね。乗らなくてもこのまま網で何とか運べるかなぁ?」
「ちょっと!?やめてよ!離せ!下ろせ!」
コクピットから降りた状態のレイユイごと網で捕まえて…つまり網と機体の間にレイユイが挟まったままチューボ(私たちが乗ってきたシムーン)を飛ばしてウンブラ・シムーンを運ぶ。
「返せ!戻せ!降りろ!泥棒!人さらい!マミーナ!フロエ!お前ら絶対ぶっ殺してやる!」
「暴れちゃダメだよレイユイ。絡まった網が外れたら落ちて死んじゃうかも」
人を捕まえるための網じゃないから網目は少し大きい。小っちゃくて華奢なレイユイならあり得るかしら?
「でも動くと余計絡まってるみたいだし大丈夫じゃない?」
「ちっとも大丈夫じゃない!バカ!卑怯者!死ね!」
むしろバカじゃないのが本当の卑怯者だと思うけど…それに一番死にそうなポジションにいるのはレイユイだし。
「レイユイのウンブラ・シムーン、きれいな紫色なんだね。みんな色が違うなんて、やっぱりシミレに近いのかなぁ?」
トゥルドゥスは黄色っぽい金色だし、アラウダは白っぽい金色。最初に見たサイルサンドラとかいう奴のは赤に近いオレンジだったわね。
「紫じゃなくて青紫よ。両目ついてるの?色盲!フシ穴!犬の目!」
「…振り落としちゃおっか?」
「やめなさい。でも本当にレイユイを連れて帰ってどうする気?」
「ウンブラ・シムーンだけ貰っても私たちが動かせなきゃ意味ないでしょ?」
シミレみたいに誰でも乗れるってわけじゃないのかしら?
「あんたたちにウングウィスは渡さないわよ」
「それで中身も連れてくってわけね。でもレイユイに操縦させたら敵になるだけなんじゃないの?」
もし味方にでもなってくれたら頼もしい戦力なんだけどね。
「聞いてるの!?そうよ、あんたたちは敵だから許さないわ!」
「待って。レイユイにとって敵って何?レイユイの目的の邪魔にならなければ、私たちが戦う理由も無いんじゃないの?」
そういえば、まだはっきりそのへんの事情を聞いてなかったわね。
「それは…サイルサンドラが」
「サイルサンドラ?あいつもレイユイの仲間なわけ?」
「そっか。最初に遭ったときアーシュラと争ってたもんね」
「そ、そうよ。私が捕まったって、サイルサンドラがあんたたちなんか蹴散らしちゃうからね!」
「まあサイルサンドラのことは置いといて、レイユイはどうなの?」
「何がよ?」
「どうしても私たちと戦わなきゃならない理由があるのかって事でしょ」
「そうそう」
「そんなの、あるに決まってる…と思うけど」
「何それ?本当にあるんだったら理由を言ってみてよ」
どうにも歯切れが悪いレイユイが言葉を詰まらせているうちに、すっかり見慣れたボロ船が姿を現した。
「着いたわ。どうするの?」
「どうするって、帰るんでしょ?このまま降りてよ」
「けど、ご丁寧に歓迎されちゃってるわよ」
「…あ」
フロエと私が一機だけで無断で出撃したことに、ネヴィリル以下コール・テンペストの面々もとっくに気づいている頃だ。
普段はアーエルが乗る隊長機ウェントスの“アウリーガ席の” コクピットを開けた状態で、そこにネヴィリルが仁王立ちで待ち構えていた。…そう、普段はサジッタに甘んじている我らがレギーナ、ネヴィリルが、アーエルを押しのけてアウリーガに戻るくらい事態は深刻だった。
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