利団部屋

□豪雨
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団蔵とは、極力会わないようにしていた。
自分の内に潜む欲望を知ってからというもの、団蔵を傷つけたくない一心で、利吉は意識して団蔵を遠ざけていた。
一番は忍術学園に来ないことが理想だが、そうも言ってられないのが現実。ドクたけが怪しい動きをすれば報告しなければならないし、母のことで言いたいことも沢山ある。来ない、なんて無理に等しいのだ。

だから、来た時には用事のみで済ませ、極力団蔵にも一年は組にも近づかないようにしていた。小松田からは「団蔵君が会いたがってますよ」と幾度となく聞かされたが、「仕事が忙しくてね。落ち着いたらゆっくり会おうと思ってる」と誤魔化してからはさほど聞かなくなった。

それでも罪悪感を感じないわけはない。
ここ最近、空は利吉の心を映したかのように雨ばかり。今日も今日とて朝から激しく雨粒が降り注いでいる。
そんな中、利吉はゆっくりと静かに忍術学園の門を開いた。いつもはギギギと古めかしい音をたてる扉も、この雨の前では何も聞こえない。耳に響くのは、ザーザーという機会音のような雨音だけ。

小松田の入門票にサインをし、父である山田伝蔵のもとへ向かう。
廊下はひっそりとしていて、どこぞやの教室から先生の声が聞こえてくるだけだ。この雨だから外で実技練習はできないのであろう。
利吉はそれを幸福に思った。こうやって雨が降っている間は、少なくとも教室へさえ向かわなければ団蔵と会う確率は低い。会いたいという想いは強いが、今の自分では会ってしまえばどうするか分からない。傷つけるよりは会わない方がマシだ。

放っておけば、この感情は消えてくれると思っていたが、そこまで浅はかな想いでもないらしい。むしろ、想いは深まるばかりだ。
ふとしたときに団蔵のことを考える。
何をしているんだろう、誰を見ているんだろう、何を考えているんだろう。
そのたびに、もう自分のことは嫌いになったのでは、と考える。嫌いになってくれた方が諦めがつくのに、好きな者には嫌われたくないという万人の思いは利吉にも消すことはできずにずっと胸を彷徨っている。そして、傷つけたくないという想いと、それでも好きでいたいという想いの間に悩まされるのだ。

今日も父と会っていてもどこか利吉は上の空で、何度となく疲れてるのではと心配された。そのたびに「いえいえ、平気です」と笑顔で返す。

肉体的疲労はない。ただ、精神的疲労は激しい。

こんな感情の対処法は知らない。団蔵が初めてなのだ。どうすればいいのかなんて、経験がないから分からない。
忍たまの友のように教科書でもあればどんなに楽だろうかと考えた。でも例えマニュアルやら教科書やらがあっても、人の心までは教科書どおりには動いてくれない。やはり結局は、これ経験なり、なのだ。



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