メッシスで行こう!

□愛読書
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【ロードレアモンの日記】
偵察用中型母艦…メッシス。これが現在の私たち、コール・テンペストの母艦です。
お聖堂、食堂、小さいけど図書室もあります。トレーニングルームではシムーンによる仮想戦闘を体感できるシミュレータもあるんですよ。個室は無いですけど…
「…はぁ」
当たり前だと思っていた、あの生活を失った実感がどうしようもなく突きつけられます。アルクス・プリーマは大きくて、何でも揃う、それは美しい艦でした。
…いえ、壊されたとはいえ修理中のはずですから、元通りの美しい姿に戻る日はそう遠くないでしょう。ヴューラたちは今頃どうしているのかしら…
あれこれ考えても気持ちが沈んでしまいます。狭くてほこりっぽい図書室でも、素晴らしい本はありますから。今は読書に集中!
『100回叩くと壊れる壁があったとする。でもみんな何回叩けば壊れるかわからないから、90回まで来ていても途中であきらめてしまう』
なるほど…目標とはいつも明確な数字を示してもらえるとは限らないということでしょうか?逆に数字があれば頑張れるということでもあるのかしら?
この本には思わずハッとさせられるような言葉がたくさん出てきます。ただの言葉遊びじゃなくて、熱い思いが伝わってくるような…まあ、メッシスの壁はカイムが蹴ったらすぐに壊れてしまいそうですけど。
「ロードレアモン。ドミヌーラが呼んでるよ。出撃命令が出たみたい」
アーエルが呼びに来てくれました。いつの間にか図書室でずいぶん長い時間を過ごしていた気がします。
「私をわざわざ呼びに来てくれたの?」
「ドミヌーラに言われて仕方なく来ただけだよ」
アーエルの性格は…しばらく一緒に過ごして少しはわかっているつもりです。きっと本当のことを正直に言ってくれるのはいいことだと思います…けど
ブリッジに全員集まると、ドミヌーラから説明がありました。私たちコール・テンペストには近くの遺跡を調査する任務が与えられたそうです。
「やっぱりわざわざあらたまって全員呼び集めるほどの話じゃなかったわね」
思ったことをはっきり言うところは…マミーナもアーエルと似ているかもしれません。
「読書の続き?」
出撃まで時間があるので、また図書室で本を読んでいたらアーエルが来ました。
「よかったらアーエルも一緒に…」
何の本を読んでいるのか訊かれたので、一緒に読もうと誘ったけど、
「あたしは遠慮しとく。読書は性に合わないんだ」
それって…本は気になるけど私と一緒に読むのが嫌、なんでしょうか?
「アーエルに嫌われてる?」
食堂でフロエが声をかけてくれて、つい愚痴をこぼしました。
「そう…なのかなって」
「えー?なんで?何したの?」
「私は何もしてないですけど…」
「じゃあアーエルに何か言われたんだ?」
「いえ、悪口とかじゃないんです。ただ、ちょっと…」
冷たいかなって。
「気のせいかもしれないってこと?」
「え、ええ。…だといいんですけど」
「だったらきっと気のせいだよ。元気出して!」
だからパルになろうよ♪とは言ってくれません。今日もフロエはいつも通りアルティと組むみたいです。二人はアーエルたちが来る前からのパルですし、当たり前といえばそうなんですけど…
むしろフロエが興味を示してる相手はアーエルで、そのアーエルがフロエと組む気がなさそうで誘っても断られ続けているみたい。
私もモリナスに不満があるわけじゃなくて、でもモリナスは人よりもシムーンが大好きな人ですから。いつもデッキや格納庫で機械いじりに夢中です。人間関係の悩みを打ち明けるにはちょっとまだ心もとない関係かもしれません…
気分転換にシャワーでも浴びてこようと思ってシャワー室に来たんですが、
「あ。す、すみません」
「別に構わないわ」
ネヴィリルが先にいました。
「でも…珍しいわね?」
「えっ」
「いつも先に声をかけてくれるじゃない?…他の人と違って」
そういえば、フロエやアーエルは声をかけずに入ってくるけど…私も今日は少しボーッとしていて忘れてました。
「何か悩み事?」
「そ、それは…はい」
フロエが言うように私の思い込みに過ぎない些細な事かもしれません。それをネヴィリルに告げ口するみたいで気がひける部分もあるんですが、かといってネヴィリルに隠し事もできませんし…
「…アーエルが?」
「あ、あの…もしかしたらそうなのかなって。ちょっとそんな気がしただけっていうか」
「あの子が仲間の誰かを嫌うって、ちょっと想像できないけど…」
そういえば、アルクス・プリーマにマミーナが来た頃、アーエルと激しくケンカしたけど、むしろ二人の関係は今は良好。私はマミーナに嫌われてるみたいだけど…
「そうね…たとえ嫌われていなくても、評価が低いと扱いも低くなるのかもしれない。あの子が私に興味を示したのは、そもそも私がシヴュラ・アウレアだからよ」
「そ、そうですか…」
アーエルは戦うためにここにいる、と公言しています。確かに、コール・テンペストの中では私は戦闘が得意なほうではないし、だから私に興味がないというのは説得力がある理由です。マミーナとアーエルがすぐに仲良くなったのも、アウリーガとして競う関係がいいのかもしれません。
「じゃあ…行きましょうか。一緒に」
「え?…行くって」
「この後、出撃があるでしょう。私があなたのパルよ」
ネヴィリルと…私が!?
「えぇ!?あ、あのでも、アーエルは…」
「アーエルは今日はリモネと組むそうよ」
「あ、そうなんだ…」
長い付き合いですし、アーエルたちが来る前には私も時々はネヴィリルと組むことがありました。アウリーガの訓練のためにアムリアと組んだこともあります。
で、でも…やっぱり緊張します。本当に私でいいのかな?
シャワーの後、着替えてデッキへ出たけど、久しぶりの出撃を前に…
「きゃ」
「おっと…気をつけろ」
「す、すみません…」
パライエッタにぶつかってしまいました。
「そこは私が望んでも手に入らない席だ。胸を張って行け」
「!…は、はい」
アムリアがいなくなって、でもネヴィリルのパルになったのはアーエル。パライエッタはずっとネヴィリルを想っていたのに…
中途半端な気持ちでネヴィリルのパルは務まらない。アムリアとパライエッタと、それにアーエル…もちろん私自身と、誰よりネヴィリルの想いに応えなくちゃ!
『君が次に叩く一回で、壁は打ち破れるかもしれないんだ!』
あの本の言葉を思い出して、一歩を踏み出す。この出撃で結果を出して…ううん。今日だけじゃなく、今日から積み重ねていくんだ。壁が壊れるまで…いつかアーエルに認められるように。
「行きましょう」
「はい!」
ネヴィリルの手をとって、キス。やっぱりドキドキするけど、ちょっぴり誇らしい気持ちもある。
遺跡へ向かう6機のシムーン。その先頭を行くのが私たち。ネヴィリルの隊長機、ウェントス。
後ろでモリナスたちが通信索で何か話してるみたいだけど…パライエッタに怒られたりしないかしら?
…と思ってたら、そのパライエッタ機デュポーン(普段は一番後ろのポジションです。装甲が一番厚い機体なので背後からの不意打ちに備えるのが目的です)が通信索で私たちに声をかけてきます。
「調子はどうだ?久しぶりの出撃だが」
「問題ないわ」
やっぱりネヴィリルのことを気にかけてるんですね。
「あ、あの…モリナスたちは」
「ん?…ああ、別に構わないさ。多少の私語は伴うだろうが、連携も必要だ」
怒ってはいないみたいです。
だけど、穏やかな雰囲気は一変します。私たちが遺跡に到着して間もなく、礁国軍が攻めてきて交戦になりました。
「アーエル、後ろ!」
「この角度で…ダメだ、当たらない」
慣れないサジッタでの出撃にアーエルも苦戦してるみたい。
「ロードレアモン。撃てる?」
「はい!」
リモネ機プロケラの背後の敵にネヴィリルがギリギリまで近づき、私が仕留めました。
敵は全部で9機いたそうですが、終わってみれば私たちのウェントスが6機も撃墜していました。
「やるなあ。見直したよ、ロードレアモン!」
アーエルがそう言ってくれて、
「アーエルより優秀なんじゃない?」
モリナスまでそんなことを…
「そ、そんな。私よりネヴィリルの力ですよ…」
「でもリ・マージョンは二人の呼吸が揃わないとダメだから…」
エクエア時代の実機訓練で失敗したことがあるというリモネの言葉には実感がこもっています。
「うまくいったみたいね」
「は、はい。おかげ様で…今日は本当にありがとうございました」
「私はいつも通りにやっただけよ」
最近はアーエルがアウリーガで、ネヴィリルはサジッタとしての出撃だったけど…やっぱりネヴィリルにはアウリーガが似合う気がします。アムリアがいた頃は…
「きっと…それなんだわ」
「え?」
アーエルの言葉が冷たいと感じたとき、内心「アムリアならそんなこと言わない」って思った。私自身が、心のどこかでアーエルをちゃんと認めてなくて…だから些細な事でアーエルとはうまくやっていけないって思い込んでたのかも。
あの本、アーエルにも見せてあげよう。同じものを共有したいって、今はより強く思うから。
そして──
「…帰ろっか」
「そうだね」
「部屋でお菓子食べようっと」
やっぱりちょっと冷たいです。気になるっていうから見せてあげたのに…まあ、アーエルだけじゃないですけど。
もっと頑張らなくちゃ。私にはこの本があるから、きっと大丈夫ですよね♪

(終)
※次ページから『捕獲』の後日にあたる第2話
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