●DREAM NTE2●

□Web拍手ログ(27)
1ページ/4ページ

 
会社帰り。

私がその寿司屋に入ったのはほんの気まぐれだった。

さびれたこの街の商店街に煌々と明かりを点したその寿司屋は、
若い外国人が大将の風変わりな店だった。



「らっしゃい!」

白い暖簾をかいくぐると、
待ってましたとばかりに威勢のいい掛け声がした。

カウンターの中の大将が、

「お一人様で?」

とおしぼりとお茶を差し出す。
頬のケロイド状の傷痕が痛々しい。

帽子の下から金髪が覗いているが、
流暢な日本語だった。

目付きの鋭い若い男だ。
他に客はいない。

「ああ。先週 女房に逃げられてね。れっきとしたお一人様さ」

なんて。
努めて明るく言ってみた。

「だろうな」

ボソリと大将がつぶやく。

え?
聞き間違いかな。
うん、
『大変ですね』の聞き間違いだ。
そうに違いない。


シンプルなカウンターだけの小さな店とはいえ、
それなりの資金は必要だったろう。
飲食店でその顔の傷は相当のハンデに違いない。

私は彼の並々ならぬ努力を思って心から畏敬の念を抱いた。


「玉子を貰おうか」

大将がニヤリとした。

玉子焼きにはその店の味やこだわりが全て詰まっている。
中華料理屋で言うチャーハンみたいなものだ。
だから私は初めに玉子を頼んで様子を窺う。
はたして、
異国の大将が握る寿司とはいかがなものだろう。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ