利団部屋

□恋愛自覚
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――利吉編――






最近忍術学園に行けていない。

今宵は満月。一点のかげりもない月光りが利吉を照らす。
今の時刻はちょうど子の刻をすぎたあたり。
利吉は今、任務の真っ最中だ。

敵の屋根の上。
気をゆるめることができないこの場で、利吉は先ほどのような思いを抱いた。



「・・・いけないいけない、何を考えているんだ私は・・・」



ブンブンとかぶりを振り、雑念を追い払おうとする。
しかし頭に浮かびだしたそれはなかなか消えてくれない。

この長期の任務につく前は、頻繁に忍術学園へ行っていた。
特に用はないのに、任務の通り道だとか理由をつけてはことあるごとによって。
まぁそれもあながち嘘ではないのだが、前までは任務であそこを通るたびに寄ろうだなんて考えもしなかった。

それがどうだろうか、今はことあるごとに寄っている。

何で?

ふと、利吉の頭の中に浮かぶ疑問。
そしてすぐさまその問いに答えるかのごとく浮かんでくる1人の人物。



「・・・・団蔵くん・・・」



思い描いてポンッと頬が上気する。
出会った時から離れない笑顔が、今は任務中だというのにまた浮かんできた。

月に照らされる頬はほんのり赤い。

団蔵は今何をしているのだろうと、無意識に考える。
といっても子の刻を過ぎた辺り、寝ていることは確かなのだが。
寝相はいいのだろうか、布団を蹴飛ばして寝てはいないだろうか。
いい夢を見ているだろうか、悪夢にうなされていないといい。

次々と浮かんできては、消えずに頭に残った。
ふわふわと脳を漂って、利吉をいっぱいにしてしまう。

団蔵の笑顔、泣いた顔、拗ねた顔、恥ずかしがっている顔、照れた表情。

それは利吉にとって、『雑念』という言葉でくくれるものではなく。
温かく、そう、言うなれば闇を照らす太陽のようだった。



「はっ・・・、だから私は何を考えて・・・。こんな、団蔵くんに恋をしているわけじゃあるまいし・・・」



あわわ、と再びかぶりを振りながら利吉は一時停止する。

『恋』?

自分で発した言葉。
今まで考えもしなかった感情。

考え出したらドクドクと心臓が煩く鳴って。
利吉の頭は沸騰寸前だ。

恋?まさか、私が、団蔵君に?

その思いが利吉の中をグルグルと駆け巡る。
相手は年端もいかぬ子供、しかも男の子。さらに加えては父親の教え子だ。


―――・・・バカな。


違う、違うと何度も否定しようとするけれど。
団蔵の笑顔を思うたびに胸が焦がれるのは事実。



「・・・・恋・・・、か・・・」



ドクドク、と煩い心臓を掴む。
ギュ―と押し潰されそうで、なのにほわんと温かくて。

いけないことだとは重々承知。子供相手にこんな想いは、純粋なあの子にこんな想いはしてはいけない。

だけど一度自覚してしまった恋は、簡単に消せるはずもなく。



「好きなのか・・・」



うるさい心臓は相変わらず。
任務中なのに頭はほかのことでいっぱいいっぱい。

早くこの任務を終えて、団蔵に会いに行こうと利吉は思った。



今宵は満月。月光だけが利吉を見ていた。





利吉編・終






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