団蔵受部屋
□はさみでちょっきん
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団蔵が縁側で本を読んでいたときのこと。
ちょっきん、ちょっきん。
音が迫ってくる。
ただの手遊びで鳴らしているのではなく、何か切りたくて仕方がないという感じだ。
その人物は鼻歌交じりで団蔵に近づいてくる。
何となく誰かは予想が出来たけど、あえて無視をして本に熱中しているふりをした。
「だーんぞ」
「・・・・きり丸」
鼻歌に続けるように団蔵の名を呼ぶは、は組が学園に自信を持って誇るドケチ、摂津ノきり丸である。
ため息まじりにそちらを向くと、顔はニヤニヤと緩みどこか危ない感じがした。
「団ちゃん髪伸びたね」
「あー・・、うん。ちょっと前髪が顔にかぶるし」
「邪魔じゃない?」
「邪魔だけど――・・・、何、もしかして新しいバイト?」
何かと思えばいきなり髪の話題。手にははさみ。そして何より話の途中から目が銭型になっている。
これでは『髪切りのバイト始めました』と言っているようなものだ。
ちゃっきんちゃっきん。
リズミカルに響く、刃と刃がぶつかる音。
刃先は太陽に照らされて鋭く光っている。
あのきり丸が新品のはさみを買うとは思えない。恐らく古びたはさみを研いで研いで研ぎまくったのだろう。
「あひゃひゃ、ばれたー?バイトって言うより仕事になっちゃってるけどさー。今なら安いよ」
「・・・安いって、そんな・・・」
「切らせてよ団ちゃーん」
ちゃっきんちゃっきん。
小銭型の目が光る緩みっぱなしの顔をこちらに近づけてくる。
後ずさりをしてもズリズリズリズリ。
・・・そんなに顔を近づけられては、緊張して頬が赤くなってしまう。
もともと家が大人だらけのせいもあってか、団蔵はそういうことにとかく疎く苦手だった。それは忍術学園に入っても変わることはなく。
「分かったよ、分かったから!!離せよ」
「やったー!!団蔵サンキュー」
離せと言っているのに、きり丸は両手を広げ思いっきり抱きしめてくる。自らの頬に当てられるきり丸の頬は温かい。
そんなきり丸の腕を半ば無理矢理押し戻し、更に後ろへ下がった。
読んでいた本に栞を挟んで脇に置く。キャッチセールスマンも目を見張る強引さに呆れつつも、準備完了、と目で伝えると、きり丸は自らの首巻きを取って団蔵の肩へ。
ふわん・・ときり丸の香りが団蔵を包んだ。
「な・・何だよコレ」
「切った髪がかかったらイヤじゃんか」
頭巾を取ろうと手が伸びてくる。
優しくしようとするが故にその手が触れると酷くくすぐったくて。
団蔵は小さく声を漏らした。
きり丸もそれに気付いたらしく、今度はわざと触れてくる。
敏感な首筋を何度も往復され、団蔵は遂に声をあげて笑った。
「くすぐった・・、きり丸ッ、・・アハハハ!!」
じたばたと足をばたつかせるときり丸は満足そうに手を離し、結わえてある髪をほどく。
少しくせのかかった団蔵の髪が艶っぽく風に流れた。
「いざ」
スー・・と息を吸って。
ちゃっきんちゃっきん。
2、3度鳴らし、まずは襟足を。
先ほどとは打って変わった緊張した面持ちで刃を進めた。
パラパラと、切られた髪が床へ舞っていく。
首元はきり丸の首かけがあるので大丈夫。
髪を櫛でけずりながらちゃっきんちゃっきん。
「次、前髪切るから。団ちゃん目ぇ閉じて」
「うん」
鏡は持ち合わせていない。きり丸は縁側を飛び降り、団蔵の目の前に立った。
言われたとおりに目を瞑ると、きり丸の手が遠慮がちに近づいてくるのが分かる。視界が閉ざされたことで残りの感覚が鋭くなっているのだ。
初めに櫛が撫でるように髪に通される。
最近風呂でろくにケアもしていなかったからバサバサだろうな、と思い恥ずかしくなった。こんなことならちゃんとリンスしておくべきだった。
ちゃっきんちゃっきん。
静かに、ゆっくりとはさみが動く。
きり丸の手の中に落ちなかった髪は、団蔵の顔中に貼り付いてしまった。
払いたくて手を伸ばしかけたが、はたと髪を切っている最中だということを思い出す。
伸ばしかけた腕をグッと引っ込め、切り終わるのを待った。
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