□座敷童
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母ちゃんに何度も言われていることがあった。



「この家にはね、座敷童がいて家を守っていてくれるのよ」



座敷童は妖怪でイタズラしながらも、家を繁栄させ家を守ってくれている存在だと教えられた。
加藤村にある一番大きな木の下にはいつも果物やお菓子、おもちゃのお供え物がしてあった。そこが座敷童の遊び場所らしい。
父ちゃんや母ちゃんには座敷童が見えないと言っていた。子供にしか見えないんだって。でもそういう僕も見たことはない。
確かにお供え物には食べたあとや遊んだあとがある。でもカラスや獣がいじったのかもしれないし、真相は分からなかった。でも「家の守り神」として信じていた。



「僕の家には座敷童がいるんだよ」



一年は組。僕が在籍している学級。
庄左ヱ門と伊助にそれを言ったら、伊助は「へー」と珍しそうに返事をしたが庄左ヱ門は顔を曇らせた。何だよ、ちょっとした自慢だったのに。



「どうしたの?」
「いや…、別にいいんだ。うん、何でもない」
「そう言われると余計気になるんですけど。なあ伊助」



うん、と伊助が頷く。



「じゃあさ、聞くけど…。由蔵って兄弟いなかった?」
「兄弟?」



は?



「座敷童って、生まれてきた子供を間引きして丁寧に祀ることでその家を栄えさせてくれるんだって。つまり座敷童の正体は、間引きされた由蔵のお兄ちゃんか弟だよ」



その説明を聞いた瞬間、僕は凍りついた。そんな、まさか、僕に兄弟がいたなんて。
目が白黒する。頭が使い物にならない。



「あ、でも死んじゃった子を祀るっていうのもあるからさ」



庄左ヱ門が慌てて付け加えるように言う。でもどちらにしても僕に兄弟がいたことは確かなんだ。母ちゃんや父ちゃんは隠していたんだ、本当は家を守っていてくれているのは僕の兄弟だってことを。

清八は僕を「若旦那」と呼ぶけれど、もう一人、若旦那は存在した。

きっと父ちゃんたちに聞いても教えてはくれないのだろう。「座敷童」で貫き通すに違いない。自分の子供を間引いた事実を、親は認めないと思う。仮に認めたとしても、やっぱり詳しい事は何も教えてくれないのは予想がつく。
あの木の下、僕の兄弟は眠っている。




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