銀魂長編小説

□第一話
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(ああ…くそ、こりゃだめだな…)

どさ

路地裏に、血まみれの男は倒れ、遠退いてゆく意識を名残惜しく想った。

(…ここで終めぇか……)












そこには、ある茶屋で働く、十五前後の少年姿があった。
彼は手先が無器用で、要領も悪く、二年勤めても、レジ打ちすら出来ないと、毎日店主にきつく叱られていた。
しかし、それもその筈。時代は江戸。
立派な侍だった父が、道場を構えていた。
根っからの侍っ子の彼は、今の今まで、剣しか握って来なかったのである。


「新八ぃ これ捨てて来い」
「はい」


店主の頼みに、新八は店を出て、右にある路地裏のごみ箱へと向かった。
今日はまだ叱られていない。
そんなことを考えながら彼はごみ箱を開いた。

(―ん? なんだ、この臭い…ごみじゃない。…血?)

ふ、と、それに気付いた少年は、臭いのする方へ振り返った。
細い路地裏の奥に、妙な着物を着方をした、銀髪の男が、血まみれで倒れていた。

(う…ッ!)

それを見た事によって、強烈な吐気に襲われた。
こんな時代だ。沢山の死体を見てきた。しかし、ここまで至近距離で、それも死んでまだそうそう経っていないであろう人間の死体を見るのは初めてだったからだ。
両手で口元を抑え、なんとか堪えると、早々に立ち去ろうとしたが、腰が抜けて足が動かない。それでも、ずっとこうしている訳にはいかない。と、ガタガタと馬鹿みたいに震える体を、なんとか立たせ、壁に身を寄りかけながら歩き出したのだが、あの銀髪の男の死体が気になる。

(まだ、生きてるんじゃないだろうか)

突早に方向を転換した少年は、銀髪の男に近寄ると、呼び掛けた。

「あの、大丈夫ですか?」
「もしもし、もしもし!」

目が覚めるよう、肩を掴み、やさしく揺らす。
銀髪の男に反応はない。
やはり死んでいるのだ。と、肩を掴んだことで、自らの手にべっとりとついた男の血を眺めながら、目尻に涙を浮かべた。

(もう少し、早く見付けてあげられれば…!)

ぽたぽたと、男の上に降り注ぐ滴が着物の赤を淡く色付かせ、ついには、空の色まで灰色に変えてしまった。

「…ごめんなさい…」

少年は座ったまま、ゆっくりと男の頭を抱えると、愛しそうに抱き締めながら、呟いた。
なにに対しての謝罪なのか分からずに、虚しくなりながらも、この場を去る気にはなれなかった。

「…ご ほ、なに、が?」

突然下から声がして、詰むっていた目を見開くと、自分が抱えたそこには、虚ろな目をして、薄く笑った男がいた。

「よ、かった…っ」

少年は、銀髪の頭を再び抱き締めると、涙で濡れた顔で、微笑んだ。





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長編第一話でした!
鈍いですが、更新がんばります。



2009.9.7

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