利団部屋

□ため口解禁
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さんさんと降り注ぐ太陽の光を和らげる、大きな木の下。

団蔵と利吉が2人。

利吉とのおしゃべりは時間を忘れるくらい楽しくて。
馬術の授業でのこと、いつもの3人組の失敗のこと、学園長の思いつきのこと。
利吉の長期任務の間を埋めるように、話題は尽きることがなかった。


実は今回、団蔵には目標があったのだ。
その目標は簡単なようでなかなか難しい目標。

身振り手振りを交え笑顔で会話をしながらも、心は緊張で張り詰めている。


その目標を考えたのは、1週間前のことだ。
庄左ヱ門から長期任務の話を聞き、恋を自覚したその日の夕方。



「ねえ、庄左ヱ門」
「ん?」
「あのね、相談があるんだけど」



図書室から借りたらしい分厚い書物を右手に持ち、廊下を歩いていた庄左ヱ門に声をかける。
その本の題名はやたらと難しい漢字で書かれており、さすが庄左ヱ門、と団蔵は素直に感心した。



「どうしたの、相談なんて」
「あ・・あんまり大声じゃ言えないんだけど」



普段相談事なんてしないので、こういったことに恥ずかしさを覚えてしまう。
仮に相談事をすると言っても、それはどうやったら字が綺麗になるかとか、日常に関するものであって、今団蔵がしようと思っているような内容の類ではない。
・・・まあ最も『どうやったら字が綺麗になるか』については、半ば諦めているのが本心だが。



「み・・耳貸して」



ヒョイヒョイと手招きをして耳を貸すように指示すると、庄左ヱ門がゆっくりと耳を口元に差し出す。
庄左ヱ門が見た団蔵の顔は、心なしかほんのり赤く染まっていて。
何があったんだ、と疑問に思った。



「――・・・って思う?」
「え、何、聞こえない」



懸命に紡いだ団蔵の言葉はあまりにも声が小さすぎて、口のすぐそばに庄左ヱ門の耳があるというのに、届かなかった。

団蔵の頬がますます赤く染まる。

何せこのことを言うには相当の勇気がいるのだ。
団蔵は今までこんなことを相談したこともなければ、されたこともない。
つまり未知のことを庄左ヱ門に相談するということ。

さて、その内容とは。



「・・・だからさ、・・・・その・・、好きな人には敬語じゃない方がいいと思うかって聞いてんだよ!!」
「――・・・は?」



一気に早口で言い切った。
周りに人はいないというのに、どうしても挙動不審になって辺りを見回してしまう。だけど2人を見つめているのは、海の向こう側に沈もうとしている夕日だけ。
夕日のように赤く、頬が染まる。
たった一言、言っただけなのに目玉焼きができるんじゃないかというくらい頬は熱を持っていた。

そんな自分が恥ずかしくて、一回で聞き取れなかった庄左ヱ門をゴツンと殴る。



「痛ッ!!・・・ていうか団蔵、好きな人いたのか・・・。しかも敬語ってことは・・・年上?」
「な、べ、別にいるわけじゃないよ!!ただ聞いてみたかっただけだ!!」
「・・・・・・」
「何だよその目は!!」



赤い顔で慌てふためく団蔵を見れば、そんなこと一発で分かるのだが、本人はその自覚がないため必死に否定を繰り返す。
ひっそりと相談するはずだったのに、今や団蔵の方が大きい声を出していた。



「・・・それは、僕だったらどう思うか、で答えてもいいの?」
「・・・う・・うん」



クスクスと笑う庄左ヱ門が憎たらしい。
こんなに自分が勇気をだして相談したというのに。

何だか庄左ヱ門には大人の余裕があるように感じて、腹が立った。
いや、余裕という言うより、これは単なる腹黒だろうか。どちらにしても団蔵にとっては腹が立つ以外の何ものでもない。



「うーんと、仮に僕が年上の人を好きになって敬語を遣ってたら、僕はずっとそのままだと思う。途中で変えるのも大変だし、その人を敬ってることには変わりないし」



口元に手を添えて考えるのは、庄左ヱ門の癖だ。
この癖が出るときは、何かを一生懸命考えている時で。
自分のために一生懸命考えてくれているのかと思うと胸に温かなものがこみあげてくる。





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