利団部屋

□ため口解禁
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団蔵は夕日に背を向ける庄左ヱ門に、感謝の意をこめ頭をさげる。
そうすると、頭を下げるなんて団蔵らしくない、と笑われた。



「団蔵、あのね」
「何だよ」



部屋へと向かう廊下の途中、庄左ヱ門は団蔵に声をかける。
夕日に照らされる団蔵は、真っ黒な瞳に神々しい太陽を映し、言葉では例えられないほど綺麗だった。



「敬語を遣うにしろ遣わないにしろ、団蔵らしさが出ていれば僕はいいと思うんだ。ただ、君の場合は敬語じゃない方が良いってだけで」
「・・・・うん」
「だから、『ため口がいいです』って言うときも団蔵らしさが出てればいいと思うよ、本当に。そうすれば相手にも、団蔵の良さがこれまで以上に伝わるんじゃないかな」



庄左ヱ門がふわりと微笑む。

その笑顔も、どこか団蔵らは組メンバーと雰囲気が違っていて。
さすが委員長、というべきなのだろうか。その笑みで言葉を紡がれると酷く安心する。
こういうところを見ると、やはり庄左ヱ門に相談してよかったなあと思うのだ。



「――・・・って、何で僕が実行する話になってんだよ!!例えば、って言ったろ!?た・と・え・ば!!」
「嘘、実行する気だったくせに。証拠に、君の顔真っ赤」
「〜〜〜〜っ!!赤くなんかなってないやい!!」
「はいはい」



さっきまでのエンジェルスマイルとは打って変わった、この黒い笑みが憎たらしい。
裏と表を使い分けるのが上手いというか、コロコロと表情が変わるというか。
忍びとして素質があると言えば良いのだろうが、それだと納得できない。



「僕は応援してるよ」
「ちーがーうー!!」



そんな悲痛な叫びを無視して、庄左ヱ門は手をヒラヒラと振りながら自室へと消えた。


廊下に静寂が訪れる。


夕日に照らされる団蔵の影は、松の木のように長く長く伸びて。
庄左ヱ門には本当にばれてしまったのだろうか、と思いながら頬に手を当てる。
なるほど、そこは彼が言ったとおりに熱を含んでおり、自らの小さな手にもそれがじわじわと伝わってきた。



「もう、やだなあ・・・。ポーカーフェイスに憧れるよ・・・」



感情がすぐに顔に出てしまうと、この先不安を覚える。


もし、この恋がばれてしまったら。


利吉に会った時にこみ上げてくる嬉しさとか笑顔とか、堪えようとすれば顔が変に歪んでしまいそう。『恋』だと気付く前ならばそういう表情は普通にできたかもしれないが、気付いてしまった今ではもうそう言うわけにもいかない。

いつかはこの想いを伝えようと思っている。でもそれはもっともっと自分と利吉との距離が狭まった時であって、今ではない。今告白したとしても、結果は目に見えている。
その結果が見えている中で、あえて危険を冒そうとは露ほどにも思わないのだ。


ペチペチ、と何度か頬を叩いた。




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