□予想外すぎて
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校舎裏でポツンと一人で立つ三郎次。やっぱり空気は沈んでいる。
四郎兵衛は木の上で逃走防止の見張り兼見守り役。ここに後で左近と久作も加わるのだからたちが悪い。二人は加わらなくて良い。



「三郎次、頑張って!」
「頑張りたくねーよ!ウソ告だぞ、ウソ告!」



木の上からの四郎兵衛の声援も虚しいだけ。どうにか四郎兵衛を振りきって逃げられないかと考え始めたとき、後ろから「三郎次先輩」と声が聞こえた。
ビクッと肩がすくむ。



「話ってなんですか」



いました、加藤団蔵。馬借の若旦那!素直に来てくれたんだね!全く嬉しくない!
木の上からの視線も増えた。二人が加わったのだろう。ニヤニヤ笑っている顔が簡単に想像できる。

目の前の団蔵は大きな黒い目を鋭くつり上げこちらを睨んでくる。いつもはこんな顔しないのだが、呼び出されたので喧嘩でも売られると勘違いしているのだろう。真っ赤な顔をして睨まれても全然怖くないのに。



「いや…、その…」



団蔵に「好き」と言う?無理無理、絶対無理!



「用がないなら帰りますよ」



そうしてくれると助かる。そう口から出かけたが木の上からの殺気が凄まじくて言葉を飲みこんだ。

こんな、糞生意気な後輩に「好き」と言って「きもい」と言われるだけの罰ゲーム。本当に提案しなきゃ良かった。心の底から後悔する。
もうしません。四郎兵衛の言うとおりもう酷い罰ゲームは提案しません。身にしみて分かったもん。

「好き」だと言うのは一瞬だ。罵詈雑言もこの場だけ。
――よし!

三郎次は覚悟を決めた。



「俺…、俺」
「はい」
「お前が好きなんだよ!」



握り締めた拳に爪が食い込んでしまっているが、その痛みを忘れてしまうくらい一瞬頭が真っ白になった。好きで告白したわけではないのに緊張してしまうくらいには、三郎次もまだ子供だ。
団蔵からの罵声に備えて無意識に目をつむってしまった。「ぎゃー!三郎次先輩ってホモなんだ!きもい!」を皮切りに一分くらいは罵声が聞こえて来そう。木の上の二人もワクワクしているのが気配で分かる。

だが。



「…?」



肝心のそれが聞こえない。無言のまま五秒程時が流れ、どうしたことかと恐る恐る目を開けてみる。
そしたらびっくり、真っ赤な顔でプルプル震えている団蔵が。



「…え、…だ、団蔵…?」



思わずこちらから声をかけてしまった。だって余りにも顔が真っ赤で沸騰しそうなくらいだし、目も心なしか潤んでいるし、口が開きっぱなしであわあわと震えているし。
何と言うか、…好きな人から告白をされた子の反応と一緒で…。



「…あ、…あ、の、…えっと…」



必死に三郎次を見つめ口を動かす団蔵。
ちょっと待て。冷や汗がタラリ。



「僕も…三郎次先輩のこと…」



おい、まさか。



「好きです…」



…ウソだろ…。

金槌で頭を殴られたような衝撃を受けた。
だって、まさか団蔵が自分のことを好きだなんて誰が想像する?ウソ告で同性に告白をして了解をもらえるなんて誰も想像しないだろう?しかも相手は生意気な後輩。

その後輩が「好きだ」と言った途端に生意気な顔から乙女みたいな顔になって。
いつもは大きく開いている手をもじもじさせて。

魂が抜け出しそう。



「こっ、これからよろしくお願いします!」



髪を揺らし大きくお辞儀をする団蔵から汗が舞う。

よろしくされてしまった。
ウソでしたー、なんて気軽に言える状況じゃない。
「こちらこそよろしく」と返すのに精いっぱい。好きでもないのになんて返事をしているんだ、自分。

生意気な後輩だもの、嫌われてもいいからこの場で本当のことを言った方がいいのだろうけど、手を握った時の笑顔がすごく嬉しそうで幸せそうで何も言えなかった。


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