利団部屋

□この手、は、
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時々、この幸せが夢なのではないかと酷く不安になる。
愛しい子が、自分の腕の中で眠りキスをし離すまいと抱きしめる。
もしかしたら夢現ではないか。これは単なる夢で、本当の自分は戦場に立ち忍者として行動をし、人を殺め血に染まっているのではないかと本気で思う。
こんな幸せなんて初めてだから、戸惑うのも無理はないのかもしれない。
だけど、団蔵とひとしきり二人の時間を楽しみ、忍術学園を出、忍者として仕事をしていると、この幸せは夢なのではと本当に思う。



「利吉さん、オデコとオデコでちゅー」



そう言って額をコツンとあわせる恋人は、二人きりの空間をしきりに楽しんでいるようである。
幼い団蔵は自らの意思を出し惜しみなく主張し、こちらが照れてしまうようなことも平然と言ってのける。
その分愛されているなと思うのだが、忍者としての裏の顔を知らない団蔵に対し罪悪感が沸くことだって多々ある。

そう、例えば『右手』。
利吉の右手は、何人もの敵を殺してきた手でもある。団蔵の頬に添えるこの手は罪の象徴なのだ。
だから、思う。この手で触れていいのか、この手は汚れていないのか。
利吉だって好きで人を殺しているわけではない。こちらにその気がなくともあちらにその気があれば自然に決闘になってしまうし、自分の身のために殺してしまう事もある。

この右手も、足も、体も、人を死に至らせ、何人もの、いや何十人もの血をあびてきた。
それを、純粋無垢な団蔵が触れる。触れされる。
ニコニコ笑う団蔵に対し、利吉は困ったような微妙な笑顔になってしまう。そして、そんな時に限って、いつも鈍感な恋人は敏感になり、利吉に問うのだ。




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