□虎若と金吾が教える女装
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どうしたものかと考えて、ポンと閃く。合格した僕と虎若でチェックしてやればいいんだ。女装姿も見れるし、一石二鳥。こういうときだけあったまいい。
二人で目線を合わせて、こくんと頷く。



「団蔵、もう一回やってみよう。客観的に見たほうが分かると思うから、僕と虎若で見てあげる」
「もっかい…?」
「そうだよ。金吾の言うとおり」
「虎…」



涙をゴシゴシ。
そんなわけで、縁側にてスタンバイ完了。お茶とお団子の準備も万端。



「じゃあいきまーす。テイクワン!スタート!」
「ていくわん?」
「そこを気にするな、団ちゃん。はい、まず座るところから」



「テイクワン」を気にする団蔵が可愛い。合図をすると団蔵が歩いてくる。うん、歩き方はまずまず。
そして、座る。はい、イエローカード。



「だめだよ!あぐらをかくな!」
「え」
「下着見える見える」



何であぐらなんだよ。違うだろ。どんだけ豪快な女なんだよ。
くのいちで男勝りなソウコちゃんでさえ私服のときは正座だぞ。というか、まず団子屋の椅子では普通に腰掛けて座るだろうよ。座敷じゃないんだから。



「こ…こう?」



足を閉じて座る。うおお、ナイスアングル。



「うん。じゃあ続き」



女性ならば、湯呑の下に手を添え静かにゆっくりと飲む。決して一気飲みなどはしない。基本中の基本。ここをはずしてはいけない。
喉も鳴らしてはいけない。これはきり丸から聞いた。合格するためになりふり構わず勉強したから。これが最初で最後だけど。
虎若も今日ばかりはそうやってお茶を飲んだ。練習では手が小刻みに震えていたけれど、合格したということは上手くやれたのだろう。

団蔵が湯呑に手をかける。ヒョイと持ち上げると、片手でゴクゴク。
虎若がどこから持ってきたのか、ホイッスルを鋭く吹く。ピピーっと辺りに響いた。



「はい、そこ間違い!女の人はそうやって飲まない!」



「何で?」とは団蔵の言葉。何でって…。何でだろうね…。女性に聞いてよ…。



「やって見せるから見てて」
「金吾が女の人のまねをするのか…」
「いいから!」



団蔵から湯呑を受け取ると半分近くまでお茶が減っていた。冷麦だからと一気飲みをするな。

左手を湯呑の下に添えて飲もうとすると、団蔵の紅がほんのりついていた。心臓がドクンと力強く脈打つ。
つまりここに触れて飲めば団蔵と間接キス…ということか。わ、わ、やばいやばい、心臓が!顔が真っ赤になる!
団蔵は何も気づかずこちらを見ているし。虎若は「お前、ずるい」という目で見てるし。いいだろ虎若。譲ってやんねーよ。



「金吾?」
「あ、ああ、見てろ」



いざ。
変態みたいだけど、そこめがけて口をつけて一口。
ゴクン。ひんやりしていて気持ちいい。



「…分かった?」
「う、…うん」
「やってみ」



おそるおそる。



「めんどうくさい飲み方だねー」



飲んでみての第一声がそれですか。



「そこはホラ、女性と男性の違いだよ」
「なるほど」



何に納得しているのかはよく分からないけれど。
次にお団子の食べ方。一個ずつしっかり噛んで飲みこんでから、次の一個を食べるのが女性流。美味しいからと言ってガツガツ食べてはいけない。
さて、団蔵はというと、見事にやってくれました。一個口に入れたかと思うと続いて二個目、そして三個目。
まったく予想を裏切らないやつだ。虎若がまたホイッスルを吹く。



「団蔵…、味わって食べなきゃ」
「味わってるよ」



虎若が言うがなかなか伝わらない。しょうがないのでお団子を持ってきて、また手本を見せることに。今度は虎若。
でかい図体には似合わない。うわー、いつもの虎若じゃない。団蔵もそんな目で見ている。



「こんな感じ」
「ラジャ」
「じゃあやってみよう」
「あ、待って、虎」



立ち上がった虎若の手首をつかみ、団蔵が引きとめる。
ちょっと良い雰囲気なんですけど。何。腹立つ。

団蔵も立ち上がる。虎若との身長差がはっきり分かる。僕も虎若も無駄に大きい。団蔵は無駄…と言ったら怒られるけど、小さい。だから女装をしてもばっちり似合うのだ。見た目だけ。
髪の毛をおろし、リボンをつけた団蔵は本当に女の子みたいだ。
立ち上がって何をするのかと思ったら、虎若の唇の端についたみたらしあんを親指で拭って、ぺろり。
不意に虎若の顔が赤くなる。羨ましいな、畜生。団蔵はにっこり笑って「ついてた」。虎若はどもりながら「あ、あ、ありがと」と。
初々しいカップルみたいで胸がムカムカ。僕にもしてよ。



「団蔵、僕の口にもさっき飲んだお茶が!」
「んー?どれどれー?」



ついてるわけないだろ、バカ。でも照れたように笑って「甘えん坊だなー」と拭ってくれた。頼られるのは嬉しいらしい。
その後は女装したままの団蔵を中心に座って、テストについてああだこうだと言い合った。練習はどこへいった。
翌日の再テストには、ギリギリ合格したようだ。いつものようにダダダと走ってきて戸を開けたかと思うと、僕と虎若に抱きついて「二人のおかげだよー!」と感謝の言葉を述べた。
だから僕と虎若二人で、団蔵を力いっぱい抱きしめた。










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