利団部屋

□分かってます
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ようやっと長期任務が終わった。
団蔵への恋を自覚したあとも、利吉はいつも通り任務を遂行し。
さすがフリーの売れっ子忍者、とでも言うべきか。その働きぶりには雇い主のお殿様も大満足だった。


今、利吉は忍術学園にいる。
父である伝蔵には、こちらに寄るということを伝えていた。
利吉が訪ねたときは、授業中で。
いつも子供達の声が響いている学園内は、ひっそりと静かだった。



「あ、授業終わったみたいですね」



ヘムヘムがついた鐘の音が、学園中に響き渡る。
伝蔵の自室で茶を飲んでいた利吉は、ここまで聞こえてくる「有難うございました」という声を聞いていた。



「すぐに任務はあるのか?」
「いえ、しばらく余裕があるので、午後まで忍術学園にいたら家に帰りたいと思います」
「おぉゆっくりしていけ」



既に空になった湯呑を置き、「失礼します」と席を立つ。

父と話をしていても良かった。実際今まで忍術について語り合ったり、任務の反省、アドバイスを貰ったりするなど、話がつきることはなかったのだが。
しかし、今回からはそれが少し違う。


ここでしか会えない人物がいる。


年端もいかぬ子供、しかも父の教え子。
ダメだと分かっているのに、いけないと分かっているのに。
想いに気付いてしまったら、止められるわけもなく。

休み時間になった今なら会えるだろう、と思って期待に胸を膨らませる。

この想いを尊敬している父に悟られぬようにして、部屋を後にし。
だけど全てを見透かされているようで、気が気ではなかった。



「あー、利吉さんだ!!」
「利吉さんこんにちは!!」



廊下に出て1年は組方向へ歩けば、途端に何人もの忍たまに声をかけられた。
その1人1人に笑顔で答えつつも、団蔵君の方が可愛い、などと考えてはならぬことを考えてしまう。

こんな想いは今までしたことがなかった。
忍術ばかりに夢中になっていて。
将来は結婚しなければいけないという現実があるのは知っていたが、そんなこと今の自分には関係ないと考えていた。


だけど、


団蔵が変えてしまった。


恋を、知ってしまった。


もちろん、まさか子供に恋をしようとはこれっぽちも思わなかった。
実らせてはいけないとは分かっていても、会いたいという想いは止まらない。

と、そのとき。



「利吉さーん!!」



可愛らしい声と共に聞こえてくる、ぱたぱたと小走りをする足音。
そちらの方へ目をやれば、・・・視線に飛び込んでくるのは愛しい子供。



「団蔵君!!」



気持ちが高ぶっていくのが自分でも分かった。
クリクリした仔犬のような目も、馬のしっぽのような美しい黒髪も。
その全てが愛しくて。



「こんにちは、利吉さん!!任務だったんでしょ?疲れてませんか、怪我とかはありませんか?」
「大丈夫だよ、疲れもとったし怪我もないから」
「よかった〜、僕心配してたんです。あ、利吉さんが弱いとかそんなことじゃないですよ」



走ってきて呼吸が乱れているのに、息も整えずに一気にまくし立てるところが子供らしくて可愛いと思う。
頬も上気して、ほんのり赤い。

久しぶりに会えた嬉しさがこみ上げてきて、無意識に抱きしめそうになる。





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