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□ヘタレって言ったから…
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金吾は優しい。団蔵が嫌がることは一切しないし何をするにしてもまず聞いてくる。
「これ食べてもいい?」「頭なでてもいい?」「手握りたいんだけど…」「き、き、キスしたい…!」等々。
前半二つはいい。後半は聞かなくてもやれよ!と叫びたくなるのは団蔵だけだろうか。いやむしろ頭もどんどん撫でろと思うわけだが金吾は聞いてくる。
普段は普通に撫でるくせに、いい雰囲気になった途端聞いてくるから恥ずかしさや緊張もあるのだろう。
しかし、でも、だけど。
酷い時だと情事のことも聞いてくる。
無理矢理じゃなくて優しくていいじゃん、と思うかもしれない。違う。金吾はもうそういう雰囲気で情事一択というときでさえ聞いてくる。
「襲えよバカァァア!」
可憐な着物を着て金吾に見事な飛び蹴りを食らわせたのは団蔵。
え?どうして可憐な着物を着ているか?
その原因もやはり金吾のこの性格にあるわけで。
毎度毎度そういう雰囲気になると恥ずかしがってモジモジ聞いてくる金吾。
最初は可愛いと思っていた。初々しくて、女役の団蔵がこんなことを言うのは変かもしれないが守ってあげたいと思った。
でもそれが毎回になると大らかな団蔵もさすがにイライラしてくる。言葉にはしていないが何度も心の中でヘタレと叫んだ。
どうすれば金吾が獣になってくれるだろうか…。
聞くこともなく襲ってくれるだろうか…。
そう考えていきついた先が女装。
普段は嫌で嫌で仕方のない女装を、着物選びから化粧まで頑張った。
おしろいをはたきながらむせ、髪を結わえ上げ簪と何分も格闘しながら頑張った。
なのに、なのに!
「こんだけ頑張ったのに、金吾!てめぇはぁああ!」
「痛い!ごめん!ごめんってば!」
デートだったのに手も繋いでくれなかった!
照れ過ぎてキスもしてくれなかった!
学園に帰って来てからも誘いもしてくれなかった!
「今日は楽しかったね」じゃねーよ!そうじゃないだろ!どう考えてもここで終わりじゃないだろ!その先があるだろ!
「ヘタレ!ヘタレ!このヘタレ!」
ついに言った。もう我慢できなかった。
「ヘタレじゃない!酷いよ団蔵!」
「こんな上げ膳据え膳のくせに誘いもしないなんてヘタレ以外にどう言えってんだ!」
髷を引っ張り米神辺りをグリグリ。
「刀持つとおっそろしいくらい冷酷になるくせに…」
「いや、そんな…」
「照れるな!褒めてんじゃない!」
せい!
一本背負いが華麗に決まった。
金吾の背中が畳に強く打ちつけられ、バンと部屋中に響き渡る。
「…いっつー…」
「ふん!今日という今日は堪忍袋の緒が切れた!」
背中をさすりながら、団蔵から難しい言葉が出たことに金吾は驚く。
「金吾!」
でん、と偉そうに金吾の前にあぐらをかく団蔵。思わず目を逸らす。だって褌丸見えなんだもの。
「お仕置き!」
そう言ってずずいと足を口元へ伸ばしてくる団蔵。真っ赤な紅を引いた唇がいたずらっぽくニヤリとつりあがり口の端をぺろり。
舐めろと言っているんだ。
そう理解することは容易い。
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