キリリク部屋

□風邪薬の九割は、団蔵からの愛でできています。
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ここのところ、殊に寒暖の差が激しかった。春のような陽気な日もあれば、身も心も凍てつくような寒い日もあるのだ。
このような時期には体調を崩す生徒が少なくない。一年生はもちろん、二年、三年、はたまた五年や六年のなかにも体調を崩す生徒がいるのだから。
その典型的な例が、兵太夫である。
は組内でも最強と謳われる彼は、この寒暖の差に耐え切れなかったのか熱を出し寝込んでしまっていた。



「兵太夫、大丈夫・・・?」
「大丈夫じゃない・・・。団蔵の愛が足りない・・・」



兵太夫の額から手ぬぐいを取り、ひんやり冷たい水に浸し絞るのは、彼の恋人、加藤団蔵である。
兵太夫の冗談に赤くなりつつも、額を軽くペチンと叩いただけでまた手ぬぐいをのせた。
いつもなら「バカ!」と怒鳴りつけるところだが、兵太夫の熱は相当高いらしくいつものオレ様ぶりがほとんどない。これこそ本当の病人、とでも言うべき姿、いつもとの変わりようなのだ。

いつもとの違いが大きく、しおらしくなっている兵太夫は珍しい。年に一度あるかないかの確率だ。それが今起こった。
熱は心配であるけれども、団蔵はそんな兵太夫を見て可愛さを覚えていた。



「そんな冗談言う暇があれば、さっさと寝て風邪治せ」



ふう、と息をつき兵太夫の長い髪を撫でる。



「あー、くそ、・・・いつまで続くんだ、この熱は・・・」
「新野先生が、三日も寝てりゃ治る、だってさ。ほら、お粥」



兵太夫が熱を出して二日目。恐らく風邪のウイルスのパラダイス絶頂期だろう。
ゆっくり兵太夫を起こして、先ほどのせた手ぬぐいを取る。
そして食堂のおばちゃんに作ってもらった、粥を差し出した。



「・・・ン・・・」



木製のスプーンで粥をすくい、口元へ運ぶ。
しかし兵太夫は一口だけ口をつけた後、スプ−ンを投げ出した。



「食欲ない・・・」
「なくても食わなきゃ。でないと薬も飲めないだろ?」



新野先生から預かってきた薬を指差しながら、団蔵は粥を食べるよう促す。すきっ腹に薬はダメだ、と聞いたことがあるし、何よりお残しは食堂のおばちゃんが許してくれない。




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