□愛がなくてもできるんだよ
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団蔵から大事な話があると真剣な顔で呼び出しをされたもんだから、遂に俺も男に告白される時代が来たかと少しワクワクした。
くのいちやらアルバイト先の店の娘やらに告白をされたことは何回もあったが、男にされたことはない。もちろん男の趣味なんてないからなくて構わないのだけど、そこはやっぱり興味があるわけで。素直に呼び出しに応じたのも八割方告白だと信じていたからだ。

場所は木の枝や雑草だらけで、整備が行き届いた学園内にこんな所があったのかと少々驚いた。なるほど、ここなら人が来ることはないだろう。
目の前でぎゅっと口を真一文字に結び言葉を考えている団蔵を見ると、今まで友達として遊んできたことやら修行してきたことやらが走馬灯のように頭の中を流れていく。
一生懸命考えてくれているところ申し訳ないけど、友人としては大好きだが恋愛対象として見たことはないんだ。だからきり丸の返事は決まっていた。

お前、語彙力ないんだから考えるだけ無駄だよ。

喉元まで出かかった言葉を飲みこむ。



「…実は、」



意を決したように口を開く団蔵を見ていよいよだと身構える。
が、それは無駄に終わった。



「この前見たんだけど」



何を、と聞けるほど頭の回転は速くない。告白されるとドキドキしていたのにまさかの言葉に拍子抜け。きっと今のきり丸の表情は至極まぬけだろう。



「きり丸、お前、援交してるのか?」



真剣な眼差しをこちらに向けられ少々表情が引き締まる。



「…え?何?」
「この前の休み、オレ、宿に荷物届けに行ったんだ。ちょうど遊郭とか、そういうことする宿が集まってる地域」
「うん」
「そしたら、…きり丸が年上の女の人からお金もらって宿入ってくとこ見ちゃって…」



言いながら段々声が小さくなっていくのは恥ずかしいからだろうか、それとも見てしまった気まずさ?これも馬借という仕事柄しょうがないことなのだろう。

動揺も否定もしないのは、まさにその通り、きり丸はお金をもらって女性を抱くというアルバイトをしているからである。
最初は時間制であなたとデートをしますという商売をしていた。その商売の中で「サービスするから口づけをして」「お駄賃はずむから抱いて」とエスカレートしていき、最近ではもっぱら抱くのがメインでデートは希望者だけ。
まさかあの場所に団蔵が来ているとは夢にも思わなかったけれど。



「あら、ばれちゃった?」



さほど驚いていないのが自分でも驚きだが、告白と比べたらこんなのどうってことない。
そりゃ軽々しく口にできるような商売ではないが、知られたからと言って退学になるわけでもないし。ましてや、



「ああいうことは好きな人とするもんだろ…!」



そういう綺麗事みたいな忠告をされても止める気はない。



「なぁに赤くなっちゃってんだよ。こういう話すんの苦手?」
「違っ…!オレはお前にあんな商売やめて欲しくて、」
「やだね。あれ儲かるもん」



きり丸を買いに来る女性の多くは暇を持て余した富豪の娘や嫁たち。金の出し惜しみをする人は皆無。
何時間も苦しい思いをしてチマチマ稼ぐより、たった数時間で、しかも気持ちよくなれて一気に稼げた方が楽に決まっている。



「きり丸は好きな人じゃなくてもできんのかよ」



その言葉に思わず吹き出してしまった。団蔵が「なんだよ!」と声を荒げるが面白くて。
何言ってんの?純情ちゃんなの?



「さすが童貞君は言うことが違うなあ…」



笑いながら呟いたら顔を真っ赤にして怒り始めた。
クラスのみんなは大体童貞だと叫んでいるが、兵太夫はとっくに言い寄って来たくのいちで卒業してるし、地味そうな伊助だって実は遊び人だし、庄左ヱ門だって「忍び足る者、そういうことも知っておかないと」とか言ってくのいちと寝たし、喜三太なんてあんなポワワンとして実は乱交だってする達人だし、しんべえはおしげちゃんという恋人がいるからとっくの昔に卒業している。
三治郎や乱太郎は知らないが、童貞だと確信をもって言えるのは団蔵、火縄銃バカの虎若、同じく刀一筋金吾の三人くらいだと思う。




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