利団部屋

□優しい涙
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団蔵君が産まれたばかりの子猫を見つけた。
その子猫は母親に捨てられたのであろう、へその緒もついたままで仮死状態だった。団蔵君が抱きかかえほどなくして静かに息を引き取った。
墓を作ってやろうと見晴らしのいい丘に穴を掘り、埋めてやる。それだけで終わらせるつもりだったが、団蔵君はどこから持ってきたのか重そうな石を持ってきて、更に花を摘み、木の実をそこへ添えた。
墓石と花とお供え物。立派なお墓だ。
両手を合わせて拝んだ。その時、ふと団蔵君を見ると静かに涙を流していた。
その姿を見たとき。

ふと、死を考えた。



「……」



空は青い。鳥が親子で高く飛んでいる。子供に飛び方を教えているのだろうか。
横には草原で眠る恋人。小さく寝息を立て、身を縮めている。

もし、私が死んだらどうなるのだろう。



「死ぬとしたら――」



任務での失敗の確率が九割。敵に殺されるか処刑にされるかのどちらかだ。
敵に殺された場合、墓も何も作られずどこかの山へ捨てられる。それか野焼きにされ、骨を砕き、海やら山やら誰にも見つからない場所へ風と共にかき消される。
処刑の場合は方法にもよる。打ち首なら死体処理係が切断し、その後は同じ。釜ゆでは死体が冷めてから切断。火あぶりならそのまま骨も何も跡形もなく一昼夜かけて燃やされ、遺棄される。
普通に処刑されるならまだしも、公開処刑となるとまたやり方は違うのだろうが結果は同じだろう。

近しい人への連絡はいかない。風の便りで聞くしかない。そして数週間、数か月、数年帰らないところで父上や母上、近親者が死亡届を出す。
団蔵君へ伝わるのは、父上からだろう。



「……」



――そのとき、団蔵君はどうするのだろうか。

きっとこの子のことだから死んだなんて認めない。自分の目で確かめない限り、ずっと私を待ち続ける。
扉を開けて「ただいま」と帰って来てくれる姿を待ち、笑顔で「お帰り」と言う。それか「心配したんだからね!」と怒り、泣きじゃくるか。とにかく私の生を信じ続けるに違いない。



「…何を考えているんだ、私は…」



団蔵君が寝返りを打った。は、と現実に戻される。

こんなことを考えるなんて、らしくもない。頭をかくと心地よい風がサァ…と吹き抜けた。
むにゃむにゃ。団蔵君は気持ちよさそうに寝ている。その笑顔が愛しい。
そっと頬を撫でる。柔らかくてすべすべ。つつくとぷにぷに。



「可愛いな」



デートは人目を盗んでしかできないけれど、充分幸せだ。私にはもったいないくらいの幸せ。



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