メッシスで行こう!

□発熱
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その日の昼食の時間、ユンはいつになく上の空だった。そんなユンを見て、いたずらゴコロわくわくしてしまうマミーナ。
「ほら、揚げたてよ。冷めないうちに食べなさい」
皿に山盛りのオニオンフライを置いて、にこやかに言うマミーナ。
心ここにあらずのユンは、ためらうことなくオニオンフライにフォークを突き刺し、食べた。
皆が一斉に注目する。ちなみにユンはタマネギが苦手で、料理に入っていれば全部取り除こうとするほど。
そのユンが、黙々とオニオンフライを食べ続ける。ただ事ではない。
「すごいじゃないかユン! 苦手を克服したんだね」
おもむろにユンの手を握り、嬉しそうに言うアーエル。
「あっ、アーエル
驚いて正気に戻ったユンは、わけがわからず赤面する。
「…オレは何かほめられるようなことをしたのか?」
マミーナが素早くオニオンフライの皿を取り上げ、モリナスの前に置いた。
「こんなにいらないって
ちなみにモリナスは巫女でありながら整備士のまねをしてデッキでシムーンをいじっていることが多く、食事もその場でとれる簡単なもので済ませるから栄養が偏りがち。
「野菜食べないと早死にするわよ」
マミーナもまた、コール・テンペストにとって欠かせない存在(ごはん係)だ。
「…どうしてついてくるんだ」
食堂を出て行ったユンは、アーエルに気づいて振り返った。
「や、何かあったのかなって」
食欲がないのか、ユンは結局オニオンフライしか食べていない。
「…別に」
「ユンらしくないなぁ」
アーエルにそう言われて、今朝のことを思い出すユン。
ユンらしくていいんじゃない。
アーエルの言葉が頭の中で繰り返される。
あたしは好きだよ。
好き、だよ。
思わず目をそらすユン。顔がみるみる紅潮していくのを自覚した。
「…変、だろうか」
「え?」
ユンのつぶやきがアーエルに聞こえていたかはわからない。答えを待つことなく、ユンは逃げるように立ち去った。
(オレはやっぱりおかしいのか? アーエルの顔をまともに見られないなんて)
変、ってことじゃん。
今度はフロエの言葉が繰り返される。
シムーンを操れる巫女というだけで、したくもない戦争に駆り出されている。自分の人生さえ自由にできない世の中だ。
(何が悪い!)
だから言葉くらい自由にさせてほしい。それはユンの最後の抵抗かもしれない。
どこへ行くとも決めず適当に走った結果、ユンはいつの間にかデッキへ向かっていた。風にでも当たって頭を冷やそうとデッキへ出てみる。
「シムーン…」
大きな格納庫がないメッシスでは、六機ものシムーンをデッキに置いておくしかない。遠目にはどれも同じに見えるシムーンだが、実はそれぞれ微妙に違っていて、名前もある。マミーナとユンが乗る機体は、ニンバス。
普段は当たり前のように乗るだけで、意識して外から見ることがほとんどない自機を間近で見つめるユン。
「なかなか可愛いものでしょ?」
そんなことを言う人物がほかにいないというのもあるが、よく通る声はすぐにモリナスだとわかる。
「…オレには理解できない世界だ」
神の乗機といわれるシムーンだが、今は戦争の道具として使われている。とても好きになれない。
「ま、人それぞれだわね」
ユンの隣に来て、ニンバスの機体にそっと触れるモリナス。「可愛い」と言うだけあって、見ているだけでもその想いが伝わってくる。
「この子たちと違って、人は難しいから」
自身より遥かに大きく、強大な力をもつシムーンを、我が子のように扱うモリナス。母のような包容力さえ感じて、なぜかユンは彼女に話すのが適当だと思った。
「やっぱりアーエルかぁ…」
何かある、とは思っていたのか、ユンの話を聞いて納得したようにうなずくモリナス。
「時々あの子がうらやましいわ」
主にシムーンに乗るシヴュラとしてだが、モリナスもアーエルに興味をもった時期がある。
「じゃ、行ってらっしゃい」
そう言ってユンの背中を押すモリナス。
「行くって、どこへ…」
「アーエルのところに決まってるでしょ」
アーエルはユンを怒らせたと思ったらしく困った様子だったとか。誤解を解いてやって、ということだ。
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