初恋



視線がくすぐったいとは正にこのことだと僕は思った。珍しく電車で帰っていたら隣に座った小学校低学年くらいの女の子が黒いおかっぱ髪を揺らし、大きく目を見開いて僕を見ている。どうしたのかと思って目だけ女の子に向けると目をクリクリさせただけで何も喋ろうとはしない。堪らなくなって、「こんばんは」と言ったら大きな声で「おねーさんきれい!」と叫ばれた。おねーさん、の言葉に些かショックを隠せない。これが路上なら話は別だけどここは公共交通機関、電車という箱の中だから周りの人たちも何事かとこっちを見ている。恥ずかしさからきっと顔も赤いだろう僕にお構いなしにその女の子は「おねーさんすごくきれい!おねーさんみたいなおねーさんさんがほしい!」と叫び出す。恥ずかしい、けど、純粋に可愛いなぁとも思って、僕はそっとその小さな頭を撫でてあげた。
裕太も勿論可愛いけど、妹も良かったかもしれない。そう思いながら、同じ電車に乗る度に僕は思う。


「おねーさん」から「おにーさん」になって、「お兄ちゃん」から「お兄さん」になって、「不二さん」から「周助さん」になる頃、僕は昔を懐かしみながら彼女の手をそっと包んだ。





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